サイエンスショップ
コミュニティに根拠をもつ研究
Science Shop, Community-Based Research (CBR)
解説:池田光穂
サイエンスショップ(Science Shop)とは、市民がもつ疑問や社会的課題を持ち込むことができ、かつ、それらに対して一定の成果を、持ち込んだ市民に対してのみならず、公共的な領域[=パブリック・ドメイン]に提供することができる組織のことである。
サイエンスショップの「ショップ」は、商業資本主義的な意味での商店を意味するものではなく、むしろワークショップで使われるプロジェクト単位の「工房」のように考えるとよいだろう。
サイエンスショップは、1970年代にヨーロッパの大学文化の中で発達してきたもので、特に最初にできたユトレヒト大学をはじめとしてオランダの大学にはサイエンスショップが常設されているという。アメリカ合州国では、CBR、コミュニティベースドサイエンスつまり「コミュニティに根拠をもつ研究」という同様の伝統があったという主張がある[根拠?]。今日ではEUがイニシアチブをとるサイエンスショップと合州国由来のCBRは密接なネットワーク関係を築いて活動している(SCIPASのレポートを参照)。
春日匠(かすが・しょう)さん[2006]よると、つぎの4点をサイエンスショップの特徴としてあげている。[ ]内は引用者(池田)による
つまり1.市民社会の要請に科学者が応える組織である[コミュニティベースという発想]、2.大学に付置されるかNPOなどの非営利組織でおこなわれる[組織の非営利性]、3.ショップそのものが課題に応えるのではなく、適切な科学者探し、若手研究者などと協働でおこなう組織作りをマッチングする[マネジメント組織]、4.クライアント(顧客)である市民からは研究費や人件費をとらない[活動の非営利性]。
いまいちど、サイエンスショップ(コミュニティに根拠をもつ科学)の特徴をまとめると……
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サイエンスショップ運営の特徴 1.コミュニティベースという発想がある 2.組織は非営利的形態が原則 3.ショップそのものはマネジメント組織でありプロバイダーにすぎない 4.活動は非営利性が原則 |
なぜ、大学や非営利組織が、研究の自主性を犠牲にし、さらにお金の儲からない非営利的な活動として、市民社会というコミュニティの要請に応えるサイエンスショップ事業に手を染めるのでしょうか?
それは、大学や非営利組織の社会と学術活動の連携(=社学連携)ないしは、非営利機関の社会へのアウトリーチ活動をおこなう、あるいはおこなうことができる組織として、大学や非営利組織が積極的に社会の公共的側面に進出していこうとしているからです。
では、サイエンスショップではどのような問題がもちこまれているのでしょうか。先の春日さんが紹介するオランダや合州国における例としては以下のようなものが挙げられています。
・史跡指定された教会の修復と基金集金プログラム(工学、環境アセス、法律などを含む)。手話教材の開発。マグネシウム製造工場のフィージビリティ、有機農法への事業転換プログラム、近隣地域における工場廃棄物の調査、北米先住民の喫煙率と疫学調査ならびに禁煙プログラムの策定、全国的な水質調査、行政サービスの社会的平等さに関する調査。
【サイエンスショップに対する批判的論点】
にもかかわらず、コミュニティに根拠をもつ研究も、専門家の立ち位置に関しては一連の批判があります。それは「専門家の知識や方法というものの権力性や特権性がいまだ温存されているのではないか?」というものです。
またサービスラーニングに対する考え方が中途半端ではないかという批判もあります。
サイエンスショップやコミュニティに根拠をもつ研究に対して、よりコミュニティの参加度をあげる、ないしはコミュニティそのものに研究や研究成果の利用のイニシアチブをもつ研究が「コミュニティにもとづく参加型研究」(コミュニティに根拠をもつ参加研究)です。このアプローチがなぜ、そしてどのように、サイエンスショップに対して批判的観点をもちうるのかについては、当該の用語のリンクを参照してください。
【出典】
基本的にリンクは張っていません。コピー&ペーストでブラウザーに読み込んで読んでください(サイト確認は2006年7月11日現在)
池田光穂「コミュニティにもとづく参加型研究」
春日匠「2004年度公開授業「科学と社会」サイエンスショップとは何か?」pdfファイル
http://skasuga.talktank.net/file/skasuga1025_script.pdf
春日匠「大学と社会の再契約:触媒としてのNPO」『インパクション』138号、2003年 原文はこちらで読めます。
春日匠「日本型サイエンスショップを構想する」『市民科学』第13号、Pp.2-7, 2006年7月 市民科学研究室
ユトレヒト大学 サイエンスショップの定義、ミッション、クライテリア
http://www.scienceshops.org/new%20web-content/content/about-mission.html
SCIPAS レポートのリンク先
http://www.scienceshops.org/new%20web-content/content/reports-SCIPAS-reports.html
INTERACTS ポータル
http://members.chello.at/wilawien/interacts/main.html
ISSNET (改善するサイエンスショップネットワーク)資料?
