かならず 読んでください

火星の人類学者カメレオン

An Anthropologist on Mars

池田光穂

同名のオリヴァー・サックスの科学エッ セー『火星の人類学者』の著作にゆらいする言葉。この本の(の重要なストーリーのひとつ)は、著者サックス が、自閉症者でストレスフリーの動物の屠畜装置発明者のテンプル・グランディンに会いにゆく話です。彼女の独特の対人コミュニケーション感覚、それを本人 は「火星からやってきた人類学者のようだ」という発言をもとに、自閉症者とのコミュニケーションを考える著作です。

一般に火星の人類学者とは、人類学者に とっての異文化経験のインパクトにおける疎外(alienation)や異邦人感(alienated experience)を誇張的に表現した方法で、古くから言われてきたものである——ひょっとしたら、社会学者ロバート・マートンなどが過去に言及して いるかもしれないが、口語法としてよく言われてきたものだと言われる。メルロ=ポンティは異邦人的傍観者という言葉で表現したが、そのような情況に、ごく 普通の人でも陥ることがある。

とりわけ、我々じしんが、地球人の共通の しきたりや作法、あるいは思考法や正義について知っているはずなのだが、知らないうちに(例えば、犯罪容疑 者にされてしまうと)それまで住み慣れてきた世界とは異なる世界があることに気づかされる。マルクス主義や実存主義では、これを現 代人の疎外(alienation)と呼び習わしてきた。

しかし、他方で、ハンス・アスペルガーの瞠目すべき 論文(1946[1996:83-178,439-440])により、適切な治療とその後の教育により、彼/彼女らの後半生に驚くべき成果をみることがで きるのである。このテンプル・グランディンのケースもまさにそれに該当する。私(と共同研究者の竹内慶至氏)は、火星の人類学者たちのソーシャルインク ルージョンのプロセスに大いなる関心をもって、研究をはじめた(→「火星の人類学者の参画について」)(→「火星の人類学者の方法論入門」)。

"An Anthropologist on Mars: Seven Paradoxical Tales is a 1995 book by neurologist Oliver Sacks consisting of seven medical case histories of individuals with neurological conditions such as autism and Tourette syndrome. An Anthropologist on Mars follows up on many of the themes Sacks explored in his earlier book, The Man Who Mistook His Wife for a Hat, but here the essays are significantly longer and Sacks has more of an opportunity to discuss each subject with more depth and to explore historical case studies of patients with similar symptoms."

""An Anthropologist on Mars" describes Sacks' meeting with Temple Grandin, a woman with autism who is a world-renowned designer of humane livestock facilities and a professor at Colorado State University. The title of this essay comes from a phrase Grandin uses to describe how she often feels in social interactions." both from Wikipedia's "An Anthropologist on Mars"

■表の見方:左よりパラグラフ番号、ページ(文庫版)、最初の暫定番号(無視してください)、コメンタリー、原文(未記入)です

1
p.332
1, by M/I
・1991年以降のThe Autism Tours, An Introduction... の観
・ジェシー・パークについての伝記『自閉症児エリーの記録』著者は母親
・このパラグラフは、1991年の自閉症者への、サックス(OS)の訪問
・ウタ・フリスが、グランディン(TG)への訪問を勧める【18】を見よ

2
333
2-1
レオ・カナー(Leo Kanner, 1894-1981)による考察:自閉症児=見込みのないケース
ハンス・アスペルガー(Hans Asperge, 1906-1980)による考察=優れた面、補償について考えた
Kanner, L. (1943), Autistic Disturbances of Affective Contact (pdf), Nervous Child, 2, pp.217-250.

3

2-2


4
334
3
カナーとアスペルガーによる記録は現在でも重要
・ビート・ハームリン
・ニート・オコナーらの研究
・ローナ・ウィング
■三重の障害
1)他者との交流障害
2)言語と非言語のコミュニケーション障害
3)遊びと想像活動の障害
※他者の心を感じない人たち

5
335
4
古典的な自閉症の心象はステレオタイプに満ちていて不満だ(→このエッセーを通して自閉症者(ASD)へのリビジョニズムを試みる?)

