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人類進化と医療人類学

Medical Anthropology: A Evolutionary Biological View, Post Graduate Seminar on Medical Anthropology, 2016


池田光穂

健康と病気に関する文化的および社会的現象を研 究対象とする人類学研究を、医療人類学(medical anthropology)と呼ぶ。この授業は、健康と病気に関する人間のさまざまな諸実践(これが考え得る最も広義の「医療」の定義である)が、文化人 類学の基本的な概念と方法を用いれば、研究と分析が可能となり、その時代や社会の価値評価になり得る基礎資料を呈示できることを、講義と演習(文献読解) を通して明らかにする。今年は、伝統社会の生活様式を様々 な角度から眺めることを通して、現代社会の在り方について考えます。伝統社会は比較的小規模で、狩猟採集・牧畜・農耕などの生業様式を特徴として、人類の 数万年の歴史のほとんどを占めてきた社会(=世界)です。他方、伝統社会も含めた現代社会は、多かれ少なかれ工業革命の影響を受け、加速度的に発展しつつ ある情報や物流の地球規模化(グローバリゼーション)の中にあります。現代社会の病気と健康を考えるためには、ミクロ的な臨床社会学の研究アプローチの他 に、このような比較研究——私の用語で言う進化社会学的研究のひとつ——を通して明らかにする必要があります。

■シラバス項目

時間割コード/Course Code
360133 (知のジムナスティックス科目)
開講区分(開講学期)/Semester
1学期(→2017年度より春夏秋冬の4学期制
曜日・時間/Day and Period
月 6,月 7
開講科目名/Course Name (Japanese)
Medical Anthropology
定員/Capacity
15
ナンバリング/Course Numbering Code

単位数/Credits
2.0
年次/Student Year
1年(研究科)
担当教員/Instructor
池田 光穂
履修対象/Eligibility
全研究科大学院生、3年次以上の全学部生、社会人(10名まで)
開講時期/Schedule
第1学期=月曜6・7限、開講予定日(2016年:4/18, 5/9, 5/23, 6/6, 6/20, 7/4, 7/11)最終日のみ変則日です
講義室/Room
豊中キャンパス:基礎工学部オレンジショップ( I (アイ)棟1階)
講義題目/Course Name
進化生物学からみた医療人類学
開講言語/Language of the Course
日本語
授業形態/Type of Class
講義科目
授業の目的と概要/Course Objective
今期の授業では伝統社会の生活様式を様々な角度から眺めることを通し て、現代社会の在り方について考えます。伝統社会は比較的小規模で、狩猟採集・牧畜・農耕などの生業様式を特徴として、人類の 数万年の歴史のほとんどを占めてきた社会(=世界)です。他方、伝統社会も含めた現代社会は、多かれ少なかれ工業革命の影響を受け、加速度的に発展しつつ ある情報や物流の地球規模化(グローバリゼーション)の中にあります。現代社会の病気と健康を考えるためには、ミクロ的な臨床社会学の研究アプローチの他 に、このような比較研究——進化生物学的研究のひとつ——を通して明らかにする必要があります。
学習目標/Learning Goals
1.医療人類学および進化生物学の基本的な知識と研究法について他者に 説明できる。
2.人間中心の医療を召喚することができるか/否かの吟味を自分でおこなうことができる。
3.医療実践が文化の文脈依存という社会的拘束性を受けることの理論的根拠を他者の前で論じることができる。
履修条件・受講条件 /Requirement / Prerequisite
教科書の購入ないしは入手とその受講前読了とそれをもとにした討論に参 加してくださることを受講条件とします。
授業外における学習 /Independent Study Outside of Class
予習(テキストの読了)と復習が欠かせません。予習や復習で、不詳な点 はインターネット等で極力自力で調査していただき、それでも明快な答えが得られない時に、授業で全員の前で質問してください——そのための時間を用意して あります。
教科書・教材/Textbooks
内容入力
画面
課題文献(英語)は別途掲示し、パスワードをかけた文献をダウンロード 等で入手できるように配慮します。
- ジャレド・ダイヤモンド/『銃・病原菌・鉄(上) (下)』/草思社(文庫)/それぞれ、978-4794218780、978-4794218797
- ウィリアム・マクニール/『疾病と世界史(上)(下)』中公文庫/それぞれ、978-4122049543、978-4122049550
参考文献/Reference
ウェブページ http://bit.ly/1vypeXd で適宜示します。
成績評価/Grading Policy
出席点を重視(70%)します【→フル出席のデフォルト化により現在はこのような記載はできないようになりました。】。 就活や所属ゼミなどでのやむおえない欠席にはアドホックな課題レポートを課しますので、それらを提出し合格することで出席点に代えるなど、配慮します。
コメント/Other Remarks
■我々の常識を解体する医療人類学的想像力
「昨日までの医療(the Medicine before only yesterday)」はそんなんじゃない?!
 この授業は、学部高学年ならびに大学院生(博士前期レベル)にふさわしい医療人類学の基本的な知識と研究法について学ぶものです。では皆さんの抱いてい る「常識的な現代医療」についてはどう思われるでしょうか。例えばこういうものです:まじないや呪術的治療に代表されるように、医療の原型には、宗教的で いわゆる迷信的な要素が多く含まれていましたが、近代医療の先覚者たちは、それを実験と実証により合理的に克服して、今日のような科学的な医学を気づいた と。これらは、近代科学の進歩史観と呼ばれる説明の方法で、現代の医学史研究や医療社会学においては、このような素朴な説明だけでは、医療・医学の発展を 説明できるものではないことが指摘されています。

