山崎 吾郎 特任准教授(文化人類学)

【教員 interview】複数の視点に触れ、世界が多様であると知ることで、人間の理解は豊かになる

 COデザインセンターで様々に展開される授業や活動。それらにどのような教員が関わっているのか。教員にインタビューするシリーズ、今回は、山崎 吾郎 COデザインセンター特任准教授です。

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 山崎さんは、文化人類学の研究を行う一方で、超域イノベーション博士課程プログラム(※1:以下、超域プログラム)において、カリキュラムの開発や授業の運営に携わってきました。超域プログラムでは、プロジェクト型科目である「超域イノベーション総合(※2)」をはじめ、授業やプロジェクトを通じてさまざまな研究分野の大学院生を指導するという顔も持っています。

 一見、関連がないようにも見えるその二つは、山崎さんの中でどのように関連づけられているのでしょうか。お話を伺いました。

(聞き手:水町 衣里/大阪大学COデザインセンター特任助教)

山崎 吾郎 特任准教授

専門は文化人類学。2012年より博士課程教育リーディングプログラム(オールラウンド型)超域イノベーション博士課程プログラムに関わる。著書に『臓器移植の人類学-身体の贈与と情動の経済』(世界思想社 、2015年)ほか。

何が問題なのかについて、みんなの考えがずれている

水町:
山崎さんは、2015年に『臓器移植の人類学-身体の贈与と情動の経済』(世界思想社、2015)を上梓されました。研究テーマとしてなぜ臓器移植をとりあげたのでしょうか。


山崎:
ちょうどこの研究をはじめた2000年頃は、人類学の研究テーマが大きく変化しはじめて、方法も多様化した時代だったように思います。グローバル化が急速に進行したことで、多様性というキーワードに注目が集まったり、一方で、社会の仕組みもそこで生じる問題もとても複雑になりました。それで、複数のフィールドにまたがる調査を行ったり、近代的で合理的だとされる社会や組織の研究をしたり、新しいテーマを探求したりと、研究の方向性にいくつも分かれ道ができはじめたのです。

臓器移植は、日本では1997年に法律が制定されましたが、そこに至るまでにすごく大きな論争がありました。でも、議論はほとんどかみ合っていないような状況だったんですね。それを見て、何が起きているのかと知りたくなったのが最初のきっかけです。それに、臓器移植のなかに出てくる「贈与」、「身体」、「人格」といった話題は、人類学では多くの知見が蓄積されているテーマでもありました。なので、人類学のこれまでの議論を踏まえて臓器移植について考えたら面白いことがわかるのではないか、という直感があったのだと思います。


水町:
その直感を働かせたのは、修士の時ですか。


山崎:
「このテーマでやろう」と決めたのは、修士論文を書く時だったと思います。


水町:
その直感はどこから生まれたのでしょうか。


山崎:
最初のうちは、「この問題は、別の問題と関係しているはずだ」とか「一見問題にみえるけど、実は本当の問題は別のところにあるはずだ」とか、いろんな文献を読んだり資料を眺めたりしながら、とにかく考えられるだけ考えて自分なりの理解を組み立てるわけです。そのあとで、実際にどうなっているのかを知るために調査をはじめるのですが、最初はあれこれと考えるなかで、「これは絶対に研究テーマになるに違いない」という思いがあるのです。


水町:
確かに。ボーっと見ていても研究テーマは見つからないですものね。


山崎:
でも、だいたい最初の直感は裏切られることが多いんですよ。「調査をしてみて当初の仮説が裏切られないのなら、面白い研究にはならない」ということは、学生の頃によく言われました。考えてわかるようなことなら、わざわざ足を使って調べる必要はないですからね。私の場合、実際に関係する人の話を聞き始めたら、考えていた以上に複雑な関係性がみえてきたのです。それで、「ここはもっと深く掘る必要があるな」と思って、そうなったら、あとは引き込まれていくというか、突っ込んでいくというか。


