はじめによんでください

フィールドワーク研究の倫理

Elemental Form of fieldworkers' Ethics

解説:池田光穂

フィールドワーク研究の倫理

【1】フィールドワーク研究の倫理
スライドをクリックしますと単独で表示されます!(以下同様です)

【2】目次
  • ・フィールドワーク
  • ・インフォーマント
  • ・インフォーマントと情報的価値
  • ・狭義のインフォーマント
  • ・インフォーマントの「搾取」について
  • ・インタビュー
  • ・インタビューの倫理性
  • ・フィールドワークの倫理(壱・弐・参)
  • ・文献
  • ・フィールドワーク倫理を考える要点
  • ・課題

【3】 フィールドワーク

フィールドワーク(field work)とは、「研究対象となっている人びとと共に生活をしたり、そのような人びと[=調査対象者であるインフォーマント]と対話したり、インタビュー をしたりする社会調査活動のこと」である。

文化人類学者は、フィールドワークにもとづいて、人びとの生活に関する記述であり同時にその人類学的考察である記録(=質的情報や量的 情報 で構成される)である民族誌を著します。


【4】インフォーマント

インフォーマント(informant)とは、調査において人類学者に情報(information)を提供してくれる人のことです。

ジャーナリズムの用語で言うと、取材を受ける人、情報提供者、被調査者など、さまざまな言い換えが可能ですが、人類学は狭義のジャーナ リズ ムではないので、そのようには考えません。また、軍事作戦におけるインフォーマントは、「現地の情報に精通し、またスパイにもなる民間の協力者」(内部通 報者)ということになるかもしれなませんし、そのように使われています。

インフォーマントとは?

【5】インフォーマントと情報的価値

インフォーマントは、情報論的にはデータそのものであり、調査者はインタービューを通して、インフォーマントの情報すなわち地域や文化 の情 報を引き出すことになりますが、これもまた人類学の理論におけるインフォーマントのことではありません。

では、インフォーマントとは誰のことか

人類学におけるインフォーマントは、調査のプロセスで接触するすべての人々のことと考えてもらってもよいでしょう。現地の人と出会い、 話し 合うことを通した自分の活動を内省的にみれば、人類学者自身もまた相手にとってインフォーマントとなりうる資格をもっています。したがって、人類学の調査 では、あらゆる人がインフォーマントのことになります。


【6】 狭義(きょうぎ)のインフォーマ ント
他方、人類学では同時にインフォーマントを[今度は逆に]狭く厳密に捉えることがあります。この場合のインフォーマントは、人類学者の調査 の趣旨を理解してくれ、人類学者の対話の相手になる、同僚または先生のことでもあります。この狭義のインフォーマントは、人類学の著名な調査には人類学者 の有能な助手となるだけでなく、人類学者の導きの糸たる先生にもなり、人類学者の名声と共に人類学の歴史に名を残す人もいます。

【7】インフォーマントの「搾取(さく しゅ)」について

よく人類学という学問的枠組みに対する政治的批判において、人類学者がインフォーマントを知的あるいは経済的に「搾取」するイメージで語ら れることがありますが、先のように先生(=インフォーマント)と生徒(=人類学者)の関係のようにフィールドワークのプロセスにおいてその地位がしばしば 逆転することがあったり、長く友愛の関係で結ばれることが〈経験的事実〉としてありますので、人類学者がインフォーマントを搾取するというイメージは(全 くそのような危険性がないとは言えないものの)不適切であることは、強調してもよいと思います。

【8】 インタビュー

インタビューとは、対話や問答を通して人にものを聴く・聞くことである。

人類学的インタビューとは、人類学者や人類学を勉強する人たちが、インフォーマントとよばれる調査協力者に対して、人類学調査に関わる さま ざまなものを聞くことである。


【9】 インタビューの倫理性

したがって、調査者は、その研究の目的のためにさまざまなインタビューをおこなうが、その方法は多様なものがある。また、友人との日常 の会 話から行政や司法の場面における査問まで、それらの行為には調査者の倫理性が伴うことも忘れてはならない。

