アントノフスキー仮説
Antonovsky's hypothesis
翻訳
解説:池田光穂
米国のユダヤ系の医療社会学者アーロン・アントノフスキー(1923-1994)が提唱した、人間健康維持(あるいは健康回復)に関する仮説。西洋近代医療(思想)に親しんだ者ならば、比較的容易に理解可能な、自我の確立を前提にする健康の維持と回復に対する考え方。
アントノフスキーは、健康達成ないしは回復には、(1)健康を生み出す社会=身体的メカニズムと、個々人の主体のなかに(2)身体統一感(Sence of Coherence, SOC)が不可欠であるとした。
前者は、サルートジェネシス(サリュートジェネシス)すなわち健康の生成論という考え方で、健康を維持できる個人と社会がおかれている状況のなかに健康を支配する要因すなわち衛生的要因(sanitary factors)があり、それらがうまく働くことが重要であるとした。また後者は、健康を増強するような強さは主体がもつさまざまな身体的社会的要素の結合力(ないしは首尾一貫性)が十全であることを示したものであり、尺度化可能なものである。
アントノフスキーがいくつかの書物を通して、このような仮説(理論)に到達したのは、彼自身のユダヤ人同胞に対する第二次大戦中ないしは戦後のシオニズム国家のなかで、生存条件の危機的な状況に遭遇しても「健全」な身体と精神をもつ同胞がいたことに対する経験からきている。
健康が人間にとって非常にダイナミックな実体であるということを指摘した点ならびに、健康達成を個人的な到達ではなく社会との関係のなかで考えたことは重要な指摘である。他方、医療化により、個人の主体感覚や医療行動が変容することや、その理論自体もやがて一種の健康主義化するということを予言できなかった点で、理論的には仮説のままにとどまっている。
文献
Antonovsky, Aron., 1979. Health, Stress, and Coping. San Francisco: Jossey-Base Publishers.
Antonovsky, Aron., 1987. Unraveling the Mystery of Health. San Francisco: Jossey-Base Publishers.
アントノフスキー、アーロン『健康の謎を解く』山崎・吉井監訳、有信堂、2001年
池田光穂「嘘あるいは学術的法螺話と遭遇する」(授業資料)
Copyright, 2007 Mitzu Ikeda