Improving Science Shop Networking(ISSNET) サーバーはユトレヒト大学にある
◆ 大阪大学サイエンスショップ 日本についての概況はここから学べます
◆ 医療人類学辞典
では、サイエンスショップはどのように運営されるのでしょうか。
財源は? 大学や非営利組織が用意する財源のほかに、財団、国や地方自治体などが考えられます。
人員は? 採択されたプログラムにつき2名から数名の専従を研究期間(1〜2年:日本のように会計年度で予算を組むと、年度はじめと終わりのそれぞれ2ヶ月都合4ヶ月は研究活動が滞るので、そのような非効率性を勘案すれば最低2年が必要)の間雇用しなければなりません。
事前の仕事は? 専従は、大学におけるマッチング対象となる大学教員(1〜2名)を探さねばなりません。マッチングに応諾した大学教員は、特定のサイエンスシップ事業に従事できる大学院博士課程の学生あるいは博士修了者[ポスドク]2名から数名をショップ専従の研究員に紹介し、サイエンス事業が立ち上がるかどうかの打ち合わせの会議を適宜もち、1ないしは2年計画の調査研究ができるかどうかを決定しなければなりません。
予算は? マッチングに従事する専従の研究員の人件費、調査研究費、サイエンスショップに関わる教員の研究費や人事補助の予算、調査研究に従事する大学院生の奨学金などの補助[大学院生は自分の研究に関わる調査研究に従事するので、そこから給与は受給されず、奨学補助金の形で業務に対する手当を受ける]。成果の公開のためのシンポジウムや報告書あるいはウェブページ作成などの成果公開費用など。
最後に、サイエンスショップ事業を大学でおこなうことの意義について考えます。
1.大学でおこなわれている個々の研究の社会化
大学における研究は、研究の自由という権利で保証されています。そのような自由を獲得するため、研究者は日々切磋琢磨して、最良の研究業績をあげるために日夜努力しています。しかしながら、そのような最先端の研究も、大学外の市民という眼からみれば、十分には理解できない、不安なものであり、時には「役に立たない研究をしているのでは?」と不審の眼で見られることもあります。
これを払拭する機能が、科学者たちが知恵を出し合い、市民が考える具体的な問題に、もてる知識を総動員して取り組むサイエンスショップ事業にはあります。
サイエンスショップは、大学にとって社学連携の窓口になると同時に、個別の研究者には自分の研究成果をより社会の広い部分で活用することで、個別研究を未来にわたって保証してくれる知的な保険の一種にすることができます。また、社会貢献(アウトリーチ)活動の業績として評価されることに繋がります。
2.大学そのものが本来持っていた社会性を取り戻す
大学というのものは、現代社会の最高学府であるために、社会からは超俗的な組織であると思われたり、また大学人もまた社会を時に低く見ることがありました。他方で、我が国の文教政策はほとんど無意味なぐらい、私立大学の増殖を容認し、私学助成という補助金すら与えることで、大学で勉強をおこなうという意味を考えたことすらない大学生を「保育」する場にもなってきました。私立大学だけではなく、国立大学においてすら18歳人口の低下の影響を受け、学力の低下が顕著であり、その意味では日本の国公立の大学は、程度の差はあれ、大学って何?と思われるだけの社会的存在意義を失ってきました。
そのためには、大学で教えたり学んだりすることの社会的自覚を再度思いだし、それをよい方向に進展させてゆく必要性があります。
サイエンスショップの活動に従事することは、市民が日常生活を送る上で、大学にどのような知的貢献を求めているのかをしるアンテナショップ的な機能を果たすことになります。これは、中長期的な顧客の開拓という実利的意義だけでなく、研究成果の公開を通して、市民との対話から、大学自体の理念を主張するよい機会になります。
3.新しい知的創造のインキュベーター(孵卵器/培養器)になる
近年のノーベル賞受賞のいくつかの研究には、たぐい稀なる天才が編み出したり、長年の努力で作りあげた精緻な理論で受賞した研究者のほかに、「実験における失敗」や「一見無駄な実験」から豊かな成果を導き出したものがありました。
大学に十分な財力や名声があれば、すでにすばらしい業績をあげている研究者を雇用し、その研究者の昔の杵柄で大学のブランド価値をあげることができましょう。しかし、そういう研究者がつねによい研究を生産し続ける保証はありません。
大切なのは創造力と、研究への情熱をさまざまな部門に投入することができるだけの多様性を、大学がどれだけ確保することができるかです。
サイエンスショップは、次世代の新しい感覚で仕事することできる研究者を育て、市民社会がもつ新鮮な疑問や難問に、大学の研究者を曝すことで、さまざまな知的刺激を与えます。つまり、新しい知的創造のインキュベーター(孵卵器/培養器)になる可能性を秘めているということです。
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