6

5
自閉症の大人は存在しない?!
・自閉症者の可能性について論じたのは、カナーよりもアスペルガーの(現代的)貢献。それゆえ「高い機能をもつ」自閉症をアスペルガー症候群と呼ぶ

7
336
6
・自閉症の構造機能論


8
337
7
・カナーは、自閉症の「母原説」に、結果的に貢献してしまう

9

8-1
生物学的素因をもつことは疑うべくもなく……
発症してから悪化することがある
胎児への影響(例:風疹)もあるかもしれない

10
338
8-2
両親の自責の念をもつことも特徴(次第に自閉になるために)

11

8-3
さまざまな療法を試みる親たち>>【15】での回復例が親たちに期待を与えてしまう

12
339
9
自閉症の多様性
多様なために生涯を追跡した研究が必要

13

10
オリーヴァー・サックス(Oliver Sacks, 1933-2015)と自閉症の出会い
・サヴァン症候群(savant syndrome)idiot savant「賢いバカ」より由来
・「能力の孤島(island of ability)」論
・1970-1900sの自閉症、再評価トレンド

14
340
11
・感情の交流のなさ、よそよそしさ、というのが、サックスの最初の印象
・サックスの頭の中には、本当の遊戯の概念があり、子供は本当に遊戯していることになる。

15
341
12
思春期になると社会的能力を身につけるようになる。つまり「回復」する。

16

13
健常者に与える不安

17
342
14
ウタ・フリス(Uta Frith, 1941- )『自閉症の謎を解き明かす』
・フリスの3つの障害とは:他者との交流、言語と非言語のコミュニケーション障害、そして遊びと想像の障害
欠陥はあるが、なにか、倫理性、知的な強さ、純粋さがある、と指摘。
・アスペルガーが「自閉症的知性」について指摘

18
343
15
ウタ・フリスが、サックスにグランディンに会いにゆくことを勧める。
19

16
テンプル・グランディン『我、自閉症に生まれて』1986年
・ここからはじまるのがTGとOSの交流:OSは彼女をつねにテンプルとファーストネームで呼ぶ

20
344
17
生後6ヶ月で母親に爪を立てるという経験をもつ

21
345
18
粘土の代わりに大便をもって遊ぶ

22

19
集中力をもつようになる
トゥレット症候群(Tourette syndrome)でも類似の集中力

23
24
346
20
23→3歳の時に自閉症の診断
24→混沌・固着・暴力・交流不能の幼年時代から、どのようにして、グランディンは「立派な生物学者、技術者」になったのか【出会うまでの最大の審問】

25

21
電話での打ち合わせの様子。【金曜日の予定の調整】
・タコベルの、bellish のギャグは笑えます!

26

22
歩き方がぎこちないのをサックスは気がつくが、彼女自身は、小脳と前庭系の発達障害だと説明

27
348
23


28

24
『肉牛の行動とその世話、施設の設計』(pdfあり)

29

25
有無を言わない勢いと固着性

30
349
26
他者への配慮のなさを、彼自身のコーヒーリクエストから解説。
TGの入れ子構造

31

27
【TGとOSの解釈が交錯する】——このエッセーの魅力

32
351
28
アニミズムについてのサックスの質問
・小説は苦手、登場人物への共感その他
火星の人類学者の最初の言及

33
352
29
・社会的コンテキストにあわせる自分の知識をビデオアーカイブのように覚えており、その情報を呼び出して、ひとびとの「作法」にあわせる。
・それらは頭の中の論理的な作業

34

30


35
353
31


36
354
32
彼女の語り:関心は事実、娯楽は科学か牧畜関連

37

33
博士号研究:子豚をかわいそうに思う。【土曜日】

38

34


39
356
35


40

36
squeeze machine:抱きしめられることの安心感、過去の経験との関連で

41
357
37
squeeze machine(締め上げ機、と邦訳)

出典:ハッペ,フランチェスカ「アスペルガー症候群の成人による自伝:解釈の問題と理論への示唆」ウタ・フリス編著『自閉症とアスペルガー症候群』冨田真紀訳,p.367, 東京書籍、1996年

42

38


43
358
39


44

40
彼女がsqueeze machineに入る情景
45
359
41
他者への感覚

46

42


47

43
サックスのsqueeze machineの経験、ダイビング経験を思い出す
48
360
44


49

45
「家畜は自閉の人と同じ種類の物音に怯える」
※音の問題
・自閉症としての動物
・動物としての自閉症者

50
361
46
視覚的思考の重要性

51

47


52

48
彼女が考える「シミュレーション」の重要性

53
362
49
視覚能力と自閉症(続き)

