大阪大学 COデザインセンター

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スペシャルダイバーシティ&インクルージョン受講生インタビュー
受講生インタビュー

集中講義「横断術(社会と臨床)」

COデザインセンター開講科目<横断術>
2021年3月 8日(月) 投稿

2020年11月7日(土)、15日(日)、23日(月祝)の三日間にわたり、「横断術」として提供する授業「横断術(社会と臨床)」が行われました。

シラバスには、以下のようにあります。


医療などの支援を目的とする領域では、ピアサポートグループや当事者研究など、問題の「当事者」どうしの対話を通じて支え合う活動が注目を集めています。この授業では、病気や障害、精神障がい、DVサバイバーなど、生きづらさを抱える人への支援やケア、回復の場で行われている当事者どうしの対話活動について具体的な事例をあげながら、その方法論、有効性や難しさ等について考察します。
また、こうした当事者どうしの対話や支え合いの活動において、医療や支援の「専門家」はどのように関わればよいのか、そもそも「当事者」とは誰のことなのか、「対話」とは何をすることなのか、といった根本的な問いについても参加者で議論をします。

<この授業の目標>
1. 様々な生きづらさ、困難を抱える人を対象とした、当事者どうしの対話を通じたケアや支援の現状について理解し、対象や領域における差異や特徴を挙げることができる
2. 「対話」とは、「当事者」とは、当事者どうしの対話における「専門家」の立ち位置とは、などテーマに関わる根本的な概念、問いについて理解を深め、自分の意見を述べることができる
3. それぞれの当事者のグループの性質にあった対話の運営、ファシリテーションや支援の方法について具体的に知り、対話や支援の実践につなげることができる

<授業スケジュール>
テーマごとに、講義と該当領域でのグループ対話の方法を体験するグループワーク、または、方法論やそれを支える理念などについて考察する対話型のワークを行います。
1〜2限目(11/7):当事者どうしの対話を通じた支え合いについて(担当:高橋 綾・ほんま なほ)
3 限目(11/7):専門家と当事者のすれ違いの心理(担当:平井 啓)
4〜5限目(11/7):病気や障害を持つ人どうしのピアサポートグループについて(担当:高橋 綾・ほんま なほ)
6〜10限目(11/15):自助グループでの対話と当事者研究について(担当:山森 裕毅)
11〜12限目(11/23):子育て支援とグループ対話(担当:村上 靖彦)
13〜15限目(11/23):まとめ


今回は受講生である小川 恵美子さんに、受講のきっかけや授業を通じて得たものについてお話を伺いました。

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小川恵美子さん(大阪大学大学院 人間科学研究科 博士前期課程、精神保健福祉士)

- 小川さんのご専門分野と、本授業の受講のきっかけについて教えてください。

私は、約20年のあいだ、フィリピンで貧困問題に関するNGO活動に関わり、スラム地域に暮らす子どもたちの教育支援やその親たちの生計向上支援などの活動を行ってきました。長く活動に関わり、今までに支援してきた子どもたちが成長しどうなっていくのかという調査もできるようになると、状況が改善されていく子どもたちがたくさんいる一方、ドロップアウトしていく子どもたちもいる、ということがだんだんとわかってきたのです。

私は、NGO活動を始めたとき、資金を援助すれば教育を受けることができ、よい未来につながる、と考えていました。でも活動を続けるうちに、金銭的支援だけでは足りないということが分かってきたのです。そこには貧困だけではないさまざまな問題が絡みあっていました。家族の問題、犯罪、ドメスティックバイオレンスなどの逆境の連鎖のようなものです。

NGO活動には寄付金や公的な資金の投入があります。ですから、自分たちの活動がどのくらいのインパクトを出せたのかという、量的な成果を出す責任があるのです。何万人に対してこんな支援を行ったとか、この市全体でこんな活動を行ったということを、支援者やドナーの方々に伝えるのはとても大切なことです。その一方、私は、そういった活動からこぼれていってしまっている人たちの中にこそ深刻な問題がある、と考えるようになりました。

私はそれを解決したくてこの仕事を始めたはずなのに...でも、そこにアプローチするには、現場で20年やってきたという経験だけではおぼつかない、と、もやもやしていたとき、トラウマ・インフォームドケアというものを知りました。そして、野坂 祐子 先生(人間科学研究科 准教授)村上 靖彦 先生(人間科学研究科 教授)のご研究を知り、阪大で学ぶことを決めました。「横断術(社会と臨床)」の授業も、村上先生がご担当されているのが受講のきっかけです。

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- 授業について、特に印象に残っていることについて教えてください。

私は、日本における貧困と教育の状況を知るために、帰国後大学で心理学を学び、ホームレス状態だった方や様々な事情で住まいを失った方を支援する福岡の施設で、支援員として働かせてもらいました。その間当事者研究や対話というものに初めて触れ、そのパワーや重要性を実感しました。そして、この「横断術(社会と臨床)」の授業では、さまざまな対話のかたちに触れ、対話のスキルについて学ぶことができました。

対話のスキルは、人を支援する役割を果たすという点において非常に重要ですが、それだけではないと私は思います。これらのスキルは、支援職同士のコミュニケーションにおいても役に立つものです。これは私の経験からですが、経験の長さや立場、職種によって、物事のとらえ方や対処の仕方に差が生じるのは当然なのですが、その差をお互い言語化しないままほおっておくと、誤解や感情面での行き違いが大きくなって、いいチームワークがとれなくなり、不安やイライラが高じて支援の質に影響を出してしまっているように感じることがありました。


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自分も含め、ともすると支援する側の人間は、支援対象者ばかり見てしまって自分自身を見ることを忘れがちです。支援対象者だけでなく、自分やそれ以外のまわりの人との関係性、また、その中で発生しお互いに影響しあう様々な現象を、俯瞰して見ることはなかなかできない。私は、今回学んだ対話のスキルを活かしてそれらをもう一度丁寧に捉え直すことは、支援対象者とのあいだにも、支援者同志の職場環境においても、良い効果があると実感しました。特に、対話のスキルによって組織のメンバーの安全・安心感が高まるという効果はとても重要だと感じました。

例えば、木にたくさん栄養をあげても、その根に傷があったら栄養がうまくいきわたりません。支援にうまくつながらない、つながったのにこぼれていく、関係が築けない、そういう問題の背後には、見えていない根っこの傷があるのかもしれません。自分や周りの人の根っこに目をむけるとか、せめて根っこの存在に気づくということが大切だと思います。時間はかかるかもしれないですが、まずは自らの足元を大事にすることが、実は効果や実効性が高いのではないかと感じています。対話を重ねるということは、そういうことなのではないでしょうか。この「横断術(社会と臨床)」の授業では「自分の足元の関係性を安心できるものにする対話」について学ぶことができたと思います。

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- 授業で得たことを、今後どのようなことに活かしていこうと考えていますか。

先日、支援職の方と対話する機会がありました。「横断術(社会と臨床)」の授業で学んだ「対話における安心・安全の実現」の話をしたところ、共感し「それは面白いですね」と言って、事業を運営する上でも生かそうとしてくれました。

村上先生は、逆境やちょっとした苦労に気づくことができる目を持って対話する人が増えることが大切だ、とおっしゃっています。今後は私も、そういった目を持って、対話の方法やその重要性を対人支援の現場で働いている人たちに伝えていくような活動に関わりたいと考えています。

※ 所属、担当はインタビュー(2020年12月)時点のもの。

(書き手:森川 優子 COデザインセンター特任研究員)