文明の衝突・論
On Clash of Civilizations
解説:池田光穂
文明の衝突(the clash of civilizations)は、アメリカ合州国の国際政治学者であるサミュエル・ハンティントン(Samuel P. Huntington)が、主張した政治理論。
最初の論文は、1993年にForeign Affairs, Vol.72, No.3. p.22, p.28.という一般向けの外交雑誌掲載された。
文明の衝突とは、冷戦(ca.1945-1989/91)終結後の世界情勢が、自由主義〈対〉共産主義というイデオロギー対立ではなく、諸文明(複数形でcivilizations)の対立――より具体的には衝突――になるという、新種のイデオロギー論である。
ここで示されている文明とは、中華、日本、ヒンドゥー、イスラム、西洋、ロシア正教、ラテンアメリカ、アフリカの8つのものであるが、地球の地域をいわゆる大きな文化のまとまりとして表現したあたかも思いつきとも思えるもので、この図式がすべての研究者の間でコンセンサスが得られているわけでもない。
※ここで「思いつき」と書きましたが、ハンティントンは若い時代にはクリフォード・ギアーツらと共同研究した優秀な研究者で、政治的紛争が文化的衝突に移行するというアイディアそのものは、彼が近年になって思いついたものと、単純に判断するわけにはまいりません。
文明の衝突論の興味深いところは、かつての地政学(geopolitics)の議論の覇権のアクターが国家や帝国のような地理的広がりをもつものとして構想されたのに対して、文明といういわゆる文化を政治勢力のアクターとしてとらえたことである。
文明の衝突論は、学術理論としては根拠に乏しいナンセンスなものであるかもしれないが、アメリカ合衆国の現政権における新・保守主義派の重要なパラダイムであり、なによりも、米国のイスラム社会への積極的な戦争介入を正当化する「理論」として、ちゃんと機能しているところが、黙視できない重要なポイントである。
文化人類学の立場から、文明の衝突論の最大の問題点を指摘すると、文明や文化を、それを信奉する個人や集団の本質的なものとする点で、人種主義にもとづく排除思想に簡単に変貌(ないしは流用されて)してしまうということである。
その後のハンティントンの議論や主張を知るには、ハンティントン(2003)が役立ちます。
【文献】
Huntington, Samuel P.1993. THE CLASH OF CIVILIZATIONS , Foreign Affairs. Summer 1993, v72, n3, p22(28)
原文はこちらからリンクします。(明晰でわかりやすい英語なので是非挑戦してください)
ハンティントン、サミュエル 2003[1999] 「孤独な超大国」『ネオコンとアメリカ帝国の幻想』フォーリン・アフェアーズ・ジャパン編訳、Pp. 119-140、東京:朝日新聞社。
医療人類学辞典 文化人類学用語集
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