54

50
子とはぐれた雌牛の「不安の声」にすぐに気づく彼女。だが人は動物が感情をもつことを嫌う

55

51
B.F.スキナーに会いにゆく記憶

56
363
52
「屠畜は自然界よりも人道的」なぜなら、適切な方法を屠畜すれば、断末魔の家畜の脳にはエンドルフィンが分泌されている

57

53


58
364
54
火星の人類学者の用語の2度目の登場

59

55
・動物には親和性のあるコミュニケーションが可能なのに、なぜに人間にはそれが難しいか?
・愛情深い親〈対〉ASDのアンマッチング

60
365
56
子供は動物と成人の中間というサックスの主張には、グランディンは反論する。子供は(自閉症者にはコミュニケーションがさらに)難しいと。
暗黙知に関する言及
・いないいないばあ(play peekaboo)がわからない。楽しめない。

61
366
57
社会規範の内面化がとても難しい

62

58
文脈がよめない
・直示(deixis)——文脈から示される妥当な指示対称——わかりにくい

63

59
グランディンの場合、スピーチセラピーを勧められて、それから「発達」しはじめたという。自閉症者の3つの障害が再度提示される:1)社会的障害、2)コミュニケーション障害、3)想像力の障害
・ごっこ遊びができない。
・自己認識(→ヘーゲル、サルトル)

64
367
60


65
368
61
友人を希求するも友人できず
・(火星の人類学者には)人間間のコミュニケーションは「魔法」にうつる
・それゆえ、自分はエイリアンだと

66

62
締め上げシュートに出会い、科学の教師は、自分で自作することをすすめる(いい教師だ!)
・科学技術はADSにとっては楽園だろうか?(369ページ)

67
369
63
普通で生きられないゆえに、うつや自殺のリスクがあるらしい。グランディンはそれを科学への献身で乗り越えようとする

68

64
抗うつ剤イミプラミンの服用歴(大学を卒業する頃)

69
370
65
抗うつ剤の服用について言及。抗うつ剤を飲んでいるころは、身体の不調はなくなったが、元気がなく、以前の活力のある業績があげられなかった。
70

66
サックスは、抗うつ剤リチウムを服用するようになった、詩人ロバート・ロウエルのエピソードを引く

71
371
67
遅れた発達を開始する自閉症者は、社会性と認識力が生涯にわたって発達しつづける。
・ASDは成長するというテーゼ
・講演会で落ち着くことのなかった彼女が20年間のあいだに、十分に質疑応答ができるまでになる。
・講演旅行に9割の時間を費やすまでになる。
・ウタ・フリス『自閉症とアスペルガー症候群』——型通りなつきあいはできるが、人間の交流の深い経験が苦手
・自閉症者ピーター・ホブスンの述懐:「友達という言葉の意味がわからない」
・このあたりのOSは、理論と〈対話〉しているようにも思える。

72
372
68
・この間、グランディンとの会話を続けてるサックス
・グランディンは、スタートレックのアンドロイドのデータ——Data (Star Trek)——が好き。同様に、ミスター・スポックと同一視する自閉症者は多いという。

73
373
69
自閉症のB一家のエピソード
・「正常とのボーダーライン」

74

70
前の節をひきついで:「世間のしきたりを守るけど、だがしかし……」という典型的な話法

75
374
71
・ASDであることをカミングアウトしない。正常を振る舞う。だがしかし、ASDであることが「わかってしまう」ので、B 夫妻は一緒になる。
・いわゆる「隠れASD」というテーマ

76

72
・グランディンも自分の欠点を知っているが、同時に、自分の強みも知る。そのことで困難を克服してきた。

77
375
73
・プラント見学記(自閉症の特徴でもある、いたずら好きのグランディンの面がかいまみえる)※これについての言及は後にも登場する

78
376
74
いたずら好きのグランディンの面(続き)
79

75
「天国への門」ヨハネ10:9をめぐる理解(まじうけすること→次節)

80

76
(彼女自身のことば)

81
377
77
死後の存在(after life)の意識。※これは自閉症者の想像力の欠如のテーゼと矛盾しないのか?→パラグラフ124へ!
・不死のテーマ

82

78
・グランディン——サックスは一貫してファーストネームの「テンプル」を使う——のプラントの構造に関する言及

83
378
79
「二重ベルト固定装置」——グランディンの発明

84

80
短い邦訳部分だが、英文の部分は長い——英語版の加筆部分なのか?

