生物多様性
Biodiversity, せいぶつたようせい
解説:池田光穂
生物多様性とは、ある空間(熱帯雨林の林床に降り注ぐ一滴の水から、生物群集、群系、生態系から大陸や大洋さらには地球全体まで)のなかに存在する生物種の種類の多さのことをさす概念である。
1960 年代末から70 年代前半のエコロジー運動の隆盛があるものの、僅か四半世紀前までは、生態学研究(ecological studies)はきわめて限られた専門家によるマイナーな分野のままであった。
だが1975 年以降、社会生物学を経由した進化生物学理論の影響を受けつつ、生態学はその革命的変貌を遂げつつあった。他方、長期的な気候変動の観測事実が明らかになるにつれて、環境汚染問題は地域レベルを超えて大陸や地球レベルで論じられるようになる。生態学者もまたこれらの問題に対して学問的解明のみならず、実践的な役割を期待されるようになっていく。
1970 年代にシステム生態学を基幹とする保全生物学(conservation biology)の精緻化がすでに進行していたが、1980 年代以降とりわけ90 年代では生物多様性(biodiversity)という生態学理論の基本分析概念が、地球と地域レベルの環境保全を語るための重要な用語として、専門家間の流通を超えて、自然保護主義者、エコツーリスト、先住民支援者、多国籍製薬企業、生物資源大臣、そして市民にまで膾炙するに至った。
「生物多様性」の用語と概念は、環境的健全さの指標のみならず途上国の資源管理や生物盗賊(biopiracy)や動物権利(animal rights)などを市民に想起させる意味で「基幹的隠喩(root metaphor)」(Turner 1974)になった。これらの社会的過程はある意味で「生物多様性概念の社会化」と呼ぶことができるが、いまだ充分に医療人類学(文化人類学)的に解析されたとは言い難い。
生物多様性は21世紀をむかえた現在、生態学的な概念を温存させながら、同時に政治経済的概念でもある。あるいは政治経済的概念になったと言うことができる。
文献
Copyright, 2009-2010 (c): Mitzub'ixi Quq Chi'j