科学人類学(科学の人類学)
science anthropology, anthropology of science
解説:池田光穂
科学人類学(anthropology of science)とは、科学研究(scientific study)を文化人類学の観点から分析解明する研究領域である。
したがって科学人類学は、従来の文化人類学のように異邦の少数民族(ethnic minority)や国民(nation)を対象とするのではなく、現代社会の科学者集団を対象にする研究である。その方法論については文化人類学と同じくする。
ラトゥールとウールガー『実験室の生活』(初版1979, 1986)を嚆矢とする。しかし、科学論研究では実験室の関係者にインタビューをした研究(=実験室をフィールドワークの場とする)があったり、科学史研究そのものが、科学の現場の状況の再現や再構成(=歴史的に民族誌的事実を構成する)することに関心があるため、科学人類学に先行する諸研究が人類学的な感覚がまったくなかったとは言えないし、また実験室の民族誌研究が、ラトゥールらだけがはじめたのではないことは銘記しておくべきだろう。
実験室の民族誌学的研究は、その方法論を母胎とした文化人類学の学説史における展開とアナロジーして考えるとわかりやすい(ただし、それだけがすべてではない)。
1.アームチェア科学人類学
フィールドワークをしない科学論、科学史研究がそれにあたる。また文化人類学の方法論を身につけていない人たちの研究。
2.機能主義的な科学人類学
実験室が存続するための「機能」について、その社会構造、流通する言説、次世代の育成など、コミュニティないしは社会の維持と再生産に関心をもつ研究
3.構造主義的な科学人類学
先行する科学研究、科学論、科学史などのデータに通底する人間の「理性」「知性」の共通性や一般的特性を関心をもち、知性的実践の一般化や(形而上学的な)先験性の特徴を見いだそうとする研究
4.解釈学ないしは象徴人類学的傾向のつよい科学人類学
現象学の影響を受けながら、知性の抽象化のプロセスを、現場の人間の語りなどから「理解」しようとする研究。。
5.行動科学的な科学人類学
コミュニティにおける周辺的参加の概念に影響を受け、細かな行動観察という客観的データと、その現場での言説行為との関係、リフレクシヴな分析などを照合させる。
科学人類学研究が、文化人類学研究のなかで重要な位置を占めてくるようになった理由として、以下のようなことがあげられる。
・ハイテク機器や環境科学など、科学の発展が現代の市民生活と密接に関わるようになってきたため、科学者の営為に人々の関心が高まってきたこと。
・科学研究の現場に、科学者自身によるリフレクシヴィティ(自己省察性)の必要性が高まり、文化人類学による介入と社会的な相対化についての機運が高まってきた。
・人類学パラダイムにおける、研究対象の枯渇化や研究領域の細分化がが進み、未開拓・未着手のこの領域に進出する人類学者(あるいは行動学者)たちが増えてきたこと。
文献
池田光穂「実験室における社会実践の民族誌学的研究」および「文献リスト」
____「フィールド・ライフ[改訂版]:熱帯生態学者たちの微小社会活動に関する調査の概要」(コスタリカにおける多国籍の生態学者に関する科学人類学調査研究)
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