85

81
【I】ではじまる節:動物は心をもつのか?というサックスの審問:それに対するグランディンの回答:「霊長類が相手なら、相互関係を知的に理解します」(p.379) →まるで、ニコラス・ハンフリーのマキャベリ的知性の議論ではないか?
- Humphrey, Nicholas. 1976. The Social Function of Intellect. In Growing Points in Ethology. Bateson, P.P.G. and R.A. Hinde eds., Pp.303-317. Cambridge : Cambridge University Press(ハンフリー、ニコラス「知の社会的機能」『マキャベリ的知性と心の理論の進化論』リチャード・バーンとアンドリュー・ホワイトゥン編、藤田和 生ほか監訳、Pp.12-28、ナカニシヤ出版、2004年)

86
379
82
・家畜の存在論的意味について、彼女は独特の見解をもつ

87
380
83
私の心はCD-ROM」というテーゼ。
・自己分析、自己認識

88
381
84
・自閉症は一般化(隠喩的理解)が苦手。具体的なイメージを提示してやらねばならない。

89
382
85
・1984年「ビタミン治療の精神医学ジャーナル」に投稿「自閉症児としての体験」=空間テストや視覚テストでは抜群の成績を収めるが、抽象的な思考や連続的作業にはふるわなかった過去を語る。これは典型的な自閉症者の特徴

90

86
・視覚的に優れたデザイナーで、変人でいたずら好きとは「波長があう」
・愛情=情動に関するチューリング・テスト論:アラン・チューリング(テューリングとも表記)[1912-1954]がTuring, Alan, “Computing Machinery and Intelligence”, Mind LIX (236): 433-460, 1950. という論文のなかで、次のようなテストに耐えれば、機械に知性があると言えると主張できるためのテスト。具体的には、キーボードとディスプレイのような装 置をつかって、文字情報のみで情報を交わし、被験者に相手が機械か、人間かをというのを告げずに交信し、被験者が人間であると答えた場合、それは知的なマ シンであると言えると、チューリングは主張した。これはイライザ(ELIZA)のような知性をもつとは言えない幼稚なプログラムでも、 被験者を「だます」ことが言えるのでこのテストはナンセンスだという主張がある。

91
383
87
・創造性を子供の遊びにたとえる。友人トムとの関係について、性的関係があったのか、サックスは興味をもち、それを聞く

92

88
・(性的関係があったのか、サックスの質問に)「いいえ」と答える。デートや性関係についての、感情がわかっても、相手が何をもとめて、何をしたいのかが想像できない。

93

89
・恋に落ちて、有頂天になること、の意味すらわからない。このあたりの、サックスとグランディンのやりとりは「恋することをめぐるのチューリング・テスト」の感がある。

94
384
90
・他人に熱をあげるということの意味がわからない

95
385
91
・情動に関する抽象体験を感じることが希薄のように感じる

96

92
それを彼女は「感情の回路が開いていないのです」と答える。それを彼女は「扁桃核が海馬のファイルを閉ざす」と表現する。

97
386
93
サックスは、人間には誰しも「抑圧」というものがあると、彼女に表現するが、言った先から、それに自身喪失する。

98

94
・前頭葉の損傷をうけて以来、驚異の感覚をもつことが、理解は可能のままとするが、知的興味をもってわくわくすることはないという。

99
387
95
・「感じる脳」=エモーショナル・ブレイン、の議論を先取りするような解説

100

96
・情調の基盤が神経学的障害で失われるので、自閉症者はそれに関連する可能性があるが、ただし障害があるのは、複雑な人間関係、美意識、詩作のこころ、象徴に対する感情のようだ。
・スピノザの脳(→ソマティック・マーカー仮説

101

97
・自閉症者の脳の情報処理(視覚情報処理)はすばらしいが、言語や固着には無頓着。グランディンは、MRIをうけて、小脳が小さいことから、それに由来する欠陥だと思っている。

102
388
98
・遺伝と自閉症、彼女のフォークセオリー概観

103
389
99
・強くだきしめることへの固着は、グランディン独特のもの。

104

100
・ハワード・ガードナー『心の枠組み』(1985)のセオリーを信じている

105
390
101
・テンプルの興味:1)自閉症一般を説明する理論を見出す、2)自分の障害について具体的にわからない部分への探求と解明
・この当時は、ハワード・ガードナーの多元知性論は出版されていない(1991年当時)

