医療人類学をはじめて勉強する人に
医療人類学は、きわめて多声的(multivocal)な学問です
医療人類学という学問は、それ以外の学問領域が相互に参入してきたり、逆に脱出してきたりした経緯をもち、現在もまた、願わくば将来においても、多声的・多元的な領域です。そして、そのような、恐るべき寛容性が、この学問の発展の原動力をなしています。
医療人類学の名前が徐々に知れ渡るにつれ、またその面白さが普及するにつれ、世の中には、この学問の名称を使うと、何か知ったようなことが言えるのではないか、あるはなにか実践したことになるのではないかという期待感をもつ人がいますが、それは浅はかな考えです。学問はやってみなければ(=「実践」してみなければ)本当のおもしろさはわかりません。
ただし、それはひとつの教科書、ひとつの実践によって定義づけられるようなものではありません。医療人類学の領域の中にあるさまざまな主張――その中には全く正反対の意見が数多くみられます――のそれぞれに耳を傾け、それぞれの主張と対話してください。そして、あなた自身の医療人類学をつくりあげてください。そういう意味で医療人類学というのは、多声的で、個人個人が構築するオーダーメイドの対話的学問なのです。
《このことを理解して「医療人類学入門」にもどる》
《むつかしい人は、「こども用」からアプローチする》
さらに詳しい説明が聞きたい人は下の説明も参考にしてください。
はじめに、呪文かお経のような次のクリフォード・ギアーツ先生の文章を読んでみましょう。
「確立した学問分野から新たに生成する枝分かれの進展が意味をもつのは、その対象とする問題が既成のどの分野にも属さぬ本来的な間隙に生まれた現象であるときのみといってよい。……(そこでみられる重要なことは)相手の側の分野とはいったいなにかについてのきわだった、そしてより厳密な認識なのである」(ギアーツ 1991[1983]:293/「ローカル・ノレッジ」)[梶原景昭訳、(丸括弧)ならびに強調は引用者]。
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みなさん、こんにちは!
講師の池田光穂です。
みなさんは医療人類学の名前を、授業をはじめいろいろなところで聞いてこのページにアクセスされたことと思います。
まず医療人類学という学問分野に関心をもたれていただいて、この分野について先に勉強してきた者の一人として、たいへん光栄に思うと同時に感謝します。
さて、このレクチャーをはじめる前に、みなさまにひとことを言っておきたいことがあります。それは、このページにアクセスされる前に、断片的に聞かれてこられた、以下のような愚かな俗説です。まず、チェックしてみましょう。
1. 医療人類学は、医学――ないしは人類学――の下位領域である。
2. 医療人類学は学問的批判――あるいは「応用的実践」――であって、「応用的的実践」――あるいは学問的批判――をするものではない。
これらの俗説を公然と教室で主張する先生がおられたとしたら、それは医療人類学という学問が、学問的および実践的にどのような経緯で誕生したか、また、その後、どのような展開を遂げたのかということについてまったく無知な方であると断言いたします。
医療人類学の領域では、「誕生」(そのようなものがあればの話ですが)から今日にいたるまで、その立場をめぐるさまざまな議論・論争がおこなわれてきました。
そこから得られた結論はこうです。
医療人類学は、きわめて多声的(multivocal)な学問である
ということです。
医療人類学という学問は、それ以外の学問領域が相互に参入してきたり、逆に脱出してきたりした経緯をもち、現在もまた、願わくば将来においても、多声的・多元的な領域です。そして、そのような、恐るべき寛容性が、この学問の発展の原動力をなしています。
だから、医療人類学の名前を借りて、それをひとつの学問的あるいは実践的原理に還元する主張――これをsingle vocal order と呼んでみましょう――があれば、それは要注意ということになります。
医療人類学の名前が徐々に知れ渡るにつれ、またその面白さが普及するにつれ、世の中には、この学問の名称を使うと、何か知ったようなことが言えるのではないか、あるはなにか実践したことになるのではないかという期待感をもつ人がいますが、それは浅はかな考えです。学問はやってみなければ(=「実践」してみなければ)本当のおもしろさはわかりません。
ただし、それはひとつの教科書、ひとつの実践によって定義づけられるようなものではありません。医療人類学の領域の中にあるさまざまな主張――その中には全く正反対の意見が数多くみられます――のそれぞれに耳を傾け、それぞれの主張と対話してください。そして、あなた自身の医療人類学をつくりあげてください。そういう意味で医療人類学というのは、多声的で、個人個人が構築するオーダーメイドの対話的学問なのです。
最初の、ギアーツ先生の呪文(=あたらしい学問が生まれる意味は、その学問ともとの学問の違いにかんする厳密な認識を必要とする)と、私の結論である対話的学問の関係について、おわかりになられたでしょうか。
参考文献
Leslie, Charles. 2002. Backing into the Future. Medicial Anthropology Quarterly (NS). 15(4):428-439.
【同義語】
医療人類学、医学人類学、メディカル・アンスロポロジー、medical anthropology, antoropologia medica,
【関連語】
形質人類学、自然人類学、司法人類学、公衆衛生学、疫学、MPH, 疾病史、医学史、医療史、科学史、科学論
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