活動情報

更新日
2008-03-19
聖ロクス,胸元に紅色小十字架刻印,黒死病除け守護聖者

聖ロクス(胸元刻印紅色十字架)崇敬

イタリア北部ベルガモ高地城壁外の散策で偶然出くわした瀟洒な聖ロクス小教会
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聖ロクス(胸元刻印紅色十字架)崇敬

イタリア北部ベルガモ高地にあるサンタ・マリアマッジョーレ教会の宗教画『聖母子と聖ロクスと聖セバスティアヌス』とは対照的な絵画の存在を知った.

イタリア画家コレッジョが手がけた代表的な祭壇画『聖セバスティアヌスの聖母』(1525-1526年頃,ドレスデン国立絵画館所蔵)における聖者は,矢による射殺の激痛など無頓着に,ふくよかな幼な子イエスの視線を介して,清楚な聖母の柔らかな視線に優しく抱かれるように,左側の天使の「至福に満ち溢れた慈愛を惜しみなく注いでおられます」とすら代弁するかのような手招きに応じて,恍惚感とさえ言い得る至上の満悦感にすっかり浸っている.

ロンバルディアに北側隣接するモデナの聖セバスティアヌス聖堂附属信心会(コンフラリア)=兄弟的盟約団体のために制作され,聖者の足元に座り込んだ天使が満面に笑みをたたえ,両腕に聖堂雛形を抱え,奉献する姿はこの上もなく可愛らしい.

一方,右側の聖ロクスは病院勤務で患者治療・介護の最中,みずから罹患し,左大腿鼠蹊部腺ペスト痕を隠すように白布で覆い,絶望感と憔悴感に深く沈み込んでいる.雲上の天使二人はなす術なく冷ややかに見下ろしている.聖セバスティアヌスは黒死病除け聖者崇敬の第一人者としての地位を揺るがせずという印象であり,聖ロクスについては,糧を運ぶ猟犬と天使による奇蹟的な救済に安堵する起死回生の姿は微塵もない.

コレッジョ絵画参照:

(http://www.salvastyle.com/menu_mannierism/correggio_sebastiano.html)

写真:ベルガモ高地城壁外の聖ロクス教会内に安置される聖ロクス像(2007.3.17:撮影)

後記:

私は人文系の研究者であるが,欧州の中世・近世史上ヨーロッパ人を震撼させたペストには大いに関心を抱いているものである.昨年欧州言語運用能力検定試験制度及び社会人大学院修士課程実験プログラムの視察調査研究を行った(2007.3.4-3.20)が,石見銀山世界遺産登録記念出版図録『輝きふたたび石見銀山展』に掲載するために,リスボン市街地,中世城壁外にある聖ロクス教会内にある後期ルネサンスの名品「聖者に天使現わる」を写真撮影した.この聖者はキリスト教カトリック圏内ではよく知られ,指先で黒死病を治癒する能力を備えた人物として長く篤い信仰を集めた.宗教の精神支援の結集でコンフラリア(兄弟的盟約団体)を母体として設立された教会附属施療院を通じて全人治療・介護・終末医療が行なわれ,教会裏には専用の墓地まで存在した.図らずも,最初にガリシア語欧州認証試験日本実施の段取りの打ち合わせで州政府言語政策部門を訪問したイベリア半島西北部ガリシア州,3大巡礼地の一つサンティアゴ・デ・コンポステラでも,またその後訪れたオペラの作曲家として高名なドニゼッティの生没地,イタリア北部で自動車産業城下町として経済的に潤い,丘陵地に教会・修道院群,大学施設などを切り開いた中世城壁に守られた要塞都市ベルガモでも,城壁外に確かに聖ロクス教会,旧病院施設は存在した.実はこの聖者の奇蹟物語は,能力をかわれて病院勤務するも,罹患し,追放され人里離れた地で死期を静かに待つが,見知らぬ猟犬が飼い主の家の食堂からこっそり食糧を運び,延命していたところへ救済の天使が現れると記す.随分と以前になるが,出身地の国際港神戸で,明治末期から大正期にかけて複数回にわたって外来船舶経由で黒死病が発生したことがあり,風評被害の予防策も含めて丹念な防疫対策が施され,その大部な報告書が残されており,つぶさに分析したことがある.

欧州と日本で前近代と近代の違いもあり,宗教・文化も異なるが,風評被害の共通性には驚嘆した記憶がある.

【関連URL】
聖ロクスに関する主要参考文献

【添付ファイル】
拙稿「大航海時代のポルトガル・ルネサンス」(図録『輝きふたたび石見銀山展』 山陰中央新報社,2007),p.89-90.

投稿者|林田 雅至 戻る