また、通常、インタビューは対面調査でおこなうものをさすが、コミュニケーション技術の発達などにより、電話や電子メールなどでインタ ビューに準じたものが行われることがある。これらの手続きや倫理に関する事象も、対面調査で行われるものに準拠した扱いでおこなわれるべきである。


【10】フィールドワークの倫理・壱

人間を対象にする調査研究は、根元的に人体実験*的性質をまぬがれえない。

そのために、調査研究において、調査する人間が調査される人間の尊厳を傷つけたり、される側の資源(人体の一部あるいはその隠喩[例: 知 識])をする側が搾取するという事態がおこりうる。

調査研究の倫理について学ぶ


【11】フィールドワークの倫理・弐
このような事態は、研究者じしんが道徳的であるか、よい人間であるかというとは関係なしに、行為が社会的にどのように意味づけられるかに よって、構造的に決定される性質のものである。調査者の倫理は、その人の内面を規定するものではなく、その人がどのような手続きをふんで調査をおこなおう とするのか、おこなっているのか、おこなったのか、という観点からきめられる。

【12】フィールドワークの倫理・参

したがって、調査者は調査をはじめる前に、その調査が、人間の倫理にかなっているか、調査をおこなう正当性をもちうるか、研究がもたら す社 会的影響力等について責任を負うであろうことに、十分な配慮をもたなければならない。

反倫理行為は構造的に決定されるために、倫理の学習は、さまざまなケースを通して学ばれる必要がある。


【13】文献
  • 安渓遊地、1991、「される側の声――聞き書き・調査地被害」『民族学研究』第56巻3号、pp.320-326.
  • 宮本常一、1983、「調査地被害」『宮本常一著作集』第31巻、未来社.
  • 山口昌男、1979、「調査する者の眼――人類学批判の批判――」『新編人類学的思考』pp.43-71、筑摩書房.(この論文 は本 多勝一「調査される者の眼――人類学入門以前」『思想の科学』1970年6月号への反論である)

【14】フィールドワーク倫理を考える要 点
・誰のための、どんな研究か? ただしどんな研究でも「言ったこと」と「実践すること」には齟齬が不可避的に生じる。
・現場の人びとの個別情報には、大きくわけて(1)秘密や親密、(2)プライバシーや個人情報、(3)知的財産や個人の威信を維持するた めの 利益情報、があり、調査にはこれらの3つの性質に関して契約上の責任をもつ。
・説明責任(accountability)と応答責任(responsibility)
・倫理は社会的かつ歴史的に相対的だが、個人の責任はそのような相対化を超えて作働する宿命をもつことも理解すべし!
【応用問題】問い:すばらしい学生の答案やレポートは無断で引用できる か?

【15】課 題
皆さんは、これからチームを組んでハナモゲラ共和国のランゲルハンス諸島の住民に対してフィードワークをおこなおうとしてます。この住民の なかに成人後に常染色体〈異常〉により「未来の予知能力」を得ることができる人たちが含まれることが明らかになったからです。この予知能力遺伝子のDNA サンプルは口腔内の粘膜を取ることで分かりますが、正確に同定するためには、資料をすべて日本に持ち帰る必要があります(続く)

【16】課 題(続き)

ハナモゲラ国立大学の研究チームも、どうもこのことに気付き我々の研究に大いなる関心をもっているようです。もちろんこの遺伝子異常は 軍事 技術にも応用可能ですので、世界の国防省や軍事産業も関心をもっています。

【課題】あなたは、日本を出発する前から帰国するまでに、どのような倫理上の課題を抱えることになるでしょう。1.出発前、2.出発後 現地 到着後、3.住民への調査中、4.調査終了後の出国前、5.帰国後、という5つの研究のフェーズにわけて、課題を列挙し、それに対する適切な対処法を創案 してください。

当日配布したワークシートの構成は下記のとおりです。



Copyright Mitzub'ixi Quq Chi'j, 2010-2017

【以下、参照】

日本文化人類学会倫理綱領

前文
 日本文化人類学会は、文化人類学の研究・教育および学会運営にあたって依拠すべき倫理上の基本原則と理念として、ここに「日本文化人類学会倫理綱領」を 定める。

 本綱領は、日本文化人類学会会員が心がけるべき倫理綱領であり、会員は社会の信頼と負託に応えるため、そして文化人類学の調査・研究の進展のためにも、 本綱領を十分に認識し、遵守しなければならない。

