大阪大学 COデザインセンター

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スペシャル受講生インタビュー
「横断術特論A(郊外再生プロジェクト)」

受講生インタビュー

粘りに粘って、議論を楽しむ。だからこそ起こる化学反応
2017年9月13日(水) 投稿

 COデザインセンターには、「横断術特論A(郊外再生プロジェクト)」という授業があります(※)。シラバスには「能勢電鉄沿線(1市3町)をフィールドとして、地域コミュニティの抱える問題や課題を理解した上で、まち・みちづくりをどう進めていくのか、またそうした地域の課題に地域の人びとが主体的にかかわっていくために何が必要なのかについて考え、その対策を沿線住民や事業者に提案することを目的とする。具体的には、受講生それぞれの背景(学部、出身者、経験等)を踏まえた上でこの地域の課題を見いだし、グループワークにより、その課題に向けての提案を関係者にプレゼンすることを考えている。」とあります。

 いったい、どのような授業なのでしょうか。
 2016年度にこの授業を受講した学生お二人にお話を伺いました。


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話し手:
井内 琢斗さん 外国語学部外国語学科ドイツ語専攻5年生 , 近藤 成美さん 理学研究科化学専攻博士前期課程1年


授業の「多様性」に魅力を感じて


−この授業を受けようと思ったきっかけを教えてください。

井内さん:
 僕は大学4年生の春から1年間ドイツに留学していました。それをきっかけにまちづくりに興味を持つようになりました。今は、将来まちづくりに関わることができたらいいな、と思っています。
 帰国してまちづくりについて学びたいと考えていたとき、シラバスを見ていたら、「実際のまちづくりがどういうものか学ぶことができる」という授業説明を見つけ、これは自分にぴったりだと思いました。

近藤さん:
私の場合は、コミュニケーション・デザインのことが勉強したかったということが授業を受けようと思った理由です。


−コミュニケーション・デザインに興味を持った理由は、どのようなものだったのですか。

近藤さん:
 私は、学部生のときはそれほど教養科目に興味を持てなかったのですが、その後所属する研究室が決まり本格的に自分の専門に取り組み始めた頃、もう一度教養を学びたいと思うようになりました。ちょうどその頃、COデザインセンターがあることを知ったのです。
 まちづくりは生活に近いものですよね。「多様な人々が存在するという前提で、まちづくりは皆に関わるもの。だから皆で考えよう」というものごとの捉え方に興味を持ちました。フィールドワークとして実際に現場に出て学ぶことができるということにも魅力を感じました。
 最初は、気軽にオリエンテーションに参加したのです。それこそ「面白くなかったらやめよう」くらいの気持ちでした。でも実際は、参加していた学生が全員非常にユニークだったので、すごく面白い、やってみたい、と思いました。この授業の持つ「多様性」に惹かれました。それくらいすごかったのです、皆の個性が。話をしていても、「この人はこういうところに関心があるんだ」というのが、強く伝わってくるようでした。


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<将来的にも「まちづくり」に関わりたい、と話す井内さん>


手厚く議論を見てもらう、という貴重な経験ができた


−授業の内容はどのようなものだったのですか。

井内さん:
「能勢電鉄沿線地域のまちづくり、地域づくりを、自分自身の持つ背景を活かして考える」というテーマに取り組みました。最終15回目(注:2017年度の授業計画では12回目)の授業で企業の方、地域の方に自分たちの考えたことを実際にプレゼンテーションをしました。
 授業は、専門家、市民、行政の方、そして能勢電鉄の方からお話を聞くことから始まりました。様々なステークホルダーや学問分野からの視点を獲得することが目的です。その後はフィールドワークを行いました。能勢電鉄を自由に乗り降りできるパスを支給してもらい、現地に足を運びました。
 中間報告が7回目の授業に設定されていました。そこで、自分たちのアイデアの素案を報告することになっていました。


−どのようなアイデアが出たのですか。

井内さん:
 「能勢電鉄沿線地域を恋愛スポットとしてPRできるのではないか」というアイデアや、「里山という資源に着目してそこに理科教育を絡めることができるのでは」というアイデアがでました。僕は「大学コンソーシアムのようなものを作り、教育面からの地域ブランド確立を狙いたい」というアイデアを出しました。

近藤さん:
 私は「多様な人々が参加することができる学会のようなものを作りたい」という提案をしました。例えば研究者がその地域で行った研究の報告をしたり、小学生がこんな虫をこの地域で見つけたよという話をしたり、ということができる場です。もしそういう場があれば、この授業で実際に起こっているような良い「化学反応」が起きるのではないかと考えました。


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<井内さんの中間発表の様子。緊張感が伝わって来ます。>


−中間報告に対する評価はどのようなものだったのですか。

井内さん:
 実際、かなり厳しい評価をいただきました。まだキーワードが固まっておらず、明確なビジョンを説明するまでに至っていなかったのです。的確な言葉で説明できないために、一生懸命説明しようとすればするほど聞いている側は混乱してしまう、という感じでした。

近藤さん:
 その時にはまだ分かっていなかったのですが、中間報告はとても大事ですね。こちらが考えている方向性に対して聞き手からいろいろな意見をもらえるよう、投げかけをしなければいけない。今だったらもう少しできる気がしますが、その時はまだまだでした。


−それでは、中間発表から最終報告までの間に、もう一度企画を練り直したのですね。

井内さん:
 2階の講義室の壁一面のホワイトボードが文字で埋めつくされるくらい、多くのアイデアを皆で出しあいました。そして全員で、出てきたアイデアをひとつひとつ分析しました。近藤さんがリーダーになって全体を見てくれました。

