政治人類学
Political Anthropology

解説:池田光穂
【定義】
人間のもつ政治性、政治権力、政治体制など、政治(politics)に関わるもの一切を考察の対象にする人類学の分野。
人類学者と現実の政治について、主に門外からさまざまな臆測がなされてきた。人類学者が、政治権力に対して距離をとり、相対主義的傾向がつよい。逆に、人類学者は人間の普遍的平等性に忠誠をもつので、政治的な人が多い。フィールドワークにおいては、現地の政治体制のもとで調査をおこなうので、政治的には保守的で、無関与の人が多い。いや、人びとと接触する機会が多いので、人類学者の多くは全体主義体制のなかで犠牲になりやすかったし、また調査許可が下りずに長年の調査が困難な人類学者も数多くいる。
すくなくともこれらの「臆測」は個々のケースにおいてすべてにあてはまる。しかし、それは人類学者という固有の社会的役割から来ているわけではなく、他の種類の多くのフィールドワーカーと同様、現地調査とその土地の政治体制と無関係に仕事ができないこと、つまりさまざまな制約を受けることを示している。
マルセル・モース、ピエール・クラストル、ジョルジュ・バランディエ、マーシャル・サーリンズ、シドニー・ミンツ、エリック・ウルフ、ソル・タックス、ヴェーナ・ダス、ナンシー・シェーパー=ヒューズ、ディビッド・グレイバー、石田英一郎、田辺繁治、清水昭俊など、歴史上、著名な人類学者で、政治や政治理論と深く関わってき、かつその学問に多大なる影響を与えている人類学者は多い。
さて、政治人類学のエピソードの中で、もっとも興味深いのがクラストルのそれであろう。
クラストルは、それまでの政治人類学の理論が(マルクス主義流の)史的唯物論影響を受けて、人類学の政治体制の議論のなかに潜む進化主義の弊害に気づいていた。すなわち、彼が調査したアマゾン社会の先住民の政治体制(=国家をもたない人びと)は、歴史的な存在であったアステカやインカののような王権国家体制という段階まで「進化していない」という偏見をもっているのではないかと批判した。
クラストルは考えた、アマゾンの先住民の諸社会の人びとは、国家権力がもつ暴力性によって社会を維持する制度を十全に理解した上で、自分たちの社会のなかに、そのような異質性(=他者性)をもちこまないように、自分たちの社会を運営していたとすれば、彼らの政治体制はどのように理解することができるのだろうか、と。
そこでは、(国家権力のもつ暴力性を自明視する)我々の政治や社会の運営の仕方が、アマゾンの先住民社会からみたら、道徳的には異様で、ことによれば間違っているように思えるかもしれない。
実際、アマゾンの先住民(男性なのだが)にとってリーダー(首長)になることは、メリットになることはほとんどなく、つねに監視されていて、苦役になるほどであった。他方、暴力は、力の差異によって権力を得るためではなく、平等(男女の違いは極めて重要なので、男女間の平等はあり得なかったが)を維持するために――我々からみれば過剰と思えるほど――発動されるのであった。
文献
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