コミュニケーションデザインの失敗?成功?
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上の2つのCD(Compact Disc)のジャケットをみてほしい。タイトルをみると、同じ内容のCDであることがわかる。
LP(Long Play)レコードの時代 からある、このような「ジャケ違い」というのは、音楽の内容ではなく製品のフェティシズム的魅力にしか感じない一部のコレクターを除けば、きわめて紛らわ しく腹立たしい商品である。
もちろん、いけすかないイラストよりもオリジナルの写真風のものがいいのだなどという、これも多少フェチがかった好事家もお呼びじゃない。
問題は中身が変わっていないからである。
お菓子などでは「味は昔のまま、パッケージはリニューアルしました」てなものがあり、これが人気を博することがある。
こういうのは、間違って同じ商品を買い、かつまたジャケットの違いなんてど〜でもいい人間にとっては、もう完全にコミュニケーションデザインの 失敗と言えよう。
なぜなら、不注意な顧客——そもそもこういう枠組を生んでしまう瑕疵はCD販売会社にあり社会的責任は大きい——は、違うものを買ったという満 足感を、CDをかけた瞬間に裏切られてしまうからである。
CD会社の関係者においても、こういう犯罪行為が行われていることに良心の呵責があるのだろう。時々、ジャケットの裏側に「これは●●年に販売 されたCDと同じものです」であるとか「内容は以前販売されたものと同じですが、この度オリジナルジャケットで再発売しました」という文言が、まことに小 さく書いてある。
しかし、ジャケット違いで「不注意な」消費者は購入する可能性が大いにあるので、これは、むしろ、コミュニケーションの齟齬を前提にした、犯罪 つまり詐欺行為に大いに近いものと思われる。
日本のCDは再販制という、購入したり販売したりする側よりも生産する側に有利な制度に守られているので、不用意な(売る側からみれば間抜けで 可哀想な)消費者は、ジャケットを開封して返品してもらおうにも返品商品には該当せず、結局、不必要なコレクションか中古屋さんに転売されるはめになる。
そう考えると、これはコミュニケーション・デザインの失敗というよりも、失敗を前提にしたほとんど詐欺行為に近いことになる。
こういう事態を野放しにしてもよいのか? 現場でプロダクトデザインに従事する人には是非とも、これを他山の石として、購入する消費者に親切で わかりやすい良心的なデザイン(商品につけるキャッチフレーズも含めて)に心がけてほしいものだ。
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垂水源之介文庫乃印