今の医療が、最適で完全なものではありません!
 現代の我々は科学的合理性の世界を生きているように確信していますが、それも、そのような信念の結果に基づいてのみ我々は生きているわけではありませ ん。合理性の証明のみならず、すでに社会的に承認を得て、あたかも当たり前になっているもの(例:科学的信頼性、医療保険制度、医療行為の倫理原則)は、 いちいちその確実性などを個別に証明してから、それを使っているのではなく、慣習的にあるいは惰性のごとく我々は利用しているに過ぎません。それゆえに、 例えば、医療費の自己負担を現行の3割から5割に変更すると政府が仮に決定したとすると、私たちは怒りを覚えますが、では当たり前で自然だと思われている 3割負担の根拠が何に基づいているか適切に説明することができません。また高齢者や小学生未満の乳幼児が2割であることも(当事者ですら)忘れています。 それどころか、かつては2割(それ以前には1割)負担で済んでいた歴史的経験すら忘れられています。

人間の苦悩と向き合う医療とは?
 このように、医療と医療を受ける態度については「人間にとって医療とはこうだ/こうあるべきだ」という主張を経験的事実という手がかりになしに、勝手に 推論しても時間の無駄なのです。皆さんが、現代の医療について便利で高度に進歩したものだと思われるは、皆さんの自由ですが、病気や老化が人間の苦悩の原 因であり続ける限り、医療に対する人々の不満はなくならず、よい医療や人間らしい医療を成就するためにもっと資金が必要だという主張は、増大する医療費を 正当化したい医療職専門家や、治療のための研究開発が必要だという基礎ならびに応用の医学研究者の口実にすら覚えてきます。

何が人間にとって理想的な医療なのか? 
 何が人間にとって必要な医療なのか、何が人間にとって理想的な医療なのか、このことに関する議論に具体的な根拠を与えてくれるのは、医療従事者の観念的 な理念からではなく、現在地球上で行われている医療ないしは医療らしきものの具体的な観察と、それらを比較検討することから出てくる経験的知識に他なりま せん。そのためには、どのようにして生物医療中心主義の現代医療を、その客体化(objectification)過程を通して理解可能なものとし、人間 中心の医療を召喚することができるか/否かの吟味が不可欠になります。

医療は文化依存で社会的非拘束性の下にある!
 そして、医療実践とは、身体と心の変調(=病気経験)を媒介にするコミュニケーションプロセスに他ならないという観点にたつ必要が生じます。それゆえ授 業では、インターパーソナルなコミュニケーション理論——今学期に取り扱うのはマーガレット・ロック(1936- )という医療人類学者のそれ——の知見を紹介し、医療実践が文化の文脈依存という社会的拘束性を受けざるを得ないという理論的根拠を理解できるようにしま す。
特記事項/Special Note
なし
キーワード/Keywords
医療人類学、人間と健康、疾病交換、文化人類学、健康の未来
受講生へのメッセージ/Messages to Prospective Students
皆さんは、医療人類学ということばを聞いてどんな印象をもたれますか?  医療が(文化)人類学の対象になるのか?人類学という価値中立的で批判的な学問が、医療という価値志向的で、批判よりも実践が優先されるべき領域のこと を研究しても意味がないんじゃないかと思われるかもしれません。この授業の教師は、そのような偏見を払拭すべく、医療人類学が批判的であると同時に創造的 な学問であり、かつ我々が持ち得る想像力をフルに発揮しなければならないことを、楽しい授業のなかにも可能となることを示したいと思います。関心のある学 部高学年・大学院生・社会人の方は、専門外の方でも大歓迎です!

