ニューロエシックス
neuroethics, 脳神経倫理学
ニューロエシックス(neuroethics, 脳神経倫理学)とは、広義には、脳神経にかかわる治療や実験における倫理学上の問題を検討する生命倫理学のことである。脳神経にかかわる実際の治療や人間を含む動物実験についての判断は医療倫理[学]上の手続きによる。
ニューロエシックスが、生命倫理学や医療倫理学の下位分野にあたるのか、それとも独自性をもった特殊な専門領域(つまり狭義のニューロエシックスの確立が求められている専門分野)なのかについては、哲学者、法学者、社会学者、人類学者のみならず、当事者である患者や被験者を含めて、より当事者に近い、生命倫理学者や、医療倫理学者のあいだでさまざまな立場と主張の違いがある。
ニューロエシックスの研究と検討の成果をどのような学問実践に結びつけるのかという問題の他に、ニューロエシックスという学問の存立には、脳神経への機械的節合(→サイボーグ)やロボット化、薬物投与や遺伝子操作の結果として生まれる「行動修飾」や「エンハンスメント」、や「情動への介入」というこれまでの医学領域の脳神経への介入が新種の問題を引き起こすからだという主張が大きく絡まっている。
ニューロエシックス研究ノート
美馬達哉「脳のエシックスと医療人文学」第10回大阪大学医療人文学研究会;平成22年2月24日(水)(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター・オレンジショップ)
___________________
・ディナ財団(2002年5月)主催シンポジウム「ニューロエシックス:領域をマッピングする」
・『エコノミスト』(2002年5月25日号)「心を開こう」記事
・『サイエンティフィック・アメリカン』2003年9月号「より優れた脳」特集
・Neuroethics の語源は1989年ミネアポリスの神経内科医R・クランフォードが病院IRBで主張したことにはじまる(ただし神経倫理の示す内容は今日のものとは無関係)
・1991年 パトリシア・スミス・チャーチランドらの編著『私たちの脳・自己、ニューロエシックスの問題についての考察』
→P.S. チャーチランド「道徳的意志決定と脳」J・イレス編『脳神経倫理学』高橋隆雄・ 粂和彦 監訳、篠原出版、2008年(原著2006年)
・「脳と神経」ではなく日本語で医学用語の「脳神経(Cranial nerves)」は脳からでる12対の末梢神経のことをさす。
・ジェイムズ・チルドレス(トム・ビーチャムとの共著『生命医学の倫理』の著者)は、倫理原則の一般性から脳神経倫理という単独の領域はありえず生命倫理の論理の展開で可能と懐疑的立場を主張(2007年京都大学でのシンポジウム)
→ビーチャムとチルドレス『生命医学倫理』永安幸正・立木教夫訳、成文堂、1997年(原著三版、1989年)
・エリック・パレンス(エンハンスメント議論の生命倫理学者)もまたバイオエシックスの「バルカン化」(=細分化)を批判
→香川知晶「バイオエシックスのバルカン化違反とニューロエシックス」『現代思想』36(7):69-79、2008年
・脳科学者のガザニガ『脳のなかの倫理』(梶山あゆみ訳、紀伊國屋書店、2006年[原著2005])は、バイオエシックスとニューロの違いを強調し、後者の独自性を主張。パトリシア・スミス・チャーチランドも倫理(=自然化された倫理学)は脳の思考の産物であることを示唆。
・2008年『ニューロエシックス』誌の創刊
・(脳科学の「帝国軍」としてのガザニガやチャーチランド〈対〉「反乱軍」としてのバイオエシスト?)
・歴史学者デイビッド・ロスマン『医学倫理の夜明け』(酒井忠昭監訳、晶文社、2000年[原著1991])による、1966-1976年の10年間の患者の権利運動とりわけ自己決定の権利の浮上。
・1966年:バイオエシックス元年、なぜならば医師ヘンリー・ビーチャーが医学論文における同意無しの人体実験(例:タスキーギ事件:1930s〜:1974年連邦政府による賠償)[→生命倫理学関連年表]
・アルバート・ジョンセン『生命倫理学の誕生』(細見博志訳、勁草書房、2009年[原著1998]):医療倫理から生命倫理へというテーゼ
・哲学者アディナ・ロスキースによる二分法:(i)「実践のエシックス」と「脳科学のエシックスの含意に係わる研究」からなる〈脳科学のエシックス〉、と(ii)「エシックスの脳科学」(ガザニガやチャーチランド)。[→W. Glannon ed. Defining right and wrong in brain science, Dona Press, 2007]
・美馬(公刊準備中)は、「弱いニューロエシックス」と「強いニューロエシックス」と分類し、整理し直しているが、これは省略(人文書院からの出版を待て!)
・べつのニューロエシックスを研究するにあたっての研究対象である脳科学の分類法(法学者ガーランド、脳科学者マーサ・ファーラー):(a)イメージング、(b)介入手法(薬物や機器)と二分している。
→B.ガーランド編『脳科学と倫理と法』古谷和仁・久村典子訳、みすず書房、2007年[原著2004]
文献
(c) Mitzub'ixi Quq Chi'j. Copyright, 2010