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有機的知識人

Organic intellectual, intellettuale organico

池田光穂

社会の高度化・組織化に伴って、知識・科学・技術を 担う人たちと政治権力との関係が複雑になり、俗人(あるいは素人)に対する、ある種の特別な処遇をうける知識人が、その社会の運営にむかって総合的・統合 的に関わりあう時、それを有機的知識人と呼ぶことができる。この用語は、アントニオ・グラムシ(Antonio Gramsci, 1891-1937)が使った、intellettuale organico に由来する。

私(池田)なりに有機的知識人を定義すると、「思索的営為にふけりながらも、思索(=理論)を行動(=実践)に関連づけよ うとして、道徳的な目標を立て、政治的な目的のために支持者をつくり、それらを組織化し、連携・連帯させる精神的活動者」をそう呼ぶことが できるのである。

■知識人の生成

「社会集団はいずれもがみな、それが経済的な生産の 世界におけるひとつの本質的な機能を本源的地盤として生まれてくるさい、同時に、有機的に、その社会集団に経済の分野においてばかりでなく社会と政治の分 野においても自らが担っている機能についての意識とひいては等質性をあたえる単数または複数の知識人層をつくりだす」(p.46)。

■知識人の特性

「新しい階級のいずれもがみな自分自身とともに つくりだし、自らが前進的な発展をとげるなかで錬成していく「有機的」知識人(intellettuale organico)は、大抵の場合、新しい階級が明るみに出した新しい社会的基の本源的活動の部分的諸側面が「専門化したものであるとみることができる」 (p.47)。

有機的」知識人の対概念は、「伝統的」知識人であ り、これは「古典世界における知識人」のカテゴリーに属するが、(その時代的制約により)農民大衆は 「有機的」知識人を錬成することもできなかったばかりでなく、「伝統的」知識人に対しても同化するこができなかった(p.48)。

そのような古典的世界――それは(資本主義社会に) 「先行する経済構造」をもつ――では、聖職者は、土地貴族層と有機的に結びついた知識人であると、グラ ムシはいう。

■聖職者と俗人

「聖職者たちの側からの上部構造の独占(この独 占から、ネオ・ラテン語に起源をもつ、あるいは教会ラテン語をつうじてネオ・ラテン語から強く影響を、つけ た多くの国語において、「聖職者」〔ネオ・ラテン語 clericus ――イタリア語 chierico ――スペイン語 clerigo ――フランス語 clerc ――英語 clerk〕という語がもっている「知識人」――あるいは「専門家」ーーという一般的意味は生まれたのであった。そして、これの相関語である「俗人=非聖 職者」〔ネオ・ラテン語 laicus ――イタリア語 laico ――スペイン語 lego ――フランス語 laic ――英語 layman 〕のほうには素人――非専門家ーーという意味がある)が行使されるにあたっては、闘争やさまざまな制約があった」(p.49)。

■伝統的知識人のēthos

伝統的知識人は「「団体精神」によって、自分た ちが中断されることのない歴史的連続性を保持していると感じており、また自分たちにはしかるべき資格がある と感じているので、自らを支配的社会集団から独立した自律的な存在であると位置づける。そして、かれらがこのように自らを位置づけることは、イデオロギー と政治の分野にもろもろの結果、それもきわめて重大な結果をもたらさずにはおかない(観念論哲学は総じて知識人たちの社会的総体がこのように自らを位置づ けることと容易に連結させてとらえることができるのであって、知識人たちに自分は「独立の」存在であり、自律的な存在であり、独自の性格をそなえた存在で あると思いこませる社会的ユートピアの表現であると定義することができる」(pp.49-50)

■知識人と捉えることの可能性と限界

「「知識人」という用語の意味の「最大限の」制 限はなにか。種々ある知的活動のすべてを等しく特徴づけるとともに、同時に、しかも本質的なしかたで、これ らの知的活動を他のもろもろの社会的集合体の活動から区別するための単一の基準を見いだすことはできるのか。もっとも広く見られる方法上の誤りは、この区 別の基準を知的活動の内的本質のうちにもとめて、知的活動(とひいてはそれらを体現している集団)が社会的諸関係の一般的複合のなかにあって位置を占めて いるのが見いだされることになる関係体系(sistema di rapporti)の総体のうちに求めようとしてこなかったことではないかとおもわれる」(p.51)。