水町:
複雑な関係性・・・それが見えてきた時は、どんな気持ちだったのですか。


山崎:
これは絶対研究として取り組む価値があると思いました。というのも、みんなが「これが問題だ」ということを整然と説明できたら、そういう問題はだいたい解決策もわかっていることが多いんです。もちろん、それが実行できるかどうかはまったく別の問題ですけど。でも、本当に厄介な、人文学の問いになるようなテーマというのは、そもそも何が問題なのかについて、みんなの考えがずれているということが多いように思います。臓器移植に関してもそういう状態でした。全体が見えている人は誰もいない。どちらの方向へ進んだらいいのか、それぞれがそれぞれの立場で言いたいことを言っている。だから、聞く人によってまったく違う答えが返ってきたり、違う説明の仕方をしたりするんです。そんなことがわかってきて、これは研究として取り組む意味があるなと思いました。

抽象的な言い方になりますけど、 人類学の究極的な関心というのは、「人間の社会がどういうふうにできているか」、「人間がどういうふうに生きているか」を知りたいというものです。だから、他の現象と比較して論じようとします。臓器移植について考える場合にも、それだけを見ているのではなくて、例えば、株式市場みたいな全然違う事象との比較を試みたりします。通貨がない社会についての、過去の人類学の研究を参照したりもする。「ものを交換する」という基本的な行為について、さまざまな人間の社会で、どういった共通点や相違点が見いだせるのか、ということを考えながら比較するのです。

17051602.jpg<山崎さんが2015年に出された『臓器移植の人類学-身体の贈与と情動の経済』(世界思想社)>


水町:
「直接的に」比べてみる、ということをしているわけではないのですね。


山崎:
はい。たとえば「贈与」という言葉も、同じような概念が、いろんなケースで出てきますが、よくよく考えると違う意味で使われているんですね。もちろん、共通する意味も含まれている。そういった概念とか実践のレベルでの比較です。共通する指標や集団があって比較するわけではないので、いわゆる自然科学の方法とはすこし違います。個別の事象だけを論じていたら、多くの人にとっては「私とは関係のない話」となってしまいますよね。でも、特殊にテーマにみえるが、実はすごく身近で基本的な考え方が関わっているということもあるわけです。臓器移植についてもまったくそうで、たしかに誰しもが直接経験するものではないかもしれないですが、それでも多くの人が共感するなり反感を持つなりできる話題です。日々の生活のなかで本当は漠然と感じたり、考えたりしていることが、強烈なイメージをともなってあらわれる出来事なのだと私は思っています。そして、遠くにあるようにみえて本当は身近な問題を自分ごととして捉えるには、比較することが有効なのです。


水町:
本を出したことで、この研究には一区切りがついた、という感じなのでしょうか。


山崎:
区切りは区切りですね。でも、本を出すと、これまで全然知らなかった人が読んでくれたり、思いがけない反響があったりして、そこから新しい展開が生まれたりもします。中には全然違う受け取り方をされる場合もありますけど、それも含めてすごく新鮮でした。なので、今後もそういう反響のなかで何かしら継続したいと思っています。


人類学と超域プログラム

水町:
山崎さんは、超域プログラムに、どのくらいの時期から関わっているのですか?


山崎:
2012年なので、プログラムの準備が始まってから1年たった頃だと思います。1期生が入ったばかりで、まだカリキュラムの全貌もみえてませんでした。そこで、他の教員や学生と協力しながら新しい科目やプログラムの細々としたルールを作っていったのですが、一から新しい仕組みを作って動かすという経験ができたのは、とても貴重だったと思います。


水町:
どういうきっかけでそういう仕事をすることになったのでしょうか。


山崎:
どうしてでしょうね・・・。人類学の研究をしてきたということは、少なからず役にたっているかもしれません。人類学の研究ではフィールドワークをするので、そうすると、例えばアクティブ・ラーニングとか、PBLというスタイルの授業は、すごくなじみのあるものに感じられるんです。正直に言えば、着任した当初はそこまで詳しく知らなかったのですが、実際に調べ始めたら、「なんだ、これは自分がやってきたことだ」とすぐに思い当たることがたくさんありました。問題を中心にすえた学習(problem based learning)とか、プロジェクトによる学び(project based learning)とか、デザイン思考(design thinking)とか、目新しい呼び方がたくさんあるのですが、研究でフィールドワークをしていたら、実は似たことをやっているんですね。だから、ノウハウとまではいかないですけど、やるべきことやその意味はすぐにピンときました。

