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秋学期「科学技術と社会特論A」

COデザインセンター開講科目<協働術>
2018年5月 9日(水) 投稿

COデザインセンターでは多様な授業が開講されています。

今回は「協働術」として開講されている「科学技術と社会特論A」についてレポートします。


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秋学期「科学技術と社会特論A」は、2017年10月から11月の4日間に渡って行われました。この講義は、全研究科大学院生、全学部生が受講できる科目です(*1)。

  • 科目名:科学技術と社会特論A(協働術)
  • 実施日:2017年10月4日(水)、10月18日(水)、11月15日(水)、11月22日(水)それぞれ5&6限
  • 場所:大阪大学(豊中)全学教育推進機構 全学教育推進機構ステューデントコモンズ2階セミナー室 A
  • 履修登録:2人(聴講も含めると、6人)

*1)「科学技術と社会特論A」の前身となる科目「科学技術と社会特論」は、科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」基盤的研究・人材育成拠点「公共圏における科学技術・教育研究拠点(STiPS)」の発足にともなって始まった科目です。例年、多様な学部・研究科から20人強の学生が受講しています。2017年度から、ターム制の導入に伴って、科目名が変わり「科学技術と社会特論A」(秋学期開講)と「科学技術と社会特論B」(冬学期開講)になりました。

この科目は、その年に現在進行形で社会的な論争が生じている科学技術の問題(ホットイシュー)を取り上げています。これまでにも、原子力発電や遺伝子組換え作物、デュアルユースなど、社会に密接に関わるテーマを取り上げてきました。意見・立場の違う2人の論客をお招きして、それぞれの話を聞き、受講生や教員でディスカッションをするというスタイルの授業です。

主なねらいは、科学技術をめぐる社会的対立の「構造」を理解すること。単なる主張の正誤に還元できない科学技術の社会的問題をめぐる論争の複雑な構図を、重層的・多角的に理解し、問題に対して「答え」を出す前に、そもそも検討すべき重要な問題は何か、誰がどのように検討すべきかを考えられるようになってもらうことが目標です。

2017年度「科学技術と社会特論A」で扱うテーマは「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故による避難者とその賠償をめぐる問題」。いま(2017年9月4日現在)、福島県だけでも、元の居住地から県内外に避難している人の数は56,082人(県内避難=21,106人、県外避難=34,963人、避難先不明=13人)、全国では約87,000人にのぼります。これらのうち、国からの避難指示によって避難しているのは24,187人(2017年4月1日現在)で、他は避難指示区域以外の地域から自主的に避難した人々か、すでに避難指示が解除された地域からの避難者で、今もなお帰還していない(または帰還できない)人々です。避難者であるか、避難せず元の地域に住み続けている人であるかという違いに加えて、このような避難者それぞれの立場の違いによって、事故の賠償の内容が異なるため、人々あるいは市町村の間でさまざまな利害の対立も生じています。授業では、このような複雑な避難、帰還、賠償の問題について考えてみました。

4日間のスケジュールと今回お招きした論者の方の情報は次の通りです。


  • 1日目(10/4):ガイダンス

  • 2日目(10/18):論者による講演&ディスカッション
    ■この日の論者:山下 恭範 氏(文部科学省研究開発局原子力賠償対策室 次長)
    1996年入省。原子力も含む科学技術政策関係の仕事に従事。2016年4月1日より現職。

  • 3日目(11/15):論者による講演&ディスカッション
    ■この日の論者:除本 理史 氏(大阪市立大学大学院経営学研究科 教授)
    専門は環境経済学。研究テーマは、環境コスト論、環境被害補償論、環境再生のまちづくり、水俣病、大気汚染、福島原発事故などの公害問題。

  • 4日目(11/22):総合討論

以下、各コーナーの詳細です。


2日目:1人目の論者による講演&ディスカッション

1人目の論者は、文部科学省の山下恭範氏。現在は、文部科学省研究開発局原子力賠償対策室でお仕事をされています。今の部署には、2016年4月からいらっしゃるのだそうです。

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まずは、山下さんの自己紹介。2011年3月、福島で事故が起こった当時どのようなお仕事をされていたのか、というお話も交えつつのお話が始まりました。この日は、福島原発事故に伴う避難・賠償・復興に関する公開情報一式がまとまった資料を配布していただきました。この資料を順に使いながら、福島の概況について、2011年3月11日以降の出来事について、各自治体の状況について、賠償の制度について、など、たくさんの情報をとてもわかりやすく教えていただきました。

この講演を受けて、授業の後半に行ったディスカッションのお題は、「福島原発事故に伴う賠償やその後の復興に関わる課題を解決する際に、最も重視すべきと考える観点は何だと思いますか?」というものでした。片方のグループは、特に「個人個人の視点から考える」ことを目指し、もう片方のグループは、「県単位の少しマクロな視点から考える」ことを目指しました。各グループには、山下さんと一緒に授業にお越しいただいた文部科学省研究開発局原子力賠償対策室員のお二人にそれぞれ加わっていただきました。