■科目名:医療人類学

■時間割コード:360133

■開講:第1学期:

■曜日時限:月・6/7限 (18:00-21:10)■特記事項:開講日注意してください:(4/18, 5/9, 5/23, 6/6, 6/20, 7/4, 7/11)最終日のみ変則日です

■教室 大阪大学豊中キャンパス・オレンジショップ(基礎工学部I(=アイ)棟)http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/CSCD_New_Orange_shop.html

■キーワード:医療人類学、身体、文化、心、ヒュー マン・コミュニケーション、進化医学
■授業の目的:

1.医療人類学の基本的な知識と研究法について学 ぶ。
2.人間中心の医療を召喚することができるか/否かの吟味をおこなう。
3.医療実践が文化の文脈依存という社会的拘束性を受けるという理論的根拠を理解する。

■教科書:(日本語テキストを中心におこないます が、リンク先で英語の資料が手に入ります)

復習用教材

映像教材

■参考書

■成績評価 参加にもとづく出席点重視(100%)

■スケジュール

章のアサインメント(青色はもう終わった箇所です

■授業計画(15回構成:実際は最初のイントロダク ションをふくめて16回分あります)

  1. ヤリの疑問——経済発展の不均衡に関する説明
  2. 文明の衝突の「起源」をさぐる
  3. 農耕の発明と農耕技術のインヴォリューション
  4. 野生動物と人間のマッチングが家畜化を生んだが、その鍵は緯度条件だった!
  5. 知識生産が格差社会の源泉?!でも格差をなくすために知識を放棄するわけにはいかない!
  6. 中国・オセアニア・ポリネシアの文明とは
  7. 新旧大陸の出会い、アフリカのユニークな文明、そして人類環境史への誘い
  8. 狩猟者としての人類
  9. 歴史時代の人類
  10. ユーラシア大陸における文明圏の交流と疾病
  11. モンゴル帝国時代における疾病分布の拡散について
  12. 大陸間疾病交換について
  13. 18世紀以降の医学がもたらした医学生態学的変化について
  14. 総合討論
  15. 最終試験

参考関連資料:Jared Diamond, The world until yesterday : what can we learn from traditional societies? New York: Viking, 2012. とGuns, germs, and steel : the fates of human societies, New York: W.W. Norton, 2005.

銃・病原菌・鉄

解説:ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』(特徴:ナショジオの3つのDVDをもとにすればさら に楽しく復習できます)

■進化医学(ダーウィン主義医学とも言う)の簡単な 解説

人間の病理現象を、ダーウィン進化論と現代の進化生 物学とりわけ遺伝学の観点から理解し、その知見を用いて治療に講じようする医学/医療のことを、進化医学(Evolutionary medicine)という。ダーウィン主義医学(Darwinian medicine)とも言う。

"Evolutionary medicine or Darwinian medicine is the application of modern evolutionary theory to understanding health and disease. Modern medical research and practice have focused on the molecular and physiological mechanisms underlying health and disease, while evolutionary medicine focuses on the question of why evolution has shaped these mechanisms in ways that may leave us susceptible to disease." -  Evolutionary medicine

上掲の英語版の進化医学でとりあ げられている、トピックスは以下のとおりである。

1.人間の適応(進化上の制約、トレードオフと対 立、競争効果)

2.「文明の病気」(食生活、平均寿命[0歳児の期 待余命]、運動負荷(エクササイズ)、清潔さ)(→池田光穂「病気の文明史」)

3.特異的な/個々の説明(人生の段階での病理/健 康現象)

4.進化心理学(→池田光穂「進化心理学・備忘集」)

