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CSCDスペシャルコラム

顔面疾患を有する患者と医師のコミュニケーション媒体、iFace誕生まで

伊藤 京子(CSCD助教)

顔面疾患を有する患者と医師のコミュニケーション媒体、iFace誕生まで

今年6月に電気学会第68回電気学術振興賞で「論文賞」と「進歩賞」の二つの賞を受賞したCSCD助教、伊藤京子さん。そのうち論文賞を受賞した顔面疾患を有する患者と医師とのコミュニケーション媒体、iFace(アイフェイス)の開発に関するコラムです。

伊藤 京子(いとう きょうこ)

大阪大学CSCD助教。専門は、ヒューマンインタフェース工学。人間同士のコミュニケーションを支援するツールの開発を中心として研究をすすめる。対象は、ネットワーク型議論支援ツール、アフェクティブインタフェース、リスクコミュニケーション、3次元合成顔表情など。


「iFace(アイフェイス)」は、1枚の顔写真から、数万種類の多様な表情を作成することができるソフトウェアです。「表情をつくる」、「表情トレーニング」、「履歴をみる」を行うことができます。

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「表情をつくる」は2段階に分かれています。第1段階目の基本設定では右側の大きな円の中から1点をマウスで選択すると、その点に対応した表情が左側に表示されます。楽しそうな顔に近い点を選ぶと左側の顔が楽しそうに変わり、怒った顔に近い点を選ぶと左側の顔が怒った顔に変わります。

iFace_anger.jpg iFace_smile.jpg

2段階目の詳細設定ではさらに細かくスライダバーを用いて、表情を調整できます。そして、設定した表情を目指して、自分の顔をWebカメラで撮った後、設定した表情と自分の顔がどの程度一致しているかがグラフで示されます。

このiFaceの開発の出発点は、私の学生時代まで遡ります。修士論文の研究テーマとして合成顔表情システムの開発とその利用に取り組んでいました。大阪大学着任後、そのテーマの発展として、ユーザインタフェースの観点を加えた合成顔表情作成支援システムの開発を進めていました。2005~2006年頃、大阪大学歯学部・歯学部付属病院の先生方の中に「顔」の研究を進めている方がいると知りました。当初、「歯学部」と「顔」の関連がわかりませんでしたが、歯は顔に影響するため、顔に関連する疾患を有する患者さんが、歯学部で治療を受けていることを知りました。そして、顔に関連する研究を進めるための意見交換を行うようになりました。

合成顔表情の作成を支援するユーザインタフェースの開発という観点から研究を始めましたが、最初に中心になってシステム開発を進めてくれた学生さんのモチベーションは、「こわくない合成顔表情をつくる」ということでした。というのも、私が修士論文で取り組んだ合成顔表情が、あまり親しみやすい「顔」ではなかったからです。このため、「自分の写真を1枚使って、自分の表情を自由に作れるシステムを開発する」ということが、最初の課題となりました。そして、そのようなシステムの利用方法として、「表情トレーニング」に着目しました。ニンテンドーDSに「顔トレ」というソフトがありますが、そのソフトの発売よりも先に、「表情トレーニングシステム」を当研究室では開発していました。

そして、その表情トレーニングシステムを、顔の疾患を有する患者さんの、例えばリハビリに使ってもらえないかと考え始めました。けれど、歯学部の先生方と意見交換をしているうちに、顔の疾患の治療時に顔の筋肉のリハビリは大切だけれども、もっと重要なことがあるとわかってきました。それは、顔の疾患を有する患者さんの言葉にできない悩みでした。患者さんに直接対応されるお医者さんは、患者さんになんらかの悩みがあることはわかるけれど、大学病院の医療面接の時間内にそれらを適切に把握することは困難な場合がある、と感じていること、けれどそれらにできるだけ対応したいと考えていることがわかってきました。そして、病院でできる治療の可能性と限界を適切に患者さんに伝えていくことを目指しているということ。開発した「表情トレーニングシステム」が、そのようなお医者さんと患者さんをつなぐ媒体にならないかと考え、研究を進めていきました。

一方で、システム開発の初期の段階から、当時コミュニケーションデザイン・センターに在籍し、デザインを専門とされていた、清水良介さんと一緒にシステムデザインを進めました。清水さんに、システムデザインに関して相談したところ、「研究の最初の段階から一緒に進めること」を条件に、デザインを担当してくれることとなりました。ロゴの作成を含め、画面設計などを行ってもらいました。開発したシステムを「iFace(アイフェイス)」と名づけてくれたのも清水さんです。2006年夏には、当時万博公園内にあったコミュニケーションデザイン・センターで、清水さん、研究室の学生さん2人と私の4人で、丸2日間、朝から晩までどのような設計にするのかを話し合いました。終わった後のお疲れ様会として、となりのホテルでみんなでディナーバイキングを食べたことを覚えています。

現在、iFaceは、顔の疾患を有する患者さんと医師とをつなぐコミュニケーション媒体としての利用を目指しています。有効性を評価するために、大阪大学歯学部付属病院で、患者さんに利用していただき、臨床現場でどのように利用できるかということの検討を進めています。一方で、患者さんとは異なりますが、2011年秋には、アメリカの大学生にiFaceを利用してもらい、異文化間コミュニケーションに向けた検討も進めているところです。
この研究を進めるにあたって、基礎工学部西田研究室の学生さん、先生、歯学部の先生方に大変お世話になりました。また、多くの実験参加者の方々に快く利用していただき、利用方法の検討を進めることができています。今回の論文賞受賞は、それらのみなさんのお力があってこそだと思います。

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ご興味がある方、是非一度、iFaceを利用してみませんか?かわいいロゴのスタート画面から始まり、簡易な方法ですべての操作を行うことができます。日本語版、英語版と用意しておりますので、日本語を理解されない方でも操作可能です。いつでも私の方までお声がけください。

(いとう きょうこ/大阪大学CSCD助教)