「超域」というコンセプトも、個人的にはなじみの深い考え方です。というのも、調査をしていると必ず専門家と話をする場面が出てきます。僕自身も、医者や看護士と話をしたり、法律家とか政治家とも話をしました。話を聞く相手が研究者だったり、ジャーナリストだったこともあります。いろんな立場の、さまざまな経験をした人たちから話を聞くことになります。いろんな視点や考えの人たちとどんなふうにつきあいながら、あくまで自分の研究として成り立たせられるのかというのは、博士論文を書くときに随分悩んだことのひとつです。その経験と超域プログラムの理念は、結構つながっていると思います。


水町:
「調査のスキル」といったものになるのでしょうか。


山崎:
「スキル」って言ってしまうと、何か体得すべき知識のセットのように聞こえますけど、調査法って、本当は「知りたいこと」とのセットで考えなければいけないものです。で、困ったことに、大事な問題に限って「何を知ればよいのかがそもそもわからない」という段階があるものなんです。何を知ればよいのかがはっきりわかっているなら、スキルの使いみちもあるんですけど、本当に調査の最初の段階では、スキルに頼っているとむしろ見えなくなってしまうことがあります。なので、人類学の調査って、結局のところ実地で学ぶしかない部分もたくさんあると思います。


水町:
山崎さんが考える、超域的なPBLの特徴を教えてください。


山崎:
「超域イノベーション総合」には大きく3つの特徴があると考えています。1つは、これはリーディング大学院の特徴でもありますが、受講する学生の専門が多様だということです。大学院生なので、受講者はそれぞれ専門的なバックグラウンドを持っていますが、それがバラバラなので、そもそもコミュニケーションが円滑には進まないんです。そもそもの関心が違うし、前提や目的が違っているとか、それこそ、同じ言葉を違う意味で使っているということもざらにあります。そこが、研究科とはまったく違うところです。でも、その多様さを受け入れて乗り越えようと努力するからこそ、新しいアイデアが生まれたり、新しい気づきがあったりもするんですね。

もう1つは、課題を提供する人が実際に存在するということです。「超域イノベーション総合」では、当事者が本当に困っている課題に取り組みます。課題を提供してくれる方には、「この課題に取り組まなければ」ということはわかっているけど、日常が忙しすぎて手が回らないとか、どうやってアプローチしたらいいかわからないというものを持ってきてもらいます。そもそも何が本当のところ課題なのかよくわからない、というのでもいいんです。そういう課題をお借りして、課題の再定義からその課題を解決するための提案まで行うプロジェクトだということです。これは、研究とはちょっと違った課題への取り組み方になります。

最後の1つは、予算も期限も全部区切って、「この日に開始して、この日に終了する」と決めていることです。これも研究と違う点です。納得いくまで調査をするとか、結果が出るまでいくらでも時間をかけていいというわけではないんです。予定を決めて、いつまでに報告書を出さなければいけないという形で調査をはじめます。それは学生にとっては相当に厳しいことだし、正直にいえば、僕自身も最初は戸惑いました。なにしろ、博士論文を書くのに5年も6年もかけてきたわけなので、同じことを学生に8ヶ月でやりなさいとは到底いえない・・・。でも、そうした制約条件のもとに成り立つプロジェクトが実際にはたくさんあるということを知るのは、大事なことだと思います。


水町:
教員は、どこまで介入するのですか。


山崎:
それは難しい問題ですね。プロジェクトに付き合っていると、つい学生の議論に参加したくなるんですよ。ただ、原則としては、なるべく介入しないことにしています。もちろん、それだけだと上手くいかないこともあるし、適当なタイミングを見計らって「こういう状況だったらこうしたらいいのではないか」とアドバイスをすることもあります。いつ、どういうタイミングで、どういうアドバイスをしたら良いかは、正解があるわけでもないので、経験しながら徐々にわかってくることも多いです。口を出しすぎると、せっかくの学びの機会を奪ってしまうことになるし、学生主体のプロジェクトという意味合いも薄れてきてしまうので、そのバランスが難しいところです。


水町:
教員一人あたり何人の学生を見ているのですか。


山崎:
学年にもよりますが、1チーム4~5名を教員1人でみている感じです。昨年の例だと、直接みていたのは4人の学生からなるチームでした。

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<「超域イノベーション総合」の様子。企業の方も参加し、少人数で活発な意見交換がなされる。>

