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スペシャル授業レポート
授業レポート

春~夏学期「リテラシーD:映画で学ぶ社会の見方」(ゲスト:山田英治 監督)

COデザインセンター開講科目<リテラシー>
2019年5月 9日(木) 投稿

COデザインセンターでは多様な授業が開講されています。

今回は2019年度春~夏学期に「リテラシー」として開講されている「リテラシーD(映画で学ぶ社会の見方)」(担当:山森 裕毅)の様子をレポートします。

本授業の目的と目標は以下です。

COデザインセンターは社会課題に取り組む実践的な知性と感性を育むことを目的のひとつとしています。とはいえ、学生が社会課題のある現場にいきなり飛び込んで実践することはとても難しいです。そのため、まずは映画を通して知性と感性を磨きたいと思います。映画はそれ自体で社会課題への取り組みであり、これらの能力を磨くための優れた素材です。授業にはゲストとして第一線で活躍する映画監督をお招きし、彼らから社会の見方を学びます。

今回は、2019年4月26日に行われた授業の様子をレポートします。

この日は、ドキュメンタリー映画『ほたるの川のまもりびと』の監督、プロデューサーである 山田英治 さんをゲストにお迎えしました。


山田英治
ソーシャルクリエイティブプロデューサー/映画監督

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<受講生たちはこの授業の中で、山田監督に直接質問をすることができました。>

早稲田大学政経学部卒業後、広告代理店にコピーライターとして入社。CMプランナーとして数々のTVCMを制作。2000年より映画制作をスタート。「鍵がない」(つぐみ、大森南朋出演)で劇場公開デビュー。脚本家としてNHK「中学生日記」に参加。ラジオ番組の構成、作詞など、多岐にわたる活動を展開。2011年の東日本大震災後は、社会課題をクリエイティブのスキルを活用して解決していくソーシャルクリエイティブプロデューサーとして様々な社会テーマの広報やコンテンツ開発、地方自治体のブランディングを担当。


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『ほたるの川のまもりびと』
監督:山田英治

半世紀もの間、ふるさとを守るために戦ってきた13世帯の家族の暮らしをめぐるドキュメンタリー。

ウェブページはこちら


本授業のファシリテーターは、平田オリザ COデザインセンター教授(劇作家)がつとめました。


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授業の最初に、『ほたるの川のまもりびと』を鑑賞しました。


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映画の余韻が残る中、受講生たちは、山田監督と平田さんを囲み、直接お話を伺うことになりました。

平田さんの
「ドキュメンタリーが初めて、という人もいると思います。この場は授業ですから、空気とか読まなくていいですので、聞きたいことを素直に聞いてもらえればと思います。感想でも質問でも言ってください。」
という言葉でスタートしました。


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最初に、山田監督より、本作品の背景についてお話がありました。

本作品の撮影期間は2015年の秋からの約1年半でした。映画の舞台となった長崎県川棚町こうばる地区では、映画のなかにあったようなダム建設に対する住民の抵抗状況が今も続いています。

山田監督は、約20年間、広告代理会社で企業CMを制作してきました。2011年の東日本大震災のとき、テレビでCMが一切流れなくなったことがきっかけで被災地にボランティアに行き、そこでさまざまなNPO団体と関わることになりました。山田監督は、そのときに初めて、日本が「課題先進国」と言われるほど多くの社会課題を抱えているという現状を知ったそうです。

経済をまわすためにCMをつくるということから一旦離れよう、と考えていたとき、こうばる地区のダムの話を聞きました。同時に、この件に関する報道が十分ではなく、多くの人が知らない状態である、ということにも気づきました。

山田監督はこうばる地区に足を運び、その生活の豊かさにほれこんだそうです。作品の中で描かれているとおり、そこで暮らす人々もみんなチャーミングでとても明るい、とおっしゃっていました。

「先祖伝来の土地で、今までどおり当たり前に生活をしていた人が、突然『ダムをつくるからどいてください』と言われて怒っている、それは当たり前のことですよね。」ともおっしゃっていました。

山田監督は、この映画を、ダム反対映画ではなく「豊かな小さな暮らしに賛成する」映画というコンセプトでつくったそうです。撮影中も、自分自身が興味のあることを撮影し、自分自身が興味のあることをたずねました。そこについては本当に自分の気持ちに素直にできた、とおっしゃっていました。


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平田さんからは、以下のようなお話がありました。

公共事業が全て悪いというわけではありません。あくまでも、費用対効果が良いものを選んでやるべきであり、実際、公共事業が地域を潤わせた、ということもかつてはありました。また、災害の多い日本において、治水は行政にとって大命題だという側面もあります。

しかし、昔とはかなり状況が変わっており、事業をやると決めたときと現状が大きく違う、ということも多いのです。数十年前に行政がやると決めたことを途中で止めるのが非常に難しい、というのは非常に大きな問題となっています。


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受講生からはさまざまな質問が出ました。ここでは、そのうちのいくつかをご紹介します。


ー 行政側の映像がほとんどなかったように思うが、なぜですか?

山田監督
「最初は行政の方も取材するつもりだったのですが、今回はそういう話ではないなと思ってやめました。カメラを持っているほうが絶対強いので、困っている行政の人をカメラで撮るのはやめよう、と思ったのです。」


ー この作品が「ダム建設反対という主張を支えるためにつくられたもの」という風に見えてしまいます。

山田監督
「報道とドキュメンタリーの違い、ということですね。ドキュメンタリーはフィクションなのです。僕は完全に、ダム建設反対、という立場でこの映画をつくっています。意図してストーリーをつくっているのですね。」

平田さん
「それはメディアリテラシーに関わることですね。諸外国とは違って日本では、メディアリテラシーに関する教育が進んでおらず、問題だと思います。映像というものは、編集次第で大きく変わるのです。同じ素材であっても編集の仕方を変えれば反対の主張の作品がつくれるのでは、というほどです。」


ー 山田監督は、ほかにどのような活動をされているのですか?

山田監督
「社会テーマ専門のクリエイティブエージェンシー「株式会社 社会の広告社」という広告代理店を設立しました。社会福祉法人の仕事そのもののブランド価値を上げる仕事などに携わっています。

ここでの仕事は、持続可能な未来のために必要なこと、もっとたくさんの人たちに伝えるべきことのコミュニケーション戦略に集中しています。

大手メディアは、結局、資本主義社会のなかにおかれていて、日々、よりキャッチーなものを取り上げることになります。自由経済なのでやむをえないのですが、そこからこぼれていく伝えるべきこと、伝えたいけどなかなか伝わらないこと、ということを、違うテクニックをつかって伝えていく必要性を感じています。」


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受講生からの感想としては、以下のようなものがありました。

「このようなことがあるとは、今まで全く知らなかった。知らないのはすごく怖いことだと思いました。こういう機会があってとても良かったです。」

「私は今は大学に通っているが、もともと公務員という立場。もし自分の故郷がこのような状況になったらどうするだろうか、と考えました。」

「私は、ドキュメンタリー映画を観るのは今回が初めてでした。映画から生々しさや温かさを感じました。」

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受講生たちは、さまざまな気づきを得たに違いありません。

COデザインセンターで行われているその他の授業のレポートについては、こちらをご覧ください。


(書き手:森川優子 COデザインセンター特任研究員)