鎮忘斎教授の猿にもわかる文化人類学プロジェクト協賛
解説:池田光穂
ある社会がいくつかの集団に分かれ、各々の集団とひとつないしは複数の動物や植物、ときには人工的なものや動物の一部などと特別な関連があるとする宗教形態がみられる時、それをトーテミズム(totemism)と呼びます。
したがってトーテミズムは特定の宗教やイデオロギーをさすのではなく、あるパターンをもつ宗教形態をさす分析概念です。
トーテミズムはスコットランドの法学者マクレナン(J.F.Maclenan)が19世紀の中ごろに、進化主義の立場から結婚の原理を人類学的に説明するための概念として、はじめて定式化しました。
彼は内婚・外婚の用語をつくった人としても知られるが、トーテミズムは外婚制(エクソガミー,exogamy)――結婚対象を特定集団以外から求める規則――に深く関係すると主張しました。宗教の構築を、親族の構成原理から説明しようとしたのです。
マクレナンによると、自分が崇拝している同じトーテムを崇拝する人間は、同じ集団の人間であり、そこから結婚の相手を選ぶことができない。このような特定の事物であるトーテム崇拝――事物にこだわるから、それはフェティシズム(呪物崇拝)とよばれる――が、社会のなかに登場したことで、それまで人びとが、結婚相手を特定の集団から選ぶ規則すなわち内婚(エンドガミー,endogamy)からとき放たれて、より進んだ制度である外婚制へと発達したと考えました。
理屈としては、興味深い説明です。
トーテミズムは、婚姻を媒介としてより開かれた社会を形成するルールであると同時に、もっとも原始的な宗教ということになります。
社会のあり方を規定する「婚姻制度」と彼らの観念を規定する「宗教形態」の関係を統一的に理解できる、このマクレナンの説は、19世紀後半の臨床心理学(S・フロイト)、社会学(E・デュルケーム)、民族学(J・フレーザー)に多大な影響を与えました。
マクレナンの主張はなるほど理路整然としているが、その最初の前提となっている社会がそのように「進化」したという確固とした証拠はないために、現代の文化人類学では、もうそれを支持する者はいません。にもかかわらず、初期の人 類学者たちが、宗教のはじまりをいったい、どのように取り扱おうとしたのか、また未開から文明への宗教の 「進化」というものをどのような観点からみようとしたのかについて教えてくれる点で、この議論は今なお(今 だからこそ)考察するに値するテーマなのです。
マクレナンが提示した、宗教現象の成立に親族の構成原理をもって説明しようとしたこの考え方は、宗教現象が社会の進化という図式からは説明できないという主張により忘れ去られてしまいましたが、親族の構成のパターンと、宗教現象の維持原理との関係についての議論は、未だ大きな研究課題として我々の前におかれています。
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