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ポストモダン人類学用語集
Glossary of Postmodern Anthropological Theory
かいせつ 池田光穂
※この用語集は池田光穂の授業用に開発したものです。受講者のための知識のアウトソースとして用意しましたが、インターネット上での知識資源探索の学生のためにも供しておりますが、以下の点に注意してください。用語集のベースになっているのは、このたび(2003年)翻訳発刊の運びになりました、J・クリフォード『文化の窮状』太田好信ほか訳、人文書院[リンク]の翻訳版に収載されている用語集他からです。従って、この用語集は、ポストモダン人類学と呼ばれているジャンルを幅広くかつ公平に取り扱った用語集ではないことをご留意ください。
モダンな作品 opus modernum
西暦12世紀初頭にシュジェ修道院長が、サン・ドニ修道院の聖堂の建築様式に与えた言葉。
大きな物語、メタ物語 grand recit
近代を支配する正当化の機能。リオタール(Jean-Francois Lyotard, 1924-1998)『ポストモダンの条件』(1979)[邦訳:小林康夫訳、水声社、1991=書肆風の薔薇、1986]によると、近代を支える大きな物語として、<精神>の弁証法、意味の解釈学、理性的人間あるいは労働者としての主体の解放、富の発展などがある。
領有・流用 appropriation
人類学的ヒューマニズム ethnographic humanism
J・クリフォードによると「人類学的ヒューマニズムは、差異に始まり、――名付けと分類、描写および解釈を通して ――差異を理解可能なものとする。つまり、見慣れたものにする」。これは異文化の解釈を通して理解を可能にする時に人類学者が最終的に動員する実践的立場である。その反対語は、民族誌的シュルレアリズムである。
民族誌的リベラリズム ethnographic liberalism
1950年代以前に植民地状況で働いていた民族誌学者は、自分たちの位置づけに対してきわめてアンビバレントな気持ちを持ち続けていた。それは、一方では、白人の支配ないしは優位性において民族誌学的調査が成り立つということであり、少なくともこのことについての再帰的な自覚はあった。他方で、植民地状況下において、研究対象となる現地人との交流の中で、彼らを擁護・代弁しようとするさまざまな(リベラルな)態度をとったり、感情的理解をおこなっていた。このような両面価値(アンビバレントな)的な自覚と態度を、ジェームズ・クリフォードは、民族誌的リベラリズムと呼んでいる(クリフォード『文化の窮状』p.104)。
民族誌的シュルレアリズム ethnographic surrealism
J・クリフォードによると「民族誌的シュルレアリスムは、それとは対照的に、他者性の侵入すなわち意外性を呼び起こすことにより、見慣れたものを攻撃する」ことである。これは、人類学者がフィールドにおいて異文化体験を行ったり民族誌論文を作成する最中に経験する異化――見慣れているものが異様になったり、自明なものが疑問に付されるような認識――の現象に相当する認識論的体験である。この反対語は、人類学的ヒューマニズムである。
未来になりつつある現在 present-becoming-future
J・クリフォードの用語(→『文化の窮状』)
本質主義 essentialism
■ 本質主義
ホームレスネス homelessness
文化的輸出入 cultural export and import
部族 tribe
表象 representation
ネグリチュード ne'gritude
現地人=ネイティヴ native
全体性 wholeness
資料考証=ドキュメンテーション documentation
自己成型 self-fashioning
S・グリーンブラッドの用語(→『ルネサンスの自己成型』)
参与観察 participant observation
救出=サルベージ salvage
コスモポリタニズム cosmopolitanism
クレオール creole
エントロポロジー entropology
レヴィ=ストロースが『悲しき熱帯』の末尾で人類学の皮肉として提唱した言葉。文化の多様性は未来に向かって均質化し、秩序は解体してゆくなかで、文化人類学は本物の文化の中に消えゆく差異を(アイロニカルに)記録するしかないという。この営為がエントロポロジーである。もちろん文化秩序のエントロピックに崩壊するという彼の語りは、彼の諦念であり、皮肉であるので、人類学の代替としてこの学問が主張されているわけではない。
異国趣味=エキゾティシズム exoticism
アレゴリー allegory
アイデンティティ identity
用語のデビュー debut of "post-modern"
英語における最も早いポストモダンの初出は、建築用語として1949年である。しかし、社会思想の用語としてはトインビー『宗教への歴史家のアプローチ』(1956)やライト・ミルズ『社会学的想像力』(1959)である。特に後者は、現在が過去のものになるという時代と概念区分の到来を意味する用語としてポストモダンを用いている("Just as Antiquity was followed by several centuries of Oriental ascendancy... so now the Modern Age is being succeeded by a post-modern period. Perhaps we may call it: The Fourth Epoch.")。この後は、左翼文芸批評誌などの文芸ジャンルとしてこの用語が徐々に用いられるようになる[OEDの"post-modern"参照]。
Copyright Mitzubishi Chimbao Tzai, 2003-2005