手話(しゅわ)
sign language
解説:池田光穂
聾者(耳が聞こえない個性を有する人たち)がもちいるコミュニケーション手段。聾者のまわりにいる聴者の統語構造にとらわれない手話を「伝統的手話」という。他方、聴者の統語構造(例、日本語)によって人工的につくられた手話を「同時法的手話」とよぶことがある。
手話とよく混同されるものに指文字(指話法)があるが、これは仮名文字やアルファベットに対応して、聴者のつかう言語と具体的に対応させる技法であり、手話と混成することで、手話のコミュニケーションを豊かなものにしている。
伝統的手話は、マイノリティである聾者が聴者とのコミュニケーションをとるだけでなく、自己の存在を主張し、また自己の存在をかけて慣習的に開発されてきたものであり、パローキアル(局所的な方言的用法的)ないしは、イディオレクタル(使用者独特の個人的用法的)なものである。
フランスのド・レペC. M. De L'Epee(1712―89)[手話と指文字による聾児教育の提唱者]やハイニッケS. Heinicke(1729―90)[口語法の提唱者:口語法は聾者を音声言語に合わせる手法で聴能開発・読話(口唇を読む)・発語からなりたつ]などの、聾教育者たちは、聾者の自己表現方法の開発と教育の提唱をおこなってきた。手話は、国民国家の確立と聾者の国家への社会統合という課題のもとに、各国言語(国語 national language)による標準語化が進んでいった。
近代国家が用意した聾学校教育と、この標準語化によって聾者集団には、集団としての社会化とそれに伴うアイデンティティの確立が促進された。他方、コミュニケーション手段としての手話の発達は、手話のパローキアルでイディオレクタルな性質と話者ないしは話者集団のアイデンティティ構築や、地口や冗談などの表現手段の多様化に寄与した。
【文献】
Groce, Nora Ellen.1985. Everyone here spoke sign language : hereditary deafness on Martha's Vineyard. Cambridge, Mass. : Harvard University Press.(みんなが手話で話した島 / ノーラ・E・グロース著 ; 佐野正信訳. -- 築地書館, 1991)
現代思想編集部編『ろう文化』東京:青土社, 2000
亀井伸孝『アフリカのろう者と手話の歴史――A・J・フォスターの「王国」を訪ねて』東京:明石書店、2006年
シャーマン・ウィルコックス編『アメリカのろう文化 』(American deaf culture : an anthology)鈴木清史, 酒井信雄 , 太田憲男訳.東京:明石書店, 2001.