ポストモダン人類学
Postmodern Anthropology

講師:池田光穂
【講義概要抜粋】
人類学におけるポストモダンの議論は、文化について書 く営為における表象性の危機から、記述の問題、とくにテ クスト批評や記述法といった問題へと発展していった。こ れに対して、テキスト批判に埋没することで忘れ去られて しまう、書く側/書かれる側の権利問題を発端とする、表 象の政治性や操作性にまつわる権力の問題は、E・サイー ドのオリエンタリズム批判やS・ホールのヘゲモニーをめ ぐる一連の議論の影響を受けて、文化人類学における重要 なテーマとして急速に浮上してきた。
この授業では2冊の日本語(うち1冊は翻訳)の文献を テキストにして、前半は、1980年代以降の文化人類学の理 論上の発展、理論上の難問、隣接諸学問との影響関係など について学ぶ(以上はマーカスとフィッシャー『文化批判 としての人類学』が主となる)。さらに、後半では、学問 のヘゲモニーにおいて圧倒的優位な状況にある欧米の人類 学に対して、日本(という政治的空間)において、文化人 類学を学ぶ意味について根底から捉え直し、最近の日本の 学界においてさまざな議論を呼んだ重要なテキスト(太田 『トランスポジションの思想』)が提示する問題(agenda )を受講学生・院生と共に議論する。
われわれ自身の存在の批判的考察を理論とか教義とか、絶えず蓄積されて続いていく知識の集積と考えてはいけない。むしろそれは、態度として、エートスとして、哲学的な生の絶えざる営みとして考えるべきであり、ここでは現在のわれわれのありようの批判が、同時にわれわれに課された限界の歴史的分析であり、それを超えてゆく可能性を試すことである。
――フーコー『啓蒙とはなにか』
カンギレムから受けた恩恵は計り知れない。私はイデオロギーと科学の関係に見られる驚くべき歴史の狡知を彼から教わったのだ。・・それは、科学認識論が認識論の一変種にほかならず、認識論自体は真理としての、したがって真理を保証する権威としての哲学が身にまとった(デカルトおよびカント以来の)近代的形態だという考え方である。真理は、物と人間相互の道徳的および政治的関係からなる既存の世界を、最終審級において保証するためだけにあるのだ。
――アルチュセール『未来は長く続く』宮林寛訳、p.247
1980年代後半から繁茂したアメリカ[合州国―引用者、以下同様]の「ポストモダン人類学」は、そうした[グローバル化のなかの]流動化と断片化によって引き起こされる異種混淆、模倣や借用こそが文化形成の本質だとして、人びとの移動や拡散のなかに人間の創造的なエージェンシーを認めようとする。この種の議論の大きな欠陥は、流動化と断片化を謳歌することによって、そうした可動性こそが権力関係[ママ]によってもたらされた局面であることを完全に忘却してしまうことである。
――田辺繁治『社会空間の人類学』西井・田辺編,p.446
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日程 |
テーマ |
文献等 |
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ポストモダン人類学入門 |
・この授業全体の説明、授業の目論見の解説 |
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2 |
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キーワード ・啓蒙思想家 ・近代合理主義 ・モダン ・フィールドワーク ・民族誌学 ・民族学 ・人類学 |
・1980年代以前・以降の人類学の動向を概観するので、学生はそこに含まれる問題点を明確に意識し、自分の関心のもてる領域やテーマについて復習することが期待される。
・マーカス&フィッシャー『文化批判としての人類学』が版元品切れであること知らせ、ロザルド『文化と真実』に教科書が変更したことを告げる。 ・pre/-/postの時間概念を宗教教団の理解を事例にとって説明した。 ・啓蒙思想家に起源をもつ<人間>の概念の形成を、<未開人>という西洋にとって重要な他者(=内なる他者)という観点から考察した。 ・民族誌学における実証主義の確立が、モダニスト人類学の誕生であるという<既成事実>について解説した後、これがフィクションであることを指摘した。 |
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3 |
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キーワード ・機能主義 ・構造主義 ・解釈人類学 ・本質主義 |
・文化相対主義、自民族中心主義、機能主義、構造主義、解釈人類学について、従来の学説上の定義とその歴史的展開について解説した後、それらが、文化人類学の学説上の論理が作り上げた<神話>であるとのべた(前半部の授業の内容の相対化をおこなう)。
・文化人類学の<発展>が、ひとつの作り話=<神話>であるとしたならば、我々は次にどのような神話をもって、新たな文化人類学の可能性を切り開かれるのであろうか?というのが、後半のテーマであった。 ・ロザルド『文化と真実』序論と第1章における議論を参考にせよ。 |
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4 |
