医療人類学と人類学的医療
Medical Anthropology / Anthropological Medicine
【医療人類学の定義】
健康と病気にかんする文化的および社会的現象を研究対象とする人類学研究を、医療人類学(medical anthropology)と呼んでいる。
医療人類学という分野は、1960年代後半から70年代前半にかけて、北米の研究者を中心に徐々に成長、確立した分野であるが、類似の研究は、医史学(medical history, medical historiography)や民族医学(ethnomedicine)というジャンルのなかで、ほぼ全世界的に1930年代頃には研究がはじまっていた。
現在、文化人類学、自然人類学、公衆衛生学、社会医学、看護学などの分野において、つぎの3つの主要な論点が具体例を通して学ばれているが、これらは、現在の医療人類学者の多くの関心に通底する[池田・奥野 2007]。
(1)人びとの健康と病気にかんする信条や実践は文化的に修飾された多様なものであり、それらの実態は変化している。
(2)文化的に修飾された人間の行動は、環境への適応や生物学的進化という医学的現象によっても解析可能である。
(3)それらの知見をもとに特定集団の健康と病気にかんする生活慣習への介入をおこない、人びとの生活の質を改善することができる。
医療人類学は、人類学・社会学の民族誌学的方法、第二次大戦後に本格化する国際的な医療援助の現場、臨床現場における人間行動の微細な観察の蓄積などを背景に、健康と病気について人類学から実践的に関与しようという方向性をつねに持ち続けてきた。つまり、身体にかかわる文化的事象を研究しようとする人類学の学問的嗜好と、よりよい生活の質をもとめる近代医療の社会実践が折衷的に融合したものとみてよい。
【人類学的医療】
これに対して、人類学的な感覚と理想をもち、そこから既存の医療を組み替えてゆく医療実践を、人類学的医学あるいは人類学的医療(anthropological medicine)と呼ぼう。人類学的医療は、アーサー・クラインマンが提唱したアイディアにもとづいて、いまだ充分に実現されてはいない可能態として「きたるべき未来の医療」のことである。[→より詳しい説明はこちら]
文献
Brown, Peter J.[com.], Understanding and Applying Medical Anthropology. Mayfield. 1998.
医療人類学研究会編『文化現象としての医療』メディカ出版、1992.
池田光穂・奥野克巳編『医療人類学のレッスン』学陽書房、2007年
波平恵美子『医療人類学入門』朝日新聞社、1994年
関連リンク