■進化医学と「人種」の学問双六

まずはエピソード:研究者にとっての先住民の血液や 細胞の意義について、研究者は欲しがるが、先住民はそれらが先住民の同意なしで採集されていることに疑問をもつ。次の事例について考えよ。

「研究目的で墓地などから収集したアイヌ民族の遺骨 を全国の大学が保管している問題で、アイヌ民族有志らでつくる「東大のアイヌ民族遺骨を返還させる会」(村尾信一代表)は27日、東大を訪れて早期返還な どを要請し、赤門前で慰霊の儀式「イチャルパ」を行った。/文部科学省が4月に公表した調査結果によると、東大には201体の遺骨があり、同会は2013 年から返還運動を続けてきた。/この日は会員ら約20人が応対した大学職員に申し入れ書を手渡し「遺骨をコタン(集落)に返す措置を東大自らが講じるこ と」などの要請項目を読み上げた。大学側は「後日回答する」と話した。/※「イチャルパ」の「ル」は小さい字」毎日新聞,171028)

1.先住民の遺伝子をスクリーニングして、なにかお いしい遺伝子資源や、疾患治療につかえるという思惑がある、あるいはまったくゼロではない。

2.日本人の起源研究は趣味的な研究の範疇をこえな いが、進化医学とシームレスにつながっている。

3.「人種」により発症頻度が違う→遺伝的多型のパターンがちがう→発症メカニズムがわかる→人類に 福音という連想ゲームから、この枠組みが導きだされる。

4.この問題は、前提が間違っているのに、人類に福 音してしまうと、双六の出発点(=「人種」が本質的に存在すること)が、正当化されるこ と。

5.つまり、科学による人種主義が正当化されてしまうことです。

●人類進化と病気の歴史(子ども向け)

人類の祖先は今から400万年から300万年の昔にアウストラロピテク ス属という二足歩行をする猿人から、約200万年ぐらいに分かれて今のヒト属(ホモ属)から生まれたと言われています。ただし、アウストラロピテクス属も ホモ属も、これまでの歴史のなかで多数のグループ(これを種という)が存在してきました。私たち人類は、ホモ・サピエンスと言って最も古くて30〜20万 年ぐらい前に登場しましたが、皆さんもその名前を聞いたことがあるはずのネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルタレンシス)とおよそ3万年前ぐらいまでは 共存していました。その頃でも病気や障がいはありましたが、今のような医療もなく、すぐに死んでしまったようです。その証拠となる化石の骨になかなか情報 がみつかりません。
●引用

※出典:ナショナルジオグラフィック「解説:380万年前の猿人、人類史をこう書き換える」2019.08.31

 それまで狩猟採集生活していた人類がおよそ1万5千年から7千年ぐらいの間に農耕を発明して、集住するようになってから、感染症にかかる人が増えたと言 われています。ウィリアム・マクニールさんという歴史の先生などは、最初から人と人どうしが病気をうつす感染症があったのではなく、人—動物—人のあいだ で病原菌が一周するというサイクルのほうが一般的でなかったのかと言います。つまり、最初は人—動物—人のあいだで病原菌がうつっていたのが、さらに農耕 がすすんで、より多くの人たちを養えるようになると、人から人へうつる感染症(人—人感染症)が多くなったといいます。そのような感染症が溜まった場所を まるで水泳のプールのようだと表現して「疾病プール」とマクニール先生は呼びました。


文明には、さまざまな文化や芸術が花開きましたが、同時にそれぞれの文明で「疾病プール」が共通だったのです。そのため、騎馬による兵隊(十字軍)や宗教 や文化を伝える外交使節(遣唐使)が、文明と文明の間を移動したので、異なった文明のあいだでの「人—人感染症」が流行することになったのです。



 自分が知らない新しい文明には、幼年時代にかかったことがなく、免疫ができていないために旅の途中で死ぬことも多かったです。感染症のため多くの人が死 ぬることは、さまざまな文字をつかった文書により記録されていきました。文書という歴史報告のほかに、旅先で亡くなったり、友人や家族が死んでいったりす るために、その悲しさを乗り越えるためにさまざま絵画や詩などがつくられていきました。感染症の歴史を研究している先生たちは、それも人類の感染症の貴重 な記録だとして、さまざまな角度から分析を続けています。


■発展課題のためのリンク

■コメントや、過去の授業情報など

Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1996-2099
ひぐまさん

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