自民族中心主義
Ethnocentrism
解説:池田光穂
「問われなければならないのは、自民族中心主義的な主体があるひとつの他者を選択的に定義するこ
とで自己を確立してしまうのを避けるにはどうすればよいのか、ということである」(スピバァク 1998:65)
じ-みんぞく-ちゅうしん-しゅぎ、と発音します。その英語は
ethno-centrism, ethnocentrism, で、ウィリアム・サムナーが『フォークウェイズ』(Sumner, W. G.
Folkways. New York: Ginn,
1906)の中で使ったのがその嚆矢(こうし、最初のこと)だと言われています。英語をそのまま読んでエスノセントリズムということがあります。また、文化を担うのは民族集団なので、自文化中心主義という表現もエスノセントリズムと同義にみてもいいでしょう。
自民族中心主義とは、複数の民族的「他者」に対して、自己の民族とは異なった存在であり、かつ自 分たちが他者よりも優 越する価値を有するという(集団がもつ)倫理的態度※のことをいう。パラフレズします:「エスノセ ントリズムとは、複 数の民族的「他者」に対して、自己の民族とは異なった存在であり、かつ自 分たちのほうが他者よりも優 越する価値を有するという(集団がもつ)倫理的態度※のこと」を言います。したがって、エスノセントリズム(自民族中心主義)とは、なんらかの意図的に採用する政治的心情でもありませんし、また、倫理的態度と言っても心理学が言うエゴセントリック(自己中心的態度)のことでもありません。倫理的態度といっても個人がもつ性向のようなものではなく、手段がもつ、他者の集団に対する優越感情を、説明する論理のことを、エスノセントリズム(自民族中心主義)と言います。
※ここでわざわざ(個人的な態度に誤解されやすい)倫理的態度と定義したのは、それが人々に感情を生み出すからです。サムナー (1906[1975]『フォークウェイズ』青柳清孝ほか訳、青木書店)は次のように言っています:「エスノセントリズムは、われわれがあらゆるものの中心 であり、他のすべてのことは、それとの関係で計られ、評価されるといったものの見方に対して名づけられた述語である」[サムナー 1975:21、ただし用語は変えました]
"Ethnocentrism is the technical name for this view of things in which one's own group is the center of everything, and all others are scaled and rated with reference to it. Folkways correspond to it to cover both the inner and the outer relation. Each group nourishes its own pride and vanity, boasts itself superior, exalts its own divinities, and looks with contempt on outsiders. Each group thinks its own folkways the only right ones, and if it observes that other groups have other folkways, these excite its scorn. Opprobrious epithets are derived from these differences. "Pig-eater," "cow-eater," "uncircumcised," "jabberers," are epithets of contempt and abomination. The Tupis called the Portuguese by a derisive epithet descriptive of birds which have feathers around their feet, on account of trousers.17 For our present purpose the most important fact is that ethnocentrism leads a people to exaggerate and intensify everything in their own folkways which is peculiar and which differentiates them from others. It therefore strengthens the folkways." - Sumner, W. G. Folkways.(pp.13-15)
ここでの民族的他者は、それぞれおなじ文化を共有しているという前提で話されることがあるので、 ethno(=民族の)centrism(=中心からの視座)である自民族中心主義はしばしば「自文化中心主義(じ-ぶんか-ちゅうしん-しゅぎ)」と呼 ばれ ることもあります。
自民族中心主義が、ナショ ナリズムや人種主義の中に組み込まれると、自国民中心主義となり外国人嫌悪や排斥 (xenophobia, ゼノフォビア)や、人種 差別思想につながり、特定の外国人や人種を排斥することが、自分たちのアイデンティティの よりどころとなるという暴力礼讃の生むことはよく知られています。
しかしながら、おしなべて我々はしばしば自民族中心主義的な態度をとることが多く、とりわけ、他者の集団に対して恐怖を我々がつよく感じる時代には、集団的特性として極端なエスノセントリズム(自民族中心主義)に陥りがちです。その場合、自民族中心主義的な態度が問題なのではなく、排外主義的な態度をとって、相手の集団のことを極端に邪悪なものとして一般化したりすることが問題なのです(→「愛国主義」)。
リンク
文献
その他の情報
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099