 文化人類学の調査・研究は、あらゆる学問と同様に、社会の信頼と理解の上に成り立っているが、そのことは調査・研究の対象となる社会においても、また研 究者の所属する社会においても、共通の真理である。したがって、われわれはこのような学問の公共性と公益性ならびに社会的責任を常に自覚し、真摯に知識を 希求するとともに、その成果を人類社会の平和と福祉に寄与すべく、広く社会に還元するよう努めなければならない。

 また文化人類学の教育・指導をする際にも、本綱領にもとづいて、文化人類学教育および文化人類学研究における倫理的な問題について十分配慮し、学習者に も注意を促さなければならない。

 文化人類学の研究・教育の発展と質的向上、創造的な研究の一層の発展のためにも、本綱領は、日本文化人類学会会員に対し、研究・教育における倫理的な問 題への自覚を強く促すものである。

【地球市民としての倫理】

1条 (人権および諸権利の尊重)

われわれは、いかなる場所・場合においても人権を常に尊重し、プライバシー、肖像権、知的財産権、著作権などの諸権利に留意して、それらを侵害してはなら ない。

2条 (差別的処遇の禁止)

われわれは、年齢、性別、性的指向、思想信条、信仰、障がいの有無、民族的背景、身体の形質的特性、国籍、出自などに基づく差別的な扱いをしてはならな い。

3条 (ハラスメントの禁止)

われわれは、ハラスメントにあたるいかなる行為もしてはならない。

【調査地や調査対象の人々に対する倫理】

4条 (説明責任)

文化人類学の調査・研究を行うに際し、われわれは調査地・調査対象の人々に対して当該調査・研究の目的、方法およびその成果公表などの一切に関する説明責 任を負うことを銘記しなければならない。

5条 (危害や不利益の防止)

われわれは、調査・研究対象として関わる人々の生命・安全・財産を決して損なったり侵害したりすることなく、また、直接的・間接的な危害や不利益が生じな いように万全の体制を整えて調査・研究に臨まなければならない。

6条   (調査・研究成果の地域への還元)

われわれは、調査・研究成果の地域への還元と地域での利用可能性の保障を念頭に、広く社会的還元に努めなければならない。

【研究者間における倫理】

7条 (調査・研究成果の剽窃・盗用・捏造の禁止)

われわれは、他人の研究成果を剽窃または盗用したり、データを捏造したりすることがあってはならない。

8条 (共同研究等の実施・成果公表と著作権の明確化)

調査・研究を複数の研究者が共同で、あるいは他者の協力を得て行う場合、その実施上の役割分担や責任の所在、および、その成果が公表される場合の著作権等 について十分な合意形成をしておくことに留意しなければならない。

9条 (相互批判・相互検証の場の確保)

われわれは、開かれた態度を保持し、相互批判・相互検証の場の確保に努めなければならない。また、他人の研究を妨害してはならない。

【雇用主や資金提供者に対する倫理】

10条 (資格や技能の正確な報告)

われわれは、自らの資格や技能を雇用主や資金提供者に、偽ることなく伝えなければならない。

11条 (適正な資金の取り扱い)

われわれは、雇用主や資金提供者から与えられた資金を適正に使用しなければならない。

12条 (適正な契約)

われわれは、本倫理綱領に反するような契約や約束を雇用主や資金提供者と結ばないように留意しなければならない。

附則1. 本綱領は2008年6月1日より施行する。

附則2. 本綱領の変更は、日本文化人類学会理事会及び評議員会の議を経て、同総会の決議を経ることを要する。

(※最新版は末尾のURLや各種ウェブページ検索で確認してください)

出典:http://www.jasca.org/onjasca/ethics.html(最終確認2017年11月10日)

※この倫理要綱の最初のヴァージョン(2008年6月1日)は、歴代の会長リストより、第22期須藤健一会長当時(2006〜2007年)に制定され、第23期山本真鳥会長(2008年〜2009年)就任時の学会大会で採択されたと思われる。