大阪大学 COデザインセンター

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スペシャル対談
対談

大阪大学COデザインセンターが見通す未来、果たす役割

藤田 喜久雄×池田 光穂
2016年5月25日(水) 投稿

藤田 喜久雄(超域イノベーション博士課程プログラム プログラムコーディネーター)
大阪大学教授(大学院工学研究科機械工学専攻)。
専門は設計工学、中でも、上流設計の方法論、複合システムの最適設計法、超システムの設計法。2011年より、超域イノベーション博士課程プログラムのプログラムコーディネーター。
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池田 光穂(COデザインセンター 副センター長)
大阪大学教授(COデザインセンター 副センター長)。
専門は中央アメリカの民族誌学と医療人類学。他に、科学人類学や医療社会学と「進化生物学」との統合化について考察中。2015年8月〜2016年6月、CSCDセンター長。

2016年5月25日
大阪大学 テクノアライアンス棟にて

分断した「知」をつなぎ、社会に実装する人材の育成

藤田:私が専門にしている設計工学は30年ほど前から研究が本格化した、比較的新しい学問分野です。例えば工学部が方々でできはじめた約100年前、プロダクト(工業製品)といえば、蒸気機関や発電機、身の回りの家具などがあった程度でしょうか。それ以降、急速なスピードで多様な人工物が産み出され、現在、我々は人工化されたモノに囲まれた社会に生きている。そして、それらの中にあって、社会を根底から支える重要なものに発展したプロダクト自体(高速道路や大型構造物など)も、巨大化・複雑化しながら、最初の寿命が尽きる時代に入ってきました。今までは、ある意味「作りっぱなし」ができたけれど、継ぎ目なく社会に供給し続けるためには、そういうわけもいかない時代になったというか。プロダクトの設計も当初は、それぞれの分野ごとにノウハウが蓄積され、個別に効率化が図られてきた経緯があります。でも人工物の多様化、複雑化が進む中で、より抽象度の高い設計工学が重要になってきた。設計工学のミッションのひとつは「対象物は特定せずに、設計そのものをいかに合理的に行えるか」を考えることです。しかし今や、設計には多様な人間が関わり、また対象とする社会環境も複雑です。考慮すべき領域が飛躍的に広くなって、専門家を育てる上でも、昔ながらの専門毎の大学教育だけでは間に合わない時期に来ていると感じています。

池田:私は文化人類学が専門です。そしてCSCD(※1)で「現場力」をテーマに臨床現場(主に医療や介護現場)の人たちと研究を続けてきました。
CSCDでは、今日では「アクティブラーニング」と呼ばれるようになった、対話型授業などに取り組んできました。11年間やってきて、最初はめずらしかった「対話重視」の授業スタイルは、他の教育機関でも一般的になってきたという実感があります。でも一方で、その取り組みをマニュアル化して外部に出した途端に、陳腐になってしまった。「対話を非常に重視するのですね」「その中にあっても対話のモラルを考慮する必要もあるのですね」と端的に言われてしまうと、ちょっと違う、と感じるわけです。そういう意味で、これからはCSCDでの実践内容を「プロダクト」にも埋め込んで、取り組んでいかなければいけない。

例えば対話型授業で「権力の集中をどう考えるのか」という議題を与えたとしましょう。彼らは受験用の知識としてホッブズのリヴァイアサン(※2)は覚える。でも知識やアイディアは断片化しているので、実際にその知識を「自由につなげて論じることができるよ」と教えても、すぐにはできない。数百年の議論の積み重なりをいきなり使いこなすことは難しいでしょう。でも「他者の思想や視点の追体験」は可能です。同じようにプロダクトに対しても「多くの人の意見を集約し、設計し使い、改良して...を繰り返して適切なところに落ち着いているのが、いまこの目の前の人工物なんだ」という想像力を持って、問題に取り掛かる必要がありそうです。

藤田:そうですね。我々の手元に蓄積されているせっかくのノウハウや論文も、その想像力を下敷きにしながら「解き方のプロセス」も合わせて教育しないと、使いものにならない。それが教育で身に付くか、という別の問題もありますが、いずれにしても現在の産業界でも求められていると感じるのは「大きなしくみを組み立て直す力」です。つまり、「課題はこれです」と課題そのものを創造しながら現場に入っていくと同時に、多様な関係者や複雑な環境のもとで解き方にまで踏み込むプロジェクト、そのプロセスをマネジメントしていける人材ですね。

実践と研究を行き来しながら鍛える「高度汎用力」

藤田:今回、COデザインセンターの基本となる考え方のひとつとして「高度汎用力」という言葉を創りました。まだ抽象的な概念でしかないのですが、「人をつなぎ、知識をつなぎながら、何かを創出する力」と考えています。COデザインセンターでは、その力を育む教育や研究をしていくことになるでしょう。

