2011年8月5日、CSCDが大阪大学80周年記念事業として開催した「知のジムナスティックス」。多分野で活躍する豪華なゲストと、他大学の学生まで巻き込んだ駅のなかでの公開対話。総勢11名の登壇者による「無茶なラウンドテーブル」は、どのようにして実現したのでしょうか?
CSCDスペシャル>活動レポート
知のジムナスティックス~学問の臨床、人間力の鍛錬とは何か~
CSCD Presents 大阪大学創立80周年記念関連事業
総勢11名の登壇者によるラウンドテーブル
会場となったのは、京阪なにわ橋駅構内にあるアートエリアB1。「コミュニケーションの場としての駅」を目指して、大阪大学が京阪電鉄、NPOダンスボックスと共同で運営しているオープンスーペースです。大阪大学はここで毎月、哲学カフェ、サイエンスカフェ、鉄道カフェなど、参加型のトークイベント「ラボカフェ」を提供しています。
しかし、この日の会場の様子はいつもとちがいました。ラボカフェは通路に面したスペースで開催されることが多いのですが、今回は、その奥にあるアート作品を展示するための広いスペースの真ん中に楕円形の大きなテーブル、そしてそれを囲むように階段状の座席が設置されました。どの客席からもテーブルの様子が見えるよう、テーブルの周りにはいくつかのカメラが設置され、会場の二つの壁に映し出されています。
夕方になると、円形競技場のような会場に続々と人が集まり、階段状の座席が200名の来場者で埋まりました。
午後6時。11名の登壇者と進行の小林副センター長が、客席を通り抜け、中央のテーブルへ。
学生有志によって選ばれたゲストと、学生登壇者が交互に席につきます。
鈴木寛(文部科学副大臣)、橋本みなみ(神戸大学大学院生)、鷲田清一(哲学者/大阪大学総長(当時))
鈴木竜太(大阪大学学部生)、石川直樹(写真家)、宮下芙美子(京都大学大学院生)
北村正晴(原子力工学・人間工学研究者/東北大学名誉教授)、辻明典(大阪大学大学院生)
山田ズーニー(文章表現・コミュニケーションインストラクター)、斉藤陽介(東北大学大学院生)、森達也(作家・映画監督)
多分野で活躍する豪華なゲストと、他大学の学生さんまで巻き込んだ駅のなかでの公開対話。総勢11名の登壇者による、小林副センター長曰く「無茶なラウンドテーブル」は、どのようにして実現したのでしょうか?
教養×東日本大震災
今回の80周年記念事業には、軸となる二つの大きなテーマありました。
ひとつは、「教養とは何か」。大阪大学では以前から教養教育を重視してきましたが、今年度より、専門知以外に必要な知識や能力を提供するための「知のジムナスティックス」という高度教養プログラムが実施されています。今回のイベントのタイトルは、この高度教養プログラムの名前からとられました。「ジムナスティックス」という言葉は一般に「体操」を意味しますが、ここでは「知的鍛錬」という意味で使われています。
そしてもうひとつの軸となったのは、「東日本大震災」です。私たちの暮らしの根幹を揺るがす未曾有の事態に直面するなかで、どのような人間力が求められるのか? 今の日本で誰もが考えざるをえない問題です。
企画・進行を務めた小林副センター長によると、企画がもちあがった当初は、「教養」と「東日本大震災」、それぞれ別にゲストを招いて対談を開催する予定でした。しかし、打ち合わせを重ねるうちに、企画メンバーのなかで「この二つのテーマは同時に論じられるべきではないか、一方に触れずにもう一方を語ることはできないのではないか」という思いが強くなったといいます。
この二つのテーマを同時に考えるために、しかも、来場者たちが一緒に思考を巡らせられるような「知のジムナスティックス」を実現するにはどうしたらいいか?
学生有志もワーキングメンバーとして加わって何度も話し合いが重ねた結果でてきたのが、様々な分野で活躍する「知のあり方・表現の多様性と智慧を感じさせる方」を招いた公開対話という案でした。目的は、合意や結論を出すことではありません。このテーマについて考えたとき、どんな問題が考えるべき問題として浮かびあがってくるのかに注目することです。
学生有志ワーキングメンバー
今回のプログラムには、これまでCSCDの授業や活動に関わったことのある方を中心に、7名の学生がワーキングメンバーとして企画・立案に関わっています。テーマの設定、ゲストの選出に関わったほか、学生登壇者たちが当日リラックスして参加できるよう、事前に、スカイプを通じたワークショップ形式のミーティングも開かれました。
実践知・経験知の多様性
「4つの質問」(写真(左))をふまえた自己紹介からはじまった対話は、震災の話題から「ツィッターが震災の役に立ったというのは本当か?」という問いを通じてメディアの変容と情報のあり方について、さらに「大学における学びとは?」、「教育をサービスと捉えることによって見えなくなっているものは何か?」といった大学論・教育論へと展開しました。
最初のうちは、どの登壇者の考えも実践知・経験知の重視という点で一致するように思われました。しかし、言葉を重ねるごとに、「SNSやインターネットの登場で情報のあり方は変わったか」、「被災地に対する後ろめたさとは」、「本当に必要な教養は大学で学べるのか」など、いくつかの論点について見解の相違が浮かびあがってきました。
今回のラウンドテーブルは、ふだんアートエリアB1で開催している参加型のトークイベントとは異なり、来場者に発言の機会はありませんでした。しかし、11名の異なる視点をもつ登壇者のみなさんの声を通じて、来場者のみなさんも、様々な教養と実践知のあり方・学び方について思考を巡らすことができたのではないでしょうか。
※ CSCDでは、今回の80周年記念事業に関する記録編集物の制作を予定しています。