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スペシャル授業レポート
授業レポート

集中講義「医療協働術(サイコオンコロジーと健康心理学)」

COデザインセンター開講科目<協働術>
2019年6月 4日(火) 投稿

COデザインセンターでは多様な授業が開講されています。

今回は「協働術」として開講されている「医療協働術(サイコオンコロジーと健康心理学)」(担当:平井 啓 人間科学研究科准教授)についてレポートします。

本授業の目的と目標は、シラバスに以下のように書かれています。

保健医療分野における心理学の実践の対象となる領域には、<精神疾患・精神障害>と<身体疾患患者の心理的状態・問題>の2つの領域がある。本講義では、両者に共通する理論とその方法を事例検討やグループワークを行いながら実践的に学ぶ。具体的には、Bio-Psycho-Social Modelに基づく包括的アセスメント、学習理論と認知行動論(問題解決アプローチ)・心理コンサルテーション・メンタルヘルスケア・リテラシーなどを、2領域それぞれにおける<治療とケア>並びに<予防>を扱う2つのアプローチの中でそれらの適応の方法について学ぶ。また、保健医療分野の実践で必要となる法律や制度についても触れる。それにより、保健医療の領域において、心理学の実践家(公認心理師)として、患者・家族・医療者自身の適応のための適切なアセスメントと具体的な支援方法を自ら考え、計画できるようになる。

本授業は、COデザインセンターの開講科目であるのと同時に、国家資格である公認心理師資格取得のための認定科目でもあります。


本授業を担当されている平井先生は、以下のように話されています。

「この授業では、現役の医師などをゲストに迎え、現場で実際にどのようなことが起こっているか、生々しいお話をしていただいたり、実際のケースに基づいた具体的な事例を扱ったグループワークを積極的に取り入れたりしています。

人間科学研究科に所属している公認心理師資格取得を目的とした受講生と、医学研究科(保健学専攻)やさらに経済系や工学系などの一般受講生がだいたい半分ずつの割合で参加しています。

一緒にワークを行うグループの分け方は工夫して行なっています。一つのグループに様々な背景を持つ受講生がいて、様々な角度から発言することが、それぞれにとって学びにつながります。2つの授業を同じ空間で行うことで、公認心理師取得希望の学生は、保健学科の現場経験豊富な社会人受講生から現場のことを学び、一方で社会人受講生は、心理学を専門とする学生から心理学的なものの見方を学びあいます。そうすることで、心理学的な専門知識の習得にとどまらず、自分ならどう判断するか、どう考えるか、ということを、授業を通じて考えることができるようにしています。このような学習効果は、それぞれに単独授業として開講することでは得ることができません。」


今回は、全3日間で行われた本授業の、2019年5月18日(2日目)、5月25日(3日目)の様子をレポートします。


5月18日

本授業は、公認心理師資格取得の認定科目でもあるため、講義内容としては非常に専門的な心理学的知識を取り扱います。

この日の午前中は、抑うつ障害群、躁病、認知症の症状や診断基準などについて専門的な解説がなされるとともに、資格試験で実際にどのように問われるか、といった具体的な試験対策も行われました。

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午後は、聖路加国際病院 水野先生より、「循環器疾患の心理学的問題」というテーマで話題提供がありました。

心筋梗塞についての医療技術が飛躍的に進歩した現在、たとえ緊急で病院に運びこまれたとしても、95%の確率で回復する時代です。だからこそ再発防止が重要となっています。
医師は「今現在の症状に対応することも大切だけど、予後をよくしてあげたい」と考える一方、患者は「なぜもう症状は良くなったのに、相変わらず病院に通い、薬を飲み続けなくてはいいけないのか」と考えます。そこに大きなギャップがある、と水野先生は話されます。

水野先生によると、循環器疾患は心理的問題を引き起こす場合が多いそうです。そして、循環器疾患患者において心理的問題がある場合、予後が悪くなる傾向があるそうです。
しかし、循環器の医師が患者の心理的問題にまで対応するというのは不可能であり、特にうつに関しては臨床心理専門職の関与が非常に重要です。
費用の問題や組織連携の問題など、解決すべき問題はたくさんあるとのことですが、今後積極的に取り組んでいきたい、と水野先生は話していました。

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水野先生からの話題提供のあとは、具体的なケースに基づいてグループワークに取り組みました。

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今回グループワークで取り組んだケースは、以下のようなものでした。


(本授業で取り組んだ事例の一部抜粋)

心理専門職であるあなたは、水野先生より、以下のような現症を持つ患者についてどのように対応するべきか、相談を受けました。

<現症>
・1年前に急性心筋梗塞で緊急搬送され、カテーテル治療を実施して無事退院した50代の患者
・約3ヶ月に1回外来通院をしているが、外来の待ち時間の長さにイライラしている
・時折生じる夜間の胸部不快感が強いが、検査では異常が認められない
・現在の症状では血管拡張薬の処方くらいしか手立てがなく、水野医師より心理専門職の面接を勧められている
・一流企業の管理職であり、自分でいろいろなことを先回りして働くことが得意、上司からの評価は高い