池田:「高度汎用力」は、我々が「現場力」について考えてきたことと、非常に近いものです。例えば救急搬送の現場を考えると分かりやすいと思います。医療の知識がある人が、倒れている人をみた時にまず何をするのか──それはもちろん経験や知識に裏付けられて判断するしかないんだけれども、実際には、コトを動かしてみないと分からない。人がひとりでは解決できない事態において、手伝ってくれる人の技量、救急搬送システムも含めてまるごと考えていかないと、うまく回らない。この場合、「現場力」というのは個人単体の中に内在する力ではなくて、人間と人間の関係の間にできる力なのです。そして同時に、その人の知識や経験がどういう文脈で活かされるかによって、汎用力の強度も変わってくると考えています。

学校教育では正解があるという思い込みがまだ強いです。CSCDの授業でも学生に「答えは何ですか?」と聞かれることがあった。それに対して「私が伝えたいことはある。でもそれはあなたがこの授業で得たものと、必ずしも合致する必要はない。合致しなかったことは失敗ではない」と伝えていました。「現場力」すなわち「高度汎用力」を磨くためには、失敗を恐れないという「人間のタフさの源泉」を伸ばすことも、重要になりますね。

藤田:超域イノベーション(※3)の授業でも実践的なプロジェクトを題材にしていると、「答え」を探しに行く学生がいるのは事実です。実はこちらも答えを持っておらず、そこに至る組み立て方を獲得してほしいと考えています。当然、授業なので、厳密な意味での実装まではいかないけれど、極端な言い方をすると、たとえ使えなくても「一度やってみた」ということに価値があるのです。良い悪いを評価する、ダメだったら引き返す、足りなかったら付け足す...。プロジェクトが進む時間軸の中で、頭の使い方を訓練するということですね。

今後の社会における新たな大学の役割は、広い社会に蓄積された、膨大な「実践」を整理し理論化する、そしてそれを教育コンテンツに転換する。授業で実践をしながら、理論も俯瞰させる。それを行きつ戻りつさせて「高度汎用力」を磨くことだと考えています。そして、世の中の多様な組織を見渡した時に、それを担えるのは一番広い研究・実践領域をカバーできる総合大学だと思います。

「課題に関わる」教育手法を組み立てる

池田:その時は「大学と社会」「理論と実践」という二分法ではなく、グラデーションの中で考えることがより重要になりますね。実践の最中に「いま自分はどこの立ち位置でこれをしているんだ」ということを常に自覚する、場所感覚のようなもの。「諸条件や外部環境に最もふさわしいものはなんだろう」と考えながら下す判断は、「高度汎用力」の能力の大切なレパートリーになるでしょう。実践の中の「おさえどころ」、つまり「課題をつかまえる力」とも言えると思います。

藤田:その通りです。「課題に関わる教育」というテーマは、今まさに広い領域で注目されていると感じています。個別の専門から切り離して、そのテーマに大きく軸足を置いた時に、課題発見、課題解決、社会実践をどういう体系の中に据えて、どのように教育すればよいか。それをちゃんと筋を通して、ある種の柱を立てなければいけない。10年20年来、あちこちでそういうタイプの教育がなされてきていると思います。それらのあり方を問いながら、COデザインセンターでは大阪大学流に、教育手法を定義できれば非常に価値のあるものになるだろうと考えています。

藤田:よく「イノベーション」という言葉が出てきます。超域イノベーションの経験の中で感じているのは、イノベーションは「一からすべて組み上げること」だけではなく、今後は「既存のしくみに何か新しいことを少し入れ込む、あるものを組み合わせる、ちょっとした変化を起こす」タイプのものが、メインになってくるのではないか、ということ。そしてもうひとつ、教育という観点で言うとコーチングの役割の大きさも見えてきました。授業の中で課題発見・課題解決のプロジェクトを経験した学生が、翌年にはTA(Teaching Assistant)としてプロジェクトをサポートする。TAは1年目にやった自分自身の右往左往を振り返りながら、ある種、第三者として眺める視点を獲得できる。その中で観念的に、考え方や手法だけが自分の中に浮き上がってくるようです。

池田:古典的な意味でのイノベーションは非常に才能のある人が一人で行うようなイメージがあるけれど、そうではなくて「組み合わせである」と言われるのは、腑に落ちますね。イノベーションはチームが担っていくということ。教育論としてのTAの役割も共感できます。冒頭に「他者の思想や視点の追体験」という言葉を出したのですが、それに通じることでしょう。リーダーはひとりではリーダーになれない。フォロワーもいてこそのリーダーなのです。フォロワーをどう教育するのか、あるいはフォロワーからどのように見られているのか──COデザインセンターでは、常に視点をずらしながらものごとを見つめつつ、課題発見力・課題解決力・社会実践力を磨く環境を整えて行きたいと考えています。  《了》