■すべての人が知識人とも言えるが、しかし……

「だから、すべての人は知識人である、というこ とができるだろう。が、すべての人が社会において知識人の機能をはたすわけではない(たとえば、人はだれで も時には二個の卵を目玉焼きにしたり、上着のほころびを繕ったりすることがあるからといって、すべての人が料理人であり裁縫師であるとはいえないだろ う)。こうして知的機能の行使を専門とするいくつかの職業部類が歴史的に形成される。そして、それらの職業部類はすべての社会集団との結びつきのなかで形 成されるが、とりわけ、より重要な社会集団との結びつきのなかで形成されるのであり、支配的社会集団との結びつきのなかでいっそう広範かつ複雑な錬成をう けるのである」(p.52)。

■有機的知識人とイデオロギー、そして教育システム

「支配にむかって発展している社会集団のもっと もきわだった特徴のひとつは、その社会集団が伝統的知識人の「イデオロギー的な」同化と獲得のための闘争を 展開するということである。しかしまた、この同化と獲得とは、当の社会集団が同時に自分自身の有機的知識人を錬成すればするほど、それだけいっそう急速か つ効果的なものとなる。中世の世界から生まれたもろもろの社会において(広義の)学校の活動と組織とがとげた巨大な発展は、近代世界において知的な諸機能 とそれらの行使を専門とする職業部類がどれほど大きな重要性をもっていたかを示している。各個人の「知的能力」を深化させ拡大させる努力がなされるととも に、専門化された諸部門の数を増やし、それらを洗練する努力がなされたのであった。このことは、科学と技術の各分野に、いわゆる「高等教育」を促進するた めの諸組織にいたるまでのさまざまな段階の学校施設がつくられていることからわかる(pp.52-53)。

■有機的という意味について考えよう

「知識人と生産の世界との関係は、基本的 (fondamentale)の場合に生じるような直接的なものではなくて、社会的組織全体によって、上部諸構造 の総体によって、さまざまな度合いにおいて「媒介」されている。知識人というのはまさしく上部諸構造の「職員=機能の担い手」である。さまざまな知識人層 の「有機度」、すなわち基本的社会集団との結びつきの緊密度を測定するには、〔知的〕諸機能および上部諸構造を下から上へと(構造的土台から上にむかつ て)段階づけてみるとよいだろう。さしあたっては、上部諸構造の二つの大きな「次元」を確定することができる。「倫理的社会(societa civile ――市民社会?引用者注)」と呼ぶことができる次元、すなわち俗に「私的な」といわれている諸組織の総体からなる次元と、「政治的社会あるいは国家」の次 元とがそうである。前者は支配的社会集団が社会全体において行使する「ヘゲモニー」の機能に対応し、後者は国家および「法律的」統治において表現される 「直接的支配」あるいは命令の機能に対応する。これら2つの機能は厳密に組織的かつ連結的な性質を有している。知識人たちは、社会的ヘゲモニーと政治的統 治、すなわち、
(1)支配的な基本的社会集団が社会生活に刻印する指針にたいして住民大衆のあたえる「自発的な」同意――この同意は支配的社会集団が生産の世界において 占めている位置と機能とから支配的社会集団にもたらされる威信(とひいては信用)から「歴史的に」生じる――と、
(2)能動的にも受動的にも「同意」しようとしないもろもろの社会集団の統制を「合法的に」保証するものであると同時にしかしまた命令と指導知識人の形成 と機能に危機が生じて自発的な同意が失われる瞬間を予想して社会全体にわたって構築される国家的強制装置の下位的諸機能を遂行するための支配的社会集団の 「代理人(commesso)」なのである」(pp.53-55:改行と一部改変しています)

このページの目的

このページの目的はマルクス主義者になれということ ではない。グラムシがマルクス主義の理論家であったことなど、僕にとってはどうでもいいことである。有機的知識人というのは、19世紀の終わりぐらいか ら、知識人に対する社会的権威と闇雲な尊敬が終わりつつある時代に、そのノーブルさをどのように取り戻すのか? そして、市井のひとからなりたつ社会(= 大衆社会とも言えよう)と「知識とその生産」の結びつきに対して、どのような可能性があるのかという思考実験であったと思うのだ。それゆえ、このページは研究倫理の項目から[も]リンクしているのである。

■リンク集

■文献

グラムシ、アントニオ「知識人の形成と機能」『知識 人と権力』上村忠男編訳、みすず書房、1999年

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