あなたは、心理面接を実施し、以下のようなことがわかりました。

<心理面接での患者の様子>
・夜間の胸部不快感があった日を確認し、それぞれの日に仕事や家庭で何か思うようにいかないことがあったかを尋ねると、ある部下が担当する業務の締め切り前日であることがわかった
・その部下の仕事のスピードや手順について、患者がイライラして厳しい口調で叱責してしまったことがある。それ以降、部下は顔をあわせると青い顔をし、焦って作業にとりかかる様子が見える

あなたは心理専門職という立場から、この患者について水野先生にどのようなことをフィードバックしますか?


この事例は、水野先生が実際に現場で接している患者をモデルに作成されたものです。受講生たちには、患者と医師の具体的なやりとりなど、検討する際に必要な情報が提供されました。

受講生たちは、この事例に対し、心理的介入の内容(包括的アセスメント、介入のターゲット、介入のゴール設定、介入内容など)を具体的に計画することが求められました。

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受講生たちは熱心にメモをとりながら、積極的に議論に参加していました。


5月25日

授業最終日は、問題解決療法に取り組みます。

問題解決療法とは、数多くある心理療法の中でも認知行動療法の一つに分類される介入方法・技法です。広くは問題解決技法(Problem-solving technique)とも呼ばれます。この療法の理論的背景は、社会的問題解決と呼ばれ、日常生活の中でストレスを感じるさまざまな問題に対して、その問題を取り扱うのに有効な解決策の選択肢を見つけ出し、それらの中から最も有効な手段を見つけ出そうとするプロセス、と定義されています 。

この社会的問題解決における問題とは、なんらかの障害により、そうありたいと思う状態(What I want)と現在の状態(What is)が不一致であり、効果的な解決策(コーピング)がとれない状態のことを指します。効果的な解決策とは、ポジティブな結果(ベネフィット)を最大にし、ネガティブな結果(コスト)を最小にするように、問題に対処する(目標を達成する)ための取り組み(コーピング)のことです。

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まずは、平井先生から示された『Problem-Solving Canvas Ver1.2』に基づいて、受講生それぞれが自分自身の「生活の中にある問題」について分析し、グループ内で発表しました。

受講生たちは、このワークを通じ、「問題解決の全体構造の中のどこかを動かし、問題定義→フィードバックのループを回す」ことの重要性を実感している様子でした。

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次に、うつ病復職支援の事例検討をグループで行い、問題解決療法のプロセスを多方面から検討しました。


(本授業で取り組んだ事例の一部抜粋)

<家族構成>
・40代男性、妻と息子2人がいる

<主訴>
・焦燥感、孤独感、見捨てられ感、不安、自己嫌悪、不眠

<現病歴>
・人事異動で業務内容が一変したことがきっかけで、焦燥感と苛立ちを募らせ、結果的に不眠、だるさ等も出現
・うつ病性障害と診断を受け、1度目の休職後、休養と薬物療法で回復、復職
・上司の転勤、家族の事故などで再び抑うつ気分に陥り、1ヶ月入院し、その後休職している
・復職への焦燥感、「仕事がなくなるのでは」という不安が非常に強くなっている


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平井先生より以下のような問いかけがありました。

「患者にとって『治療的に働く目標設定』とは何でしょうか。
また、その目標に対して患者が実行可能な解決策は何でしょうか。
それらについて検討し、行動目標を『Problem-Solving Canvas』に設定してください。」

受講生たちは、この事例に取り組むことで、目標の設定や解決策の創出には複数の視点が重要であることを体験しました。

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グループワークの後、それぞれのグループからワークの内容について報告があり、それに対する総括として平井先生は以下のように話されました。

「視野の狭さが患者の抱える問題の根底にある、ということがあります。こちらからの働きかけによってどのように患者の視野を広げてもらうか、ということがポイントです。

最初から理想的な状態について考えすぎると、焦点がずれる場合もあります。大切なのは、第一歩をどう生み出すか、ということ。『Problem-Solving Canvas』を何度も書き換えることで、患者の視野が広がる、ということがあります。

この事例の場合は、長期的には復職を目標にする一方、まずはこの1ヶ月で何ができるでしょう、と、患者と一緒に考えることが重要です。」

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平井先生の
「セラピストの問題解決とクライアントの問題解決は関わり合っている。セラピストの問題解決は組織の問題解決の一部に組み込まれている。」
という言葉に、参加者の皆さんが頷きながら耳を傾けていました。


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COデザインセンターで行われているその他の授業のレポートについては、こちらをご覧ください。

(書き手:森川優子 COデザインセンター特任研究員)