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イベントレポートスペシャル授業レポート
「ソーシャルイノベーションB(ツール編)」一般公開 参加レポート

革新的なテクノロジーと途上国の人々の<つながり>を生み出す!コペルニクの活動と展開:デザイン思考とストーリーテリングの視点から

COデザインセンター開講科目<協働術>
2018年8月 3日(金) 投稿

米国 NPO 法人コペルニクは、途上国の人々の「生活の向上」と「自立」を目指し、シンプルで革新的なテクノロジーと貧困解決につながるアプローチを現地の人々へ届けています。そのために、フィランソロピー(非営利)とビジネスの手法を組み合わせ、様々なセクターの皆様と提携し活動を展開しています。

本セミナーでは、世界的に注目を集めているコペルニクを共同創設された中村氏をゲストに迎え、コペルニクの活動を説明いただくとともに、「共感」、「プロトタイピング」、「ストーリーテリング」などのキーワードから、世界を巻き込むしくみのつくり方についてお話いただきます。また、人々のつながりを生み出す共創のあり方について、参加者の皆様と共に考えていきます。

本企画は、2018年6月12日、COデザインセンターが「協働術」として提供する授業「ソーシャルイノベーションB(ツール編)」(夏学期、担当:辻田 俊哉 COデザインセンター 講師)の一般公開として行われました。


中村 俊裕

大阪大学COデザインセンター 招へい教授
米国 NPO 法人 コペルニク共同創設者兼 CEO

ラストマイルの人々にシンプルで革新的なテクノロジーを届けるため、2010年コペルニクを共同創設。過去10年間は国連に勤務し、東ティモール、インドネシア、シエラレオネ、アメリカ、スイスを拠点としてガバナンス改革、平和構築、自然災害後の復興などに従事。国連の前職はマッキンゼー東京支社で経営コンサルタントとして活躍。京都大学法学部卒業、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で比較政治学修士号取得。大阪大学COデザインセンター招へい教授も務める。2012年には世界経済会議(ダボス会議)のヤング・グローバル・リーダーに選出。「グローバル・アジェンダ委員会2014-2016」における「持続可能な開発」委員も務める。さらに2014年には、ユニセフの「インドネシア・イノベーション・ラボ」のアドバイザーに就任。著書に『世界を巻き込む。―誰も思いつかなかった「しくみ」で問題を解決するコペルニクの挑戦』2014年。

コペルニクのウェブサイトはこちらをご覧ください。

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今日は、2010年に私が立ち上げたコペルニクが何をしている団体なのかということについてお話ししたいと思います。

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コペルニクを立ち上げる前、私は国連関係の仕事に携わっており、東ティモールや西アフリカなどで活動していました。西アフリカの仕事は、これから国を立て直していくという時期のものであり、戦略的な観点から国全体の大きなビジョンを描き、戦略を立てるというものでした。

一方、そのような活動の中で私が考えたのは「今自分がやっている仕事は、普通の人々の生活にどうつながっていくのだろうか」ということでした。

当時、よく話をしていた地元の女性がいました。彼女は石を砕くことで生計を立てていました。彼女と話すのはオフィスを出て帰る途中の短い時間だったのですが、彼女と話すたびに、私は「今日も色々な書類を書いたけれど、それによってこの女性の生活が本当に良くなるのだろうか」と感じていました。

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私は、政策レベルで考えることと彼女たち普通の人々の生活との間にあるギャップをひしひしと感じていました。普通の人たちの生活を変えるというのは、一体どういうことなのだろう、と気持ちが私の中にありました。

何か目に見える形で、彼女のような普通の人の生活に良い影響を与えることができないか、と考えたのが、コペルニクを立ち上げるバックグラウンドとなりました。

コペルニクは2009年に法人化し、2010年から本格的に活動を始めた団体です。現在はこれから紹介する3つの柱のもとに活動を展開しています。

1、テクノロジーをとどける

コペルニクの最初の活動は、この「テクノロジーをとどける」活動でした。

インドネシア東部において、浄水器などのシンプルテクノロジーについて地元の女性たちをトレーニングし、その人たちがそれを販売して収入を得られるようになる、というプロジェクトでした。インターネットがあるような場所ではないので、彼女らは実際に家々を訪問してまわり、商品を販売します。

こういう機会を得たことで生活が変わった人がいます。得た収入で自分の家を建てることができたり、薪でお米を炊く、お湯をわかすという日々の作業を大幅に効率化できたりしました。彼女らが村の中でこういった活動を推進する中心人物になっていくケースもありました。