106
391
102
・自分は、まだ自閉症の理論の解明には至っていないという意識をもつ

107

103
・もし仮に、自閉症を消滅させるような手段がでても、自分はそれを使わない。なぜなら自閉症は「自分の一部」なっており、自分が自分でなくなると、説明する。

108

104
・グランディンの引用部分:自閉症の遺伝子がもし仮に発見されても、それを絶滅することは代償がともなう。それは世界が会計士により支配されるかもしれなくなるからだ、と説明

109
392
105
再度【火 星の人類学者】登場。彼女は非常に計画的に時間を使う。自分は火星の人類学者と感じるグランディンは、サックスを彼女を調査する人類学者ではないのかと、 忖度する。なぜなら、人類学者の責務として、(火星人の)インフォーマントは、人類学者の期待に答えるべく、データを提供しなければならないからだ。それ は、グランディンが、火星の人類学者として、さまざまなデータをCD-ROMのように蓄積し、それを引き出すことで、この地球上で自分の存在意味を保持 (主張?)することができるからである。

110
393
106
フォート・コリンズから車で2時間のロッキー国立公園へのドライブ:この物語の実質的な【エピローグ】

111

107
グランディンの四駆でドライブ

112

108
・サックスが発した「荘厳」の意味が彼女にはわからない。
・他者が〈情動に訴える抽象概念の把握〉がとても困難。

113
394
109
・前節から続きで、彼女が抽象概念がわからないという主張には、サックスは悲しみが帯びているように感じる。「きれいなだけで、よろこびを感じない」というふうに表現する。それは、彼女の父親と同じような表現だという。(→サックスを、父親と同一視する?)
・「あなたは夕日に感動している。わたくしもそうできたらと思います。美しいのはわかりますが、心に「触れ」ないのです」(p.394)。

114

110
・彼女は無感動ではない。さまざまな問いが去来するが、私たちが、大げさに(他者に対するパフォーマンスにも取れる)感動や峻厳な気持ちが、わからないとグランディンは再三にわたり主張する。
・テンプルは、はたして、サックスと(情動経験を)同化したいのか?
・火星の人類学者は、地球のインフォーマントと、同一化を求めるのか?

115
395
111
・このあたりは、サックスがグランディンとのやりとりを回顧しながら記述し、そして、さらに、自分の理解や断定が、適切であったかどうかをさらに反復して考察しているように思える。

116

112
・帰路の飛行機の関係で、グランド・レイクで泳げなかったこと。これが伏線になる。

117

113
・別のところで、泳げなかったので、ここで泳ごうとする

118
396
114
・ダム上流の水面に飛び込もうとしたときに、グランディンがそれを静止する。グランディンの個人回想でも、サックスの命を救ったと友人に語る
119

115
・車内でのおしゃべり。自閉症の芸術家や哲学者は多数いるのではないかという主張。
・これは僕(池田)にとっては偽問題のような感じがする。(→つまり異様な脳の問題を抱える人は芸術においても異才を発揮するという思いつきのような主張)

120
397
116
・プラントでのサックスを身分をごまかして案内したことを回想

121

117
・グランディンは倫理的な人である。
・神罰説を信じるグランディン。
セリオフィリーの問題系と交錯するか?

122

118
・最後の言葉

123
398
119
・自分の両親は、監督協会派の信徒。だが、神への信仰を捨て、神を科学的に考えるようになる。神は無秩序から生まれる。人間の来世は、エネルギーの痕跡が宇宙に残るのだと。
スピノチストとしてグランディン

124

120
・グランディンは自分の不安が「自分が死んだら自分の考えが消えてしまうと思いたくない」と言って、彼女は涙ぐむ。自分は何かを成し遂げたい、何かをのこしたい。貢献をしたい。権力や金に興味がない。「自分の人生に意味があったと納得したい。いま、わたくしは自分の存在の根本的なお話をしているのです」(p.398)