水町:
どのようなプロジェクトだったのですか。


山崎:
滋賀県にある廃校となった小学校の活用方法を提案するというプロジェクトです。地元で地域おこしに取り組むNPOの担当者と協力しながら行いました。滋賀県ではあまり廃校活用の先例が多くなくて、その地域でも住民が主体となって廃校を活用するという経験はそれまでなかったので、どういう使い方をしたらいいか一緒に考えて欲しいというのが課題でした。


水町:
そういうテーマはどうやって探しだすのですか。


山崎:
これもケースバイケースですが、「こういう仕組みの授業を考えているので、協力してもらえませんか」と依頼することが多いです。もう4年目になるので、最近は相手のほうから、このテーマでプロジェクトをやりませんかと提案していただく機会も少しずつ出てきました。一緒にやりましょうということになったら、取り組む課題や大まかなスケジュールを調整して、授業を作り込んでいきます。


水町:
結構手間ひまかかっていますね。


山崎:
そうですね。ものすごく手間ひまかかっていますね。プロジェクトに適したテーマを見つけてこないといけないし、与えられた課題に対して何らかの「成果」も出さなければいけません。それに、教育的な効果とか学生のモチベーションの維持といったことも考えなければならない。そのバランスは非常に難しいですが、幸いなことに、いまのところ、課題提供者の反応も、学生の反応もまずまずだと思います。


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<「超域イノベーション総合」では、現場に赴いての調査や報告も行われる。>

新しい発見に立ち会えるような場を用意して、そして自分も一緒に学んでいく

水町:
人類学と超域プログラムは、山崎さんのなかでどう両立されているのですか。


山崎:
超域プログラムは、研究の延長線上にある活動という感覚はあります。人類学者というのは「なじみのない世界にあえて浸ってみることで、あたりまえだと思っている世界観を揺さぶって、考えを豊かにしていく」ということを意識的に方法としているところがあります。超域プログラムのような、全然専門の違う人達が集まる場所というのは、そういう意味ではとても興味深いですね。けっこう「もの言う学生」もたくさんいるので、いろんな専門の考え方に日々接していると、こちらの考えが揺さぶられる経験も多いです。


水町:
今後も両立していきたい、とお考えですか?


山崎:
そうですね。学生から学ぶことはたくさんありますし、それをうまく活かして研究ができたら一番いいですね。教育と研究は別の活動だと思われがちですけど、本当は、教員にとって新しい発見がないのに、学生だけが学びを得るなんてことはありえないと思っています。大学というのは、すでにわかっていることを教える場所ではなくて、わからないことに取り組みながら学ぶ場所ですから。もちろん、すでにわかっている知識を身につけることも大事ですけど、そういうのは今の時代、大学に行かなくても効率的に得られる機会がどんどん増えています。新しい発見に立ち会えるような場を用意して、そして自分も一緒に学んでいく。大学はそういう場であってほしいと思っています。


(以上)


※ 所属、担当はインタビュー(2016年12月)時点のもの。

※1)超域イノベーション博士課程プログラム:
社会システムに変革をもたらす真のイノベーション、超えることでしか生まれない「超域イノベーション」を実現するハイレベルの俯瞰力と創造力を有した「知」のプロフェッショナルの養成を目指すプログラム。高い専門力と専門を統合する汎用力を備えながら、専門領域に限らず、国境、既成概念、相場観といった"境域"を超える俯瞰力と大胆な変革を起こそうとする独創力により、未知で複雑で困難な課題の解決に挑み、新たな価値を生み出していくことができる「超域力」を持った、新時代の高度人材を育成している。

超域イノベーション博士課程プログラムについての詳細は、こちらをご覧ください。


※2)超域イノベーション総合:
超域イノベーション博士課程プログラムにおいて設定されている長期のプロジェクト型授業。課題設定・解決能力ならびにその実行・実装のための総合的な能力を修得するための超域イノベーションコア科目の集大成。

超域イノベーション総合についての詳細は、こちらをご覧ください。
授業レポートについての詳細は、こちらをご覧ください。


※3)PBL(Problem based learning / Project based learning):
問題に基づく学習、あるいは、プロジェクトを通じた学習。いずれも、「教師から学生への知識の伝達」という、講義形式に代表される従来の授業形態とは異なる、参加を通した学びの手法のこと。