大阪大学 COデザインセンター

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スペシャル対談
対談<生きる視点プラス>プロジェクトのその後

坂井 新 さん(医療法人遊心会・臨床心理士)

/山森 裕毅(COデザインセンター 特任講師)
2019年5月20日(月) 投稿

COデザインセンターでは多様な取り組みが行われています。

2018年1〜3月、「実習 → 演劇プロジェクト<生きる視点プラス>」が、以下の日程で行われました。

実習 → 演劇プロジェクト<生きる視点プラス> 活動内容・日程

2018年1月16日:初回のオリエンテーション、顔合わせ
2018年1月22日〜27日:遊心会「デイケアのぞみ」実習
2018年2月3日:一般社団法人 震災こころのケア・ネットワークみやぎ「からころステーション」の方が大学にて、地震と防災についての講義
2018年2月9日〜11日:「からころステーション」実習

デイケアのぞみ

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医療法人遊心会が運営する『デイケアのぞみ』では、精神科に通院中の方のための、様々なリハビリテーションを行っている。 ゆっくりと過ごす個人プログラムや、グループ活動を中心とした集団プログラム等を毎日用意している。

からころステーション

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震災後のこころのケアを目的に設立された 一般社団法人 震災こころのケア・ネットワークみやぎが運営する、被災地での精神保健活動の拠点。
石巻周辺地域にお住いの方々や、仕事をしている方々のこころのケアを中心にした健康相談などの活動を行っている。「からころ」には「からだ」と「こころ」の意味があり、「ステーション」には石巻駅前にあるということと、利用を希望される方に気軽に足をとめてほしいという意味を込めている。からころステーションは、石巻市と宮城県からの委託事業で運営しており、訪問や相談などはすべて無料となっている。


企画に参加した学生たちは、「デイケアのぞみ」と「からころステーション」というケアの現地に足を運び、課題や実践を自分の目で見て、肌で感じる、という経験をしました。

坂井さんは、臨床心理士という立場で、「デイケアのぞみ」の受け入れ側の代表者としてこの活動をサポートしてくださいました。

今回は、山森さんが聞き手となり、坂井さんに、学生を迎え入れた当時ケアの現場で何が起こったのか、そこにいた方々が何を感じたのか、ということについてお話いただきました。学生が現場におもむき、活動する、ということの様々な可能性を示唆する内容となりました。


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<学生たちと一緒に、被災地を訪ねた坂井さん(左から二人目)>

山森
この企画をやってみていかがでしたか。どのようなことが印象に残っていますか。


坂井
僕たち遊心会のスタッフにとって、精神科医療をまったく知らないひとを「のぞみ」に受け入れるというのは初めての経験でした。ですから、大阪大学の学生たちが「のぞみ」に来て実際にどういうことが起こるのか、僕にも予想できていませんでした。

当時のことを振り返って最も印象に残っているのは、学生と「のぞみ」のメンバーさん(当事者の方や患者の方のこと)との関わりのことでありません。学生とスタッフの関わりのことです。実は「のぞみ」のスタッフたちが「学生たちにどう接ししたらいいのかわからない」と訴えてきたんです。

スタッフたちは、学生たちと接するたびに、その態度に結構「イライラ」していたように思います。考えてみれば、学生に限らず精神科医療の内部を知らないひとが現場に入ってきた場合には、あたりまえのように生じる現象のように思います。一般的にこうした事態は避けるべきと思われるかもしれません。しかし僕としては、スタッフたちがイライラすること自体は悪いことではない、と思っています。なぜなら、スタッフのみんなと一緒に「なぜこんなにイライラするのか」ということを話し合うことができるからです。結果的に、こうした一連の経験がスタッフたちにとって成長に繋がったと考えています。


山森
成長とはどういうことしょうか。もう少し教えていただけますか。


坂井
学生たちが介在したことによって、僕とそれぞれのスタッフのコミュニケーションが活性化したというのが一つです。学生たちが、何か「素材」のようなかたちで僕たちスタッフのなかに入ってきてくれたからこそ、学生を巡った新しいコミュニケーションの状況が生まれました。こうしたコミュニケーションを通して、スタッフたちは「自分が何に対して感情的になり、それはどうしてなのか?」という問いを持つことができるようになったんです。それは、いわば自分の内的体験を相対化して振り返ることが可能になる対話だったともいえます。その意味で、学生たちは「素材」というだけでなく、僕たちにとって「触媒」になってくれたともいえますね。

こうした一連の流れが、スタッフたちにとってとても意味のある経験だったのではないか、と考えています。


山森
僕自身も、彼らのような「支援者を目指していない学生」がケアの現場に入ったことで、支援のスタッフ側がざわめいたことは感じました。現場に来たのがこれから支援者になろうという学生だったら、スタッフのひとたちは「こういうことは知っておいてほしい」ということを伝えることができます。仕事のやり方とか心構えとかを教えるのは研修としては当然のことです。でも、彼らのような「支援者を目指していない学生」をケアの現場で眼の前にして、スタッフは何を言っていいのかわからなくなってしまった、ということですね。