映画『トドス・サントス・クチュマタン:あるグアテマラの村落からの報告』オリビア・カレシア監督、1982年、41分[1983年アメリカン・フィルム・フェスティバルにおけるブルーリボン賞受賞作品] | ・文化人類学における文化を記録する作業としての民族誌について、受講学生のイメージを膨らませ、また授業における議論の素材とするために、左記の映画を上映した。
・関連する授業(行動する人類学) |
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5 |
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キーワード ・機能主義 ・方法論的個人主義 ・集合表象 ・『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』 |
・文化相対主義と自民族中心主義について概念のおさらい。
・文化相対主義がもつ、論理的および実践的な限界を明らかにする。 ・機能主義あるいは社会を全体的なものとしてみるデュルケーム(主義)と、それとは対照的な方法論的個人主義の例としてのウェーバーをモデルとして、社会理論の2大源流について批判的に考察する。 ・『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(通称:プロ倫)という論考と、その大衆に膾炙している誤解を対比的に描き、社会理論が歴史的文脈的に規定される<常識的判断>にもとづいて採用されていくのかについて考察する。 ・プロ倫の初発とするウェーバーの考察が、後に『経済と社会』へと繋がるという物語を紹介し、その後の人類学者のアプローチといかに異なってたものであるのかを理解する。 |
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6 |
モダン人類学の理論としての、機能主義および構造主義 | ・機能主義に関するおさらい
・現地人の説明を体系性あるいは論理整合性をもった「理論」と見なした場合に、機能主義はひとつの「メタ理論」として位置づけられることを説明した。 ・機能主義は、モダン人類学が用意する複数の「メタ理論」の一つであることを理解するために、次に構造主義的な社会理解を親族の再生産を例にとって考えた。 |
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7 |
. | ロザルド『文化と真実』第1章〜第3章 |
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8 |
. | ロザルド『文化と真実』第4章〜第6章 |
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9 |
. | ロザルド『文化と真実』第7章〜第9章 |
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10 |
モダニスト人類学と、モダニズム以降の人類学(=ポストモダン人類学) |
これまでのまとめ・グループ討論 |
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11 |
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ポストコロニアル・モーメントにおけるカウンターナラティヴの可能性(序章:文献は右記) 文化の流用(第1章) |
太田好信『トランスポジションの思想』序章
太田好信『トランスポジションの思想』第1章 |
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12 |
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文化の客体化(第2章) オリエンタリズム批判と文化人類学(第3章) |
太田好信『トランスポジションの思想』第2章
太田好信『トランスポジションの思想』第3章 |
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キーワード: ・ポスト・コロニー ・カウンター・ナラティヴ ・流用/領有/我有/占有(すべてappropriation) ・客体化 ・オリエンタリズム |
これまでのまとめ・グループ討論 |
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14 |
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文化相対主義・本質主義・異種混淆論(第4章) トランスポジションの思想に向けて――日本における「ポストモダン人類学」批判以降(第5章) |
太田好信『トランスポジションの思想』第4章
太田好信『トランスポジションの思想』第5章 |
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15 |
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キーワード: ・ポストモダン ・文化相対主義 ・本質主義 ・異種混淆論 ハイブリディティ クレオール |
これまでのまとめ・グループ討論 |
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