CSCDスペシャルインタビュー

難解でも本物、科学技術と社会という問題に挑む白熱教室

寺園 慎一(NHKエンタープライズ)

難解でも本物、科学技術と社会という問題に挑む白熱教室

NHKの人気番組「白熱教室」で、10月30日から4週にわたってCSCD小林傳司教授の「科学技術と社会の関係」に関する授業が紹介されます。番組制作者がこの授業に注目した理由は? 対話型授業の意義は? NHKエンタープライズの寺園慎一さんにお聞きしました。

寺園 慎一(てらぞの しんいち)

NHKエンタープライズ 情報文化番組 統括部長。マイケル・サンデル教授の「ハーバード白熱教室」を企画発案し、「だいたいこんな難しい番組を誰が観るのだ」と逡巡するNHKをくどき、番組を実現させて、一大旋風を巻き起こす。さらに、「白熱教室JAPAN」を立ち上げ、日本の大学にも、知的好奇心を刺激される双方向型の講義があることを示す。

NHK「白熱教室JAPAN」 小林傳司教授特別講義

hakunetsu_kobayashi.jpg東日本大震災と津波に起因する福島第一原子力発電所の事故は、改めて我々に社会と科学技術の関係を見つめ直すことを求めています。この講義では、科学哲学・科学技術社会論を専門とする小林傳司教授(大阪大学CSCD)に導かれ、理系・文系の枠を超えて集まった大学院生たちが、「科学技術と社会の関係(コミュニケーションや、その社会的意思決定)」について、白熱した議論を繰り広げます。

【放送予定日】
2011年10月30日、11月6日、13日、20日
※いずれも日曜18:00-18:58

白熱教室JAPAN公式HP
小林傳司教授プロフィール



CSCD:NHK白熱教室シリーズの第一歩となったマイケル・サンデル教授の「ハーバード白熱教室」は、大きな注目を集めました。寺園さんがマイケル・サンデル教授の講義に注目した理由、ポイントは何だったのでしょうか?

寺園さん:実際のところ、これほど多くの人に見ていただけるとは思っていませんでした。ましてや、哲学ブームが起こるなどとは想像もしていませんでした。全くうれしい驚きでした。私がこの番組を放送したいと考えたのは、リーマンショック後の資本主義をどう考えるかをボストンのサンデル教授にインタビューをしたのがきっかけです。サンデル教授から「今度私の講義をボストンのPBSという公共放送で放映するので、ぜひNHKでも考えて欲しい」というリクエストがあり、それを受け、実際にサンプルのDVDを見てみるとめっぽう面白いと思い、放送に向けての企画書を書きました。面白いと思った理由は、哲学が決して机上の空論ではなく、私たちが日々を生きる上で、しばしば直面する難しい選択をどうしていくのか、その判断基準を示してくれたという点です。つまり哲学は実生活に生きているということでした。哲学の基礎学力がなくても、一番有名なサンデル教授の設問「ひとりの命を犠牲にして5人の命を救うことは許されるのか」というような普遍的な問いかけは誰にでも関係しています。その入り口の平易さが大きな魅力でした。とはいうものの、実際はとても難しい講義です。わかりやすいと言っても哲学の講義、恐らくテレビの歴史上最も難しいと言ってもいい番組です。一体どれだけの人が見てくれるのだろうと大いに心配をしていました。まあ教育テレビだから、難しくても許されるかなと自分に言い聞かせていました。

CSCD:白熱教室シリーズについて、視聴者からはどのような声が寄せられていますか?

寺園さん:放送直後からNHKにはもちろん、インターネットの世界で洪水のような反響がありました。「こんなテレビ番組を待ち望んでいた」「大学の頃、こんな授業を受けたかった」など、制作者の私自身も驚くほどの反響でした。さまざまな理由があると思います。ハーバードという世界最高の知的ブランド、グローバル経済の行き詰まりからくる正義への関心の高まり...。しかし私が何よりも感じたのが、大学の講義をそのまま番組にするという個性的なスタイルが魅力だったのではないかと思います。難解でも本物、そうした番組を視聴者が求めていたのではないかと思います。テレビはわかりやすくなければ見てもらえない、そんな制作者の思い込みを打ち砕いてくれた番組となりました。

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CSCD:白熱教室JAPANでは、これまで日本の大学で行われている様々な対話式講義が取り上げられていますが、今回、大阪大学CSCD小林傳司教授の授業を取り上げようと思われた理由、経緯をお聞かせください。

寺園さん:今NHKでは震災関連番組に全力をあげて取り組んでいます。小林先生の科学技術と社会というテーマは、震災後の日本のありようを考えるために、最も重要なことであると思い、先生に熱烈にお願いをしました。私も関西の人間なので、手に取るようにわかりますが、関西の人はすごく恥ずかしがり屋です。あまり誇らしげに人前に出るということを好みません。小林先生も固く辞退をされましたが、実際にお目にかかり、お電話を重ねて説得をさせていただきました。先生の考えているテーマがいかに今の日本にとって大切なのかを何度も訴え、ご了解をいただきました。テレビ番組は、出たい人よりも出したい人ですね。

CSCD:大阪大学CSCDでは、2005年からこのような対話式の授業が行われています(最初は単位認定なしの実験的な授業でした)。このような対話型の授業が日本の大学で行われる意義についてどのようにお考えでしょうか?

寺園さん:大きな意義があると思います。詰め込み式の講義が主流だった日本ではまだ少数派かもしれませんが、人間考え続けることが一番大切だと思います。コンピュータが今や、世界最高のクイズチャンピオンに圧勝する時代です。記憶するということは、人間の脳にとって大切な仕事ではなくなって行くかも知れません。今、全国の大学で、こうした対話型講義が広がっていると聞いています。準備が不十分なまま、対話型講義に挑戦することに、批判もきっとあるでしょうが、なかなかやってみないと分からないものでしょう。ぜひ全国で広がり、若者たちに大きな刺激を与えて行って欲しいと思います。

(聞き手:松川絵里/大阪大学CSCD特任研究員)