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CSCDスペシャルインタビュー

公共的な場で、新たなイノベーションのスタイルを見つける〜STiPSのこころみ

ラボカフェ「科学技術イノベーション」

公共的な場で、新たなイノベーションのスタイルを見つける〜STiPSのこころみ

2012年7月からスタートしたラボカフェ「科学技術イノベーション」シリーズ。科学技術が社会にとってより良いものとして発展していく条件とは何か?各界で活躍するフロントランナーをお招きし、「社会の中のイノベーション」という観点から刺激的な時間を共有することを目的に実施しています。今回はその発起人である神里達博特任准教授にお話を伺いました。

公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)

大阪大学および京都大学の連携による人材育成プログラム。科学技術の倫理的・法的・社会的問題(ELSI)に関する研究と教育を行い、政策形成に寄与できる「政策のための科学」の人材育成を目的としている。科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業の一環として、2012年1月に発足。



神里達博(かみさと たつひろ)

2012年4月より、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任准教授。科学史・科学技術社会論。STiPSプロジェクト所属。旧・科学技術庁、旧・三菱化学生命科学研究所、JST社会技術研究開発センター、東京大学工学系研究科GCOEを経て現職。これまでは主に、食や健康問題におけるリスクと社会の関係を扱ってきたが、最近はエネルギー問題にも関わる。

スタッフ紹介


-- 「科学技術イノベーション」というシリーズを始めた経緯について、お教え下さい。

神里: STiPSは、社会と科学技術の間のコミュニケーションを考えていくプロジェクトでもあります。そのSTiPSが行うカフェ「科学技術イノベーション」というシリーズには、二つの目的があります。一つは関西圏での科学技術イノベーションに関する、研究者の緩やかなネットワークをつくっていきたいということ。そのために、少しでも科学技術イノベーションという分野に関係のある方であれば、是非お話を伺いたいと考えています。二つ目の目的は、そもそも広い概念を持つイノベーションという考え方を多くの人と共有することです。イノベーションという言葉を聞くと、理系の分野での技術の発展をイメージすることが多いと思います。新しい半導体を開発するとか、速い飛行機をつくるとか、そういう直線的なイメージです。確かに、一般的にイノベーションは「技術革新」と訳されるのですが、実は元々、技術だけの問題ではありません。最近では例えば、ソーシャル・イノベーションという言葉があるように、社会自体の変革によって新しいテクノロジーがあらわれてくるということや、テクノロジーとの付き合い方が変わっていくということも、そこには含まれるでしょう。
 もともと、イノベーションとは、経済学者のシュンペーター(Joseph Alois Schumpeter)が言い出したことです。つまり、イノベーションというのは本来、広義の経済活動についての概念であり、非常に幅広いものなのです。技術の発展に限定した話ではなく、社会のテクノロジーのありようが変わるとか、生活スタイルそのものが変わるとか、そういうことも全部含めた概念なのです。現代の我々の生活を見てみると、科学技術がいたるところに影響を与えるようになっています。それによって考えなくてはいけないことが増えた、ということでもあると思います。STiPSではそのようなイノベーションを進めるときの社会の側の問題とは何か、あるいは、社会にとって良いテクノロジーであるために考えるべきこと、なすべきことは何か、ということを取り扱おうとしています。

-- どのような方をゲストとして招いているのですか?

神里:技術が社会を変え、社会が技術を変えるという相互作用があり、そこでキーになる概念がイノベーションであると考えると、イノベーションに関わる人というのは技術に詳しい専門家に限定すべきではない、ということになります。社会におけるテクノロジーとの付き合い方を考えている人であったり、新しい方法をつくっていたり、新しい制度を運用しようとしていたりする人にも、ゲストとして来ていただきたいと考えています。

-- STiPSの中で、「科学技術イノベーション」というシリーズはどのような位置づけなのでしょうか?参加者として一般の方が来られ、そこにゲストを招いてやり取りをするということが、STiPSにおいてどのような意味を持つのでしょうか。