私たちは、実際に現地の人たちの生活がどう変わっていったのか、データをとって分析する、ということも行いました。例えば、この活動に参加する前と後で収入がどのくらい増えたかデータをとると、大幅に増えているケースもありますが、やはりばらつきがあるということが分かりました。では何が違うのか。収入が増えている人とそうでない人を比較すると、歩いて販売している人と、バイクで販売している人の違いが一つあるということが分かりました。バイクを販売に利用できる人の収入はそうでない人の2倍になる、というデータが出たのです。また、家族が販売活動をサポートしてくれる場合に収入が増える、ということも分かりました。

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このようにデータを示すことで、より効果的な活動というものは一体どういうものかということを常に考えながら活動をしています。

2、新たな製品を開発支援

コペルニクの活動は、「新たな製品を開発支援」する活動に、徐々に広がっていきました。

その背景の一つとして、アジアの急速な経済成長があります。多くの企業がインドネシアなどの新興国といわれるアジアの諸国に進出しようとし始めたのです。私たちは企業から様々な相談を受けるようになりました。この製品のアイデアはインドネシアでは普及しますか、普及させるために何が必要ですか、などの質問を受けるようになったのです。

そのような企業と新しいものをつくることができれば、現地の人にとって選択肢がより増える。それはとても良いことだと考え、企業とのパートナーシップを積極的に推進し、新たな製品やサービスの開発を支援することが急速に増加しました。

事例を一つご紹介します。三菱電機と開発した、現地で魚を売る人たちのための冷蔵庫です。インドネシアでは魚は主要な食料であり、多くの人が魚を販売して生計をたてています。私たちは、まず三菱電機のチームと一緒に、現地の人たちがどのように海から魚を運び消費者まで届けるのかを調査しました。彼らは、バケツ2つをバイクにとりつけ、それに魚を入れ、街に運んで売ります。彼らに話を聞くと、バケツなので魚の品質が落ちてしまう、と言います。それをなんとかできないか、ということで、三菱電機のチームと一緒に、冷蔵庫のプロトタイプを現地に持っていって、魚売りの人々に実際に使ってもらいました。彼らからもらった様々なフィードバックもとにプロトタイプを改良し、労働時間や収入の増減など、データをとって分析しました。

(本プロジェクトについて、詳細はこちら(三菱電機HP内)をご覧ください。)

3、自前で新たな製品・アプローチの実験

私たちは、色々な実験を行い、実際にデータをとり、それを発表しています。そのデータを見て、他の団体が実際に使おう、取り入れようとする。そういった波及効果をどんどん起こすということを目的にしているのが、三つ目の「自前で新たな製品・アプローチの実験」です。

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一つの例は、スマトラの泥炭火災です。可燃性物質が地下に埋まっていて、一度燃えるとスライドのような大変な状況になってしまいます。ユニセフのインドネシア事務所からコペルニクに対して、子どもの健康被害を軽減できる方法を一緒に考えてほしいと相談がありました。空気中の汚染物質を除去するために良い方法はないかということで、扇風機に簡易的にフィルターを取り付けたものを作成し、どのくらい汚染物質が取り除けるか実際に実験してみました。構造上は非常にシンプルな空気清浄機ではあるのですが、効果があるということがデータから分かったのです。このデータをもとに、簡易空気清浄機が、アグン山の噴火が起こっているバリ島の小学校で導入されました。

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辻田先生は、今日のセミナーを通し、「デザイン思考」について考えてほしいと言います。

「イノベーションという言葉自体はよく聞く言葉ですが、たとえ製品開発を行なったとしても、ユーザーの視点でものを見ることができていなければうまくはいきません。社会課題を解決するときも同じです。それが、デザイン思考という考え方が生まれ、広がっていった背景です。

デザイン思考のファーストステップとして、『共感』という段階があります。ユーザーが困っていることにどれだけ共感を持つことができるか。共感を持ちながら動き出すことができるか。そして、共感することによって、そもそも問題は一体何なのか、という『定義』を行います。その上でオプションを用意し、プロトタイプを作成してテストを行い、ユーザーからフィードバックを得て改良していくのです。それを繰り返すからこそ、ユーザーの視点に立った製品開発ができるのです。

これは、言うのはすごく簡単なことなのですが、社会課題に対する具体的な解決策に向けて実践している事例は実は多くはないのです。今回の中村さんのお話は、その点で非常に貴重なお話だったと思います。」

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約40名の参加者の皆さんは、真剣なまなざしで中村さんのお話に耳を傾けていました。また、質疑応答も非常に活発に行われました。

COデザインセンターでは、今後もこのような企画を積極的に行っていきたいと考えています。


(書き手:森川優子 COデザインセンター特任研究員)