近藤さん:
 出されたアイデアをそぎ落としていく、絞っていく、という議論ではなく、このアイデアとこのアイデアはこの部分が違うから分ける、あのアイデアとあのアイデアはこの部分が同じだからひとつにする、という整理をひとりひとりがきちんとやりました。もちろん出されたアイデアに対して「これはどういう意味?もう少し詳しく教えて」とか「この視点を入れてみたらどう?」という質問や提案というものはありましたが、そこにいる全員がひとつひとつの意見を大切にしていました。
 とにかく、議論には時間をかけ、そして粘りに粘りました。先生は、学生5人が輪になって議論しているところを一歩後ろから見守ってくださっていました。そして、「ここは入った方がいい」というタイミングで議論に入ってくださいました。そうやって多くの先生に手厚く議論を見ていただいた、というのは私たち学生にとって貴重な経験だったと思います。


−よく粘りましたね。その粘りはどこから来たのでしょう。

井内さん:
 僕の場合、中間報告に対する評価への悔しい思いからです。「実際に地域を動かすことができるような企画を提案したい」という僕自身の強い思いがあったにも関わらず、中間発表では「実現性という観点から言って、ビジョンが全然見えない」というコメントをもらってしまったのです。
 一方、僕の中には、様々な学問分野から持ってきた知識や人からもらった意見をどういうふうに自分の中でまとめたらよいのか、という悩みもありました。気づけば「これは本当に自分の意見なのだろうか?」という迷いを持ってしまっていました。その迷いをなんとかしたい、という気持ちが非常に強かったです。


−近藤さんの粘りはどこから来たのでしょう。

近藤さん:
 中間報告の時点でまだ全然まとまっていなかったものを、最終報告までになんとかしてまとめあげたい、行き着くところまで行きたい、という気持ちでした。
 15回目の最終報告の授業の直前はすごく忙しかったことを覚えています。14回目の授業の時点でやっと発表する内容が形になった、という状況で、そこからスライドを作り始めたのです。伝えたいことがたくさんありすぎて、何が一番言いたいのかを明確にするのをとても難しく感じました。


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<直前まで準備に準備を重ねた最終報告。多くの方々が会場にお越しになりました。>


混沌としたものが全て整理された、という気づき


−産みの苦しみですね。でもお話しているお二人はとても楽しそうにお話されますね。

近藤さん:
 はい。この授業はとても楽しかったです。


−どういうところが楽しかったですか。

近藤さん:
 この授業はとても新鮮でした。自分のアイデアを半年かけてまとめあげる、という経験は、今まであまりありませんでした。

井内さん:
 僕は最終報告直前の14回目の授業で大きな気づきがありました。先生から「元々自分が考えていたことに戻りなさい」というアドバイスをもらったのです。そのとき、自分のやりたいことがパッと見つかりました。今まで皆と話してきたことや、自分の中で考えてきたこと、先生から突っ込まれたことなど、混沌としていたものが全てきちんと整理された、という感覚を持ちました。それにとても感動しました。14回目の授業の時点で未完成だったのに、15回目の最終報告できちんとプレゼンまでもっていくことができたのは、この気づきがあったからです。

近藤さん:
 最終報告当日はとても緊張しました。外部の企業の方に対してプレゼンテーションするという機会はなかなかないので。みんな手が震えていましたね。私たちにとって非常に良い機会だったと思います。最終報告で企業の方や地域の方にきちんとした報告をしたい、と思ったからこそ、最後まで頑張れたというところもあると思います。


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<「この授業は本当に楽しかった」と話す近藤さん。>

異なるバックグラウンドを持つメンバーによる「化学反応」


授業を運営されていた辻さんは、学生たちの活動をどのように見守っていたのでしょうか。お話を伺いました。


話し手:
辻 寛 COデザインセンター特任助教

−最終報告はどのようなお気持ちで見ておられたのですか。

辻さん:
 発表する時間が短すぎると感じるくらい、非常に良い内容になっていました。最終報告が楽しみで楽しみで仕方がない、という気持ちで活動を見守ってきました。そこまでの皆の議論を聞いてきて、多様な意見を粘り強く練り、積み上げてきたことを知っていましたので。


−授業に参加した学生たちはとても楽しんでいたように見えます。

辻さん:
 私は「化学反応」というものも非常に重要だと考えています。今回の授業では、井内君や近藤さんのように異なるバックグラウンドをもった学生が集まったことで、非常に多様なアプローチが見られ、それが化学反応を引き起こしたと捉えています。学生たちは、全員で出てきたアイデアを分解し、目的との関係性を考えたり、アイデア同士を比較して違いを見つけたり、深くじっくりと議論しながら、本質的に共通している文脈を見つけていこうとしていました。そうしていくうちに、徐々にひとつの形が見えてきました。
 よいメンバーが集まったということももちろんですが、少人数だったからこそできたこと、かもしれません。学生たちを見ていると、課題が設定されているからそれをやるという気持ちよりも、「自分が設定している目標を達成したい」「達成してやるぞ」という気持ちを強く感じました。「僕はこうしたい」「私はこう思う」という熱意、熱量が非常に高かったと思います。


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<打ち上げのバーベキュー。とても楽しい時間だったそうです。>

以上

(※)「横断術特論A(郊外再生プロジェクト)」:詳細は「気になる社会課題から考えるーソーシャルデザインー」のページからご覧ください。
科目名をクリックすると、シラバスを見ることができます。


◆ 所属、科目名等はインタビュー当時(2017年3月)のもの。
(聞き手:森川 優子/大阪大学COデザインセンター特任研究員)