神里:STiPSは「公共圏における科学技術・教育研究拠点」の略ですが、ここで公共圏とは何かと言った場合、科学者、技術者だけの話ではないのです。また、消費者だけの話でもなく、行政だけでもありません。私たちは公共圏を、色々な社会のセクターにとって、共通の"場"のようなものとして捉えています。つまり、社会全体のことを考えるコミュニケーション空間、ということです。そこで科学技術のことを考えていこう、というプロジェクトがSTiPSです。当初は、大学で研究会のようなことを開催しようかとも考えていたのですが、STiPS自体もできるだけ開かれた公共的な場でやるべきだということになり、アートエリアB1でのカフェ・プログラムとしてやってみようということになりました。私たち自身も、どこまでがイノベーションなのかということを最初から決めつけることはせず、むしろそこから新たなイノベーションのスタイルが見えてくるようなことを期待しています。オープンに、だんだんと広がって行くような活動になれば良いと考えました。
 実際にやってみると、毎回全体の7割くらいは新しいオーディエンスが来てくださるということが分かりました。そしてやはり、意外な質問が出てきます。それぞれの方にとってのイノベーションのイメージや、あるべき社会技術と社会の関係や、科学や技術について気になることというのが、それぞれ全部違います。そういうことが改めて分かりました。本当に興味深いです。

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-- 特に反響が大きかったテーマについて教えてください。

神里:毎回反響も大きく、一つに絞るのは難しいのですが、たとえば第二回目の「イノベーションと大学の役割〜アメリカの事例から」では、関西学院大学の宮田由紀夫教授に、アメリカの大学における科学技術政策についてデータに基づいたお話をいただきました。アメリカというのはすごく厳しい自由競争社会のイメージがありますよね。しかし実際には、アメリカは有力大学ほど連邦政府から多くの補助が出ている。実は非常に社会的にサポートされているのがアメリカの大学なのです。一方で日本では、大学はもっと自力で頑張らなくてはいけない、と言われていますよね。アメリカでは皆自力で頑張っているのだから、日本もそうでなくてはいけない、と。それは本当なのだろうか?という話になりました。

-- 考えさせられますね。

神里:一般の方はそういう話を聞いたときに、世の中の見方が変わったとおっしゃいます。そういう経験自体がすごく面白い、と。一見、大学で先端的な研究をしている人にしか関係無いような話であっても、普通の人にとって十分に自分の暮らしや生き方を変えるような衝撃をもたらす場合がある、ということです。私たちの中にも、専門的なものだから難しいとか、こういう話題には関係者しか関心をもたないだろう、というような思い込みがあります。そういう思い込みは、結構簡単に壊れるな、というのを感じました。
 影響を受けて、自分が変わる。それはある意味、他者が自分の中に入ってくるということです。自分が変容するというのはちょっと怖いことでもあるのですが、「学ぶ」というのは、本当はそういうものだと思います。今までに出ていただいたゲストも、同じことを感じているようです。

-- 一般の方から鋭い質問が投げかけられたり、ということもありますか?

神里:はい、ありますね。専門家同士なら暗黙の了解でそこは触らない、ということについても、質問があったりします。そしてそれがしばしば本質的な問題だったりします。そういう質問があると、受ける側は少し気持ちがザワザワっとするんですよ。ゲストは知識を授ける役割だと考えている人もいるのかもしれないですが、実際はそういう風にはなりません。そういうことはもちろん、あらかじめゲストにも伝えているのですが。そういうコミュニケーション自体が、イノベーティブだったりするから、このシリーズは二重の意味で"イノベーション"なのかもしれません。

-- となると、ゲストの方にも結構、タフさが求められますね。

神里:そうですね、たとえば専門家は、机上の空論じゃないの?と言われるのが辛いですよね。私自身、過去にそういう経験があります。しかしある意味、研究者というのは、机上でしっかり空論しなきゃいけないところもあると思うんです。大切なのは、空論の後にそれを社会とつなぎなおす、ということでしょう。当然、どんな研究者も日々、研究をブラッシュアップしているのですが、一般の方から「でもそれって、どういう意味があるんですか?」と問われることの衝撃はあると思います。無防備で自分の体を差し出すというか、裸で自分の研究が問われる、みたいな。でもだから、面白いのですよ。それは、自分の仕事の意義が、公共的な場でしっかり認められるチャンスでもある。実際、カフェを終えた後のゲストは、例外なく良い笑顔をされていました。

-- ありがとうございました。