125

121
・サックスは、この彼女の審問に驚愕 し、ハグをしようと申し入れる。彼は感じる、彼女もまた抱きしめてくれたと……:これは屠畜のための家畜の抱き締め器を発明した彼女のエピソードと重ね合 せると、この最後のドライブにおける「感動表現の共感不可能性」「グランディンのサックスへのいのちの救済」「グランディンの人生観の吐露」を経由したあ とでは、とても、感動的な終曲(コーダ)の部分である。











■欄外
無関係
1
i) アスペルガーとは、自閉症研究のもう一人の創始者であるハンス・アスペルガーの瞠目すべき論文(1946[1996:83-178])に由来するものである。



2
ii) 人類がイマジナリーな世界のなかで初めて火星人と遭遇したのはH.G.ウェルズの小説 "The Crystal Egg"(1897), "The War of the Worlds"(1898)[邦題:宇宙戦争]であり、特に世界的に有名になり数々の映画にもなった後者の作品は、異形の火星人との暴力的な出会いに満ち ている。これは同時期におこった南アフリカにおける植民地争奪戦争であるズールー戦争(1879)やそれに引き続くボーア戦争(1880-1881, 1899-1902)におけるズールー人戦士に対する植民地支配者の潜在的恐怖を表象するものと言っても過言ではない。それは冷戦期のアメリカ映画" Invasion of the Body Snatchers"(1956)[邦題:ボディ・スナッチャー]における宇宙人としての共産主義思想への恐怖を表象したものである。他方、三島由紀夫の 長編小説『美しい星』(1962)は、家族全員が、それぞれ太陽系からやってきた異星人(と自己認識している)で、この家族が地球に迫った核戦争を防止し ようと奮闘する話である。三島は、盟友ドナルド・キーンに英訳を懇願したが、逆にキーンのほうが気に入らずついに翻訳はならなかった。アメリカと日本の美 と政治意識の葛藤を、そこに見ることができる。しかし、三島のこの作品は、その後現在に至るまで注目を浴びることはなかった。



3
iii) オートエスノグラフィ(auto-ethnography)という用語は、明らかに西洋の文化的記述には書かせない自伝(auto-biography) という用語とその伝統を踏まえたものだ。しかし、後者が自分の内奥からわき出る経験を書き出す——その原形はアウグスティヌス『告白 (Confessiones)』といわれる——というスタイルを示唆するのに対して、前者は近代の民族誌(ethnography)という方法論の確立を 踏まえて、自己を他者化するという経路を迂回することでえられる自伝とは別種の視座を獲得することを目的としている。



4
iv) ハグ(抱擁)の体験とそのレトリックは、グランディンにもまたサックスにも「火星の人類学者」の内的経験を知るには最も重要なものである。それは、グラン ディンは、これまで両親や親族からハグをされることに異様なまでの恐怖や時に無感動を生むものであるが、当の彼女は、牧場や屠畜場で家畜を大人しくさせる 牛桶や締め付け機に異様な関心を持ち、思春期にはすでに自作し、やがて大人になったときにはその設計までを手がけ、最終的に屠畜場の総合デザインを自分の 天職にする。サックスは、それまでの彼女の自伝の読書と3日足らずの邂逅の間に、彼女にとってハグ(抱擁)がもつ矛盾する意識に着目し、自分のハグ体験を 動物の締め付け行為との比較検討を通して、ASD者ではない者とのコミュニケーションの技法——ただし理解ではない——を身に付けるからである。



5
v) シルバーマン(2016)の原著名は「神経部族(Neurotribe)」という新造語を用いているが、著者の意図は明確である。自閉症者は、私たちの社 会のなかの認知と承認を待つ新しい「部族」を示唆しているからである。これは著者たちの一人(池田)が現在研究している、少数民族や先住民族の「部族」あ るいは「先住民」としての国際社会における権利主体としての「承認(recognition)」——ヘーゲル『精神現象学』のそれ——をめぐる世界的な議 論と交錯する。



6
vi) フレッド・ピアス(2016)の著作は、世界の各地で我々が特定外来種と呼ぶ生物種を、地元の固有種を守るために、選択的に排除することの生態学的な評価 を行う科学ジャーナリズムの佳作である。しかし彼の思索は、この現象にアプローチしながら、固有種の生物種の保全思想そのものは人間が生物種の相互関係を 管理できるという発想に基づいていて、外来種を排除する手法は、外国人や障害者を我々とは別のカテゴリーに分類し、その個体数を管理するやり方と同形であ ることへと展開する。