30分強話し合った後は、互いの結論を発表し合い、それに対する質疑を行いました。

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最後に、山下さんから学生さんへのメッセージ。

「"餅は餅屋"の発想だけで考えすぎないようにしている。ただ、"餅屋"の専門性は重要であり、それは尊重しつつ、様々な立場や視点から一緒に何ができるかを考えましょう、ということを福島の方々やそれ以外の方々にも常に伝えたいし、フィードバックに真摯に耳を傾けたい。」

「目先のメリットだけではなくて、長い目でみて、全体最適になるようなことを考えられる場をどうデザインしたらいいのか、ということを常に考えている。研究者や大学だからこそ果たせる役割というものもあるはずなので、それを一緒に考えてほしい。」


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この日のコメントシートには、以下のような感想が書かれていました。
「福島の課題について現場の方から正確な情報を学ぶことができて非常に良い機会だった。(理学研究科)」

「(福島の原子力発電所に関する)事故によって文化やブランドが破壊されてなくなるという視点を持って見ていなかった。視点が広がって良かった。(生命機能研究科)」


3日目:2人目の論者による講演&ディスカッション

2人目の論者は、大阪市立大学大学院経営学研究科 教授の除本理史さんでした。環境経済学を専門にされています。

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この日の講演のトピックは次の3つでした。

1)原発事故の被害について
2)賠償の仕組みと問題点について
3)避難指示の解除と住民帰還の現状について


1)原発事故の被害について
「原発事故の被害」と一口に言っても、放射性物質による汚染の影響そのもののこと、除染などによる環境改変や避難、出荷停止などに伴う二次的な被害のこと、汚染対策の仕方や水準に応じて算出される「被害」が変化するということなど、さまざまな側面があることを紹介していただきました。

2)賠償の仕組みと問題点について
現状の賠償の仕組みや基準について、そして、その問題点についてお話しいただきました。賠償の格差や慰謝料の対象から外れている被害(被ばくへの不安やふるさとの喪失など)について説明がありました。

3)避難指示の解除と住民帰還の現状について
避難指示が会場された区域の住民の帰還が伸び悩んでいる状況や、考えられる要因などのお話がありました。

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後半のディスカッションの時間は、除本さんとの質疑応答をベースに進みました。慰謝料について、当事者性についてが、話題にのぼった時間でした。


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この日のコメントシートには、以下のような感想が書かれていました(*文意が通るように一部を編集しています)。

「2日目は行政側からの視点、3日目は被害者側からの視点を中心に聞くことができて良かった。賠償の線引きをどこにしなければならないかを、どちらの視点から捉えるかで、大きく変わりうるということ、今回の線引きがほかの件の線引きにも大きく影響を与えてしまのではないかということなどが印象にのこった。(理学研究科)」


4日目:総合討論

ここまで2日間に渡ってお招きした2人の論者による議論は、それぞれ違う角度から、賠償や避難の問題を捉えたものでした。最終回の4日目は、「社会として妥当な答えを出すためには、どんな問題群について検討しなければならないのか。誰にとって「妥当」であればいいのか。」ということについて、考えました。

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賠償による格差はどうすればいいのか、国・政府がどこまで責任を取るべきなのだろうか、様々な観点がこの課題には含まれています。

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最終回のコメントシートには、以下のような感想が書かれていました(*文意が通るように一部を編集しています)。

「4日目の授業は、議論が拡散していき、様々な視点が絡み合ったいかに複雑な課題であることを実感しました。ただ、こうした複雑化した社会課題の解決のために、様々な場所で意思決定は必要で、こうした決定を下すために、実社会ではどのように議論が進んでいるのかということを知りたいと思いました。(人間科学研究科)」

「問題が複雑化しているとき、ものごとは基本的には、一面からしか見ることができない。誰もがその人なりの見方からの解決策を持つことができるかもしれないが、知りえない側面からの反対意見を汲むことはできない。
 このことを含めると原発関連の事故と災害が併発した「3.11」については、今後すぐに解決策は出てこないだろう。今後、あまた出てくる策を、"可否"や"正誤"と捉えるのではなく、見方のひとつとして捉えることを忘れないようにしたい。(理学部)」

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2018年度の「科学技術と社会特論A」では、大学における「デュアルユース研究」(軍民両用研究)の是非について、また、「科学技術と社会特論B」では、「超スマート社会(サイバー空間と現実社会が高度に融合した社会)の社会的課題(エマージェントイシュー)にはどのようなものがあるか」ということについて取り上げます。授業の詳細やスケジュールは、KOANに掲載されているシラバスを確認してください。

(書き手:水町衣里 COデザインセンター特任助教)