坂井
そのとおりです。


山森
スタッフ側のそういう状態に対して、メンバーさんたちのほうは、学生たちと接することで緊張したとは思うのですが、そのことでむしろ学生たちに自分の「良い面」を見せようとしてくれた、と感じました。


坂井
予想以上にメンバーさんたちの方が、すごく楽しそうに学生たちを純粋に受け入れていてくれていました。僕たちが知らないメンバーさんたちの力を見せてもらったともいえます。

あるメンバーさんは、(この企画にかかわって)精神的に調子が悪くなってしまったことがありました。でも、僕たち治療者の側からすると、メンバーさんの調子が悪くなることは必ずしも悪いことだというふうには考えません。(長く患っている)病気って「固まってしまって」いるものなので、何かのきっかけで動きが生じるほうがいい、という側面もあります。つまり、動きが生じるからこそ、何らかの治療や成長につながるということもある、という考えなのです。当時は、そのメンバーさんが調子を崩したからこそ、新しい視点で他のスタッフが関わりはじめるということも副産物として生じていました。その面でも良い関係づくりのきっかけになったと思っています。


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山森
この企画を通して、坂井さんがご自身について何か感じたことがあれば、ぜひお聞きしたいです。


坂井
僕自身としては、自分自身が"支援者である、治療者であるということ"、を予想以上に意識しすぎているのだな、ということに気がつくことができました。この20年くらいで自分自身こそが、そういう枠にハマってしまっていた、と。僕も若い時には、まず人と人との関わりを大切にするところから始まって癒しや治療みたいなものが始まると考えていたように思います。でも経験を重ねるにつれて、「治療する枠組み」を自分のなかに作り上げてしまって、それありきという姿勢になりがちだったのかもしれません。その「枠組み」を脱するためには、自分自身をもう一度俯瞰して眺めたいんだけれど、それがなかなかできてこなかったですね。学生たちの純粋な体当たりを受けるうちに、「ああ、案外自分はこんなところで引っかかっていたんだな」というような気づきがたくさんありました。

心理士の仕事は、基本的に部屋という閉じられた空間のなかでする仕事なんですよ。部屋のなかだからこそ治療ができる、ともいえます。僕自身は、こうした心理士のなかでも外に出ることの必要性も感じている方だと思います。それでも、案外狭い世界にいたなと。いつのまにか狭めていっていたな、と今回の学生とのやり取りでとても感じさせられたのです。気がつかないうちに医療や臨床心理といった固定化されてしまった視点から、ものごとを眺めていたのが、今回少し違う角度から眺めることができる感覚がでてきた。この点が、僕としてはとても面白かったな、と思っています。学生はどんどん遠慮なくつっこんでくるでしょう、「これってどういうことなんですか?」というように。僕の立場になったら、つっこまれるというようなことは、ほとんどなくなるので。


山森
なぜつっこまれなくなるのでしょうか。


坂井
もしかすると、周りは僕につっこんでいるつもりなのかもしれないのですけどね。でも、こちらとしては想定済みのことばかりなのです、ほとんどが。それが学生の場合は「そういうところからつっこんでくるのか」みたいな意表を突かれることが、たくさんあって、それに応えるうちに、僕のなかの固まった枠組みがいい感じで崩されていった、というような。


山森
学生たちはいろんなことを疑問に思うから。


坂井
ただし、実はしんどかったんですよ。そのしんどさを振り返ると、期間中仕事が増えて忙しさからというわけではなく、たぶん自分が持っていた枠をちょっと崩される感じのほうがしんどかったのだろうな、と思っています。ある意味、自分を守るために、気づかずに作り上げてきたものが切り崩されそうになるわけですから、、、。

山森さんはどうですか?


山森
僕は、学生たちから「良い話」が社会に少しずつ広まっていく、ということが重要だと考えています。精神障害は日本人の五大疾病に入るほどありふれたものですが、まだまだ偏見が強いです。彼ら学生が精神科デイケアのような支援の現場にきて、「メンバーさんとこんな話をして、とても楽しかった」、「こんな経験をして、それがとても印象に残っている」ということを、自分の友人や知人に自分の言葉で少しずつ話すということは、ささやかではあれ偏見を減らしていく機会になる可能性があります。地域に精神障害のある人も出ていって精神障害のない人とともに暮らす、そういう社会をつくっていきたい、という社会的な流れがあるなかで、そういう活動を着実に積み重ねていくということは大切なことだと考えています。


文:山森裕毅 COデザインセンター特任講師(<生きる視点プラス>プログラム担当者)