7
vii) 「その総体とは《生存の技法arts de l'existence》とでも名づけていいものである。それは熟慮や意志にもとづく実践であると解さなければならず、その実践によって人々は、自分に行 為の規則を定めるだけでなく、自分自身を変容し個別の存在として自分を変えようと努力し、自分の生を、ある種の美的価値をになう、また、ある種の様式基準 に応じる一つの営みと化そうと努力するのである」(フーコー 1986:16)。



8
viii) オランダのアーネムにある「ブルゲルス動物園」のチンパンジー飼育園のイエルーン(Yeroen)は、それまでは普通に歩いていたにも関わらず、過去に争 いでケガをしたことがあるニッキー(Nikkie)の前では跛行するという演技が霊長類学者フランス・ドゥ・ヴァール(1984)らに発見されて以降、チ ンパンジーには何らかの意味で〈相手が自分をどのようにみているのかという認識〉が明確にみられることが定説となった。ここでの私たちの含意は、火星人と のつきあいのなかで我々は社会学者アーヴィング・ゴッフマンと共にチンパンジーのイエルーンから学ぶことが多いということだ。

■おさらい:サックスのフィールドワーク

■文科省が定義する、アスペルガー症候群

「アスペルガー症候群とは、知的発達の遅れを伴わず、かつ、自閉症の特徴のうち言葉の発達の遅れを伴わないものである。なお、高機能自閉症やアスペルガー症候群は、広汎性発達障害(PDD)に分類されるものである」出典:特別支援教育について(文科省)

※ここでいう「高機能」とは、現象面で高い知的活動 がみられた方をさすのではなく「正常値」の範囲をさす言葉とのこと——つまり日常用語の知的能力の高機能とは無関係な用語法のことらしい。もともとの「自 閉症」概念は知的障害との関連性のなかで生まれてきたので、それとは随伴しない現象をさす用語として「高機能」と言われたのがその経緯だという。

ただし、現在(DSM-5, 2013)では、広汎性発達障害(PDD)は、ASD(自閉症スペクトラム障害)にまとめられる。次項参照。

■ASD(自閉症スペクトラム障害)の概念の分類推移:3つの診断基準/分類

1)広汎性発達障害(pervasive developmental disorders, PDD):ICD-10, 1990

広汎性発達障害は、(小児)自閉症アスペルガー症候群非定型自閉症およびその他の広汎性発達障害など、の3群にわけられていた。

2)広汎性発達障害(pervasive developmental disorders, PDD):DSM-IV, 1995

DSM-IV, 1995では、広汎性発達障害(pervasive developmental disorders, PDD)は、自閉性障害アスペルガー障害特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)に三分類される。

3)自閉症スペクトラム障害(ASD)の誕生:DSM-5, 2013

DSM-5, 2013より、上掲の障害はすべて自閉症スペクトラム障害Autism Spectrum Disorder, ASD)のなかで包括的表現されるようになる:DSM-5, 2013

DSM-5における診断基 準(抜粋)では「1.相互の対人的・情緒関係の欠如、2.対人的相互反応で非言語的コミュニケーションを用いることの欠如、3.人間関係を発展させ、維持 し、理解することの欠如」があり、「該当すれば特定せよ、知的障害を伴う、または伴わない、言語障害を伴う、または伴わない、緊張病を伴う」とある。自閉スペクトラム症(ウィキペディア)

パズルリボンはASDのシンボル

■マインド・ブラインドネス理論

"Mind-blindness is a cognitive disorder where an individual is unable to attribute mental states to others." - Mind-blindness, by Wiki

■異邦人的傍観者(モーリス・メルロ=ポンティ)

「哲学が我れへの還帰によって完結せず、私は、反省によって単に私自身への私の現前のみならず、またさらには或る〈異邦人的傍観者〉の可能性を見出すのでなければならない」——『知覚の現象学』

クレジット:バリ島の南海の火星人のメタファーから逆アセンブリする文化人類学の方法論:火星の人類学者

■この発表の含意

リンク(サイト外)

リンク(サイト内)

コミュニケーション

グランディン・システム(図解)"An anthropologist on Mars," p.258.

サイト外リンク

サイト内リンク

文献



(c)Mitzub'ixi Quq Chi'j. Copy&wright[not rights] 2016-2017

『火星の人類学者』の原著(左)/地球の神経内科医と「火星の人類学者」テンプル・グランディン