はじめによんでね

01: 文 化人類学ガイドブック

Introducing Anthropology: A Graphic Guide

Mitzub'ixi Qu'q Ch'ij


■ 教科書(→本日の単元:01-Ynukada_mikeda_anthropology2020-2.pdf)with password

1
人類学とはなにか?
1.    人類学とは何か? 1. 人類学とは何か?

〈アンソロポロジー〉という言葉は、ギリシャ語起源で、その字義どおりの意味は〈人(man)の研究〉ないし〈人の科学〉である。しかし、人類学(アンソ ロポロジー)の〈人〉は、特別な種類の〈人〉を指していた。

【台詞】学者(人類学者)「人類学は、歴史的にみれば〈未開人の研究〉だったんじゃ」

【台詞】アナザシ「俺はアナザシ。連中は俺のことを未開人と呼んだのさ」

人類学
2
「未開」とはなにか?(括弧でくくってい るところが味噌!)
2.    〈未開〉とは何か? 2. 〈未開〉とは何か

アメリカ文化人類学の創始者フランツ・ボアズ(1858-1942)は、『未開人の心性』(1938)において、まさに誰が未開人であるのかを私たちに伝 えた。

【台詞】フランツ・ボアズ「未開人とは、その生活の諸形態において単純で共通のものが多くみられ、彼らの内容や形態が示す文化というものは貧弱で知的には それほど一貫性がないものじゃ」

【台詞】学者(人類学者)(ブロニスロー・マリノフスキー著『未開人の性生活』を開きながら)「その研究対象について、よりまともな定義をすると〈女を抱 く男=マンの研究〉という人類学のお定まりのジョークで表現されるもんじゃよ」

・あなたが感じる未開[な]( primitive)や野蛮人(savage)を整理してみましょう(→「02: 文化人類学ガイドブック」)
〈未開〉とは何か
フランツ・ボアズ
ブロニスロー・マリノフスキー
3
人間を研究する
3.    人びとを研究する
3. 人びとを研究する

人類学者は人びとを研究する。人類学者は、人びとがどのように生活しているのかということ、つまり人間社会の現在と過去を研究する。人類学は、現在そして 過去において、人びとについて考える人びとを私たちがどのように考えるかについての研究でもある。ときに人類学は、人びと、民族、複数形の文化と社会の間 での力関係や、植民地主義、そしてグローバル化についての研究である。

【台詞】アナザシ「人類学とは、・生物学的、文化的そして社会的観点からの人の研究・人間の文化的差異についての研究・人間文化と人間の本性についての一 般理論の探求・複数形の文化間の、類似性と差異についての比較分析なのだそうだよ」

★【訳注】
アナザシの主張する人類学は、いわば「四分類人類学(総合人類学)」を指している。

四分類人類学(総合人類学)
4
人類学のビッグな問題!
4.    人類学の大きな課題 
 4. 人類学の大きな課題

人類学にとって最大の課題は、研究対象をどのように語るかということである。未開、野蛮あるいは単純は、価値判断を伴う言葉であり、差別的で至上主義的で ある。しかし、人類学者が特に研究したいと思う人びとや、なぜそれらの人びとを研究したいのかということの根拠は、これらの言葉によって定義されてきた。

【台詞】フランツ・ボアズ「人類学的探究の根本精神は、人間文化のすべての形態を研究することの必要性を称賛するところにあるのだ。人間文化の多様な形態 は、それだけで、人間の発展の歴史、過去そして未来に光を当てることができるからなのだ」

【台詞】アナザシ「人類学者が学び、人類学によって教えようと試みているのは、現実の人びとを未開で野蛮で単純だと考えるときに誤っているのは何なのかと いうことらしいよ」

フランツ・ボアズ
5
他者(別名「大文字の他者」)
5.    他者
5. 他者

今日の人類学は、他者についての体系的な学問であり、その他の社会科学はすべて、ある意味においては、自己についての学問であると定義されている。しか し、誰が他者で誰が自己なのだろうか?

【台詞】アナザシ「他者は、自身のアイデンティティとは異なる、〈相互定義〉のために利用される誰かだよ」

【台詞】アナザシ「他者は、非西洋文化の民族ということだね」

デル・ハイムズは『人類学の再創造』(1969)のなかで「他者についての研究を専門とする、自立した学問(ディシプリン)のまさにその存在が、いつも何 かしら問題を含むものであった」と書き残した。


文化人類学の研究対象とは〈他者〉である?!  はたして、それは本当か?

文化人類学の研究対象とは〈他者〉である?!  はたして、それは本当か?
6
変化する問題
6.    変化する課題
6. 変化する課題

人類学がその〈課題〉にどのように取り組むのかということが、今や人類学内部での加熱した論争の主題である。これ以外にも2つのことが変化した。1つは、 他者の変化である。非西洋社会は、急速な社会変化を経験した。

【台詞】アナザシ「俺は、消滅してゆく高貴な未開人になることを拒否するぞ。俺は、自分が持っている諸権利と、あんたたちと同等に扱われる権利を要求する ぞ」

【台詞】プラカード「俺たちはマンハッタンを取り戻す!!」
もう1つの変化は、人類学がホームに戻って来たことである。人類学はもはや非西洋社会の文化だけの研究ではなくなっている。人類学者は、今や西洋社会の周 縁的(マージナルな)文化や、法人企業や科学者集団あるいは警察といった制度的で組織的な文化も研究する。

人類学は、これらの変化にどのように対処するのか?人類学は、人類学そのものの歴史や、過去から現在までの人類学者たちの前提や、過去から現在までの人類 学者たちの反応を研究する。そして、他者よりも自己について、人類学がより多くを私たちに教えてくれるものなのかどうかを試案するのである。

【台詞】アナザシ「つまり、複雑になったということだね」
「まず、人類学が何についての研究であるのかを示すのは困難である。次に、人類学を学ぶために何をしなければならないかが少しも明らかではない。そして、 人類学を学ぶことと人類学を実際に行うこととの違いを説明する方法は、おそらく誰も持ち合わせてはいない。」
ティム・インゴルド(アバディーン大学人類学教授)

なになに人類学とは
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人類学の起源
7.    人類学の起源
7. 人類学の起源

「人類学を人類学たらしめるものは、具体的な探究の対象ではなく、学問(ディシプリン)と実践としてのその歴史である。」

ヘンリエッタ・ムーア(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス社会人類学教授)

【台詞】アナザシ「どの歴史、どのような実践なのかな?どのように人類学は始まったというのかな?」

【台詞】学者(人類学者)「近代的学問(モダンディシプリン)かつ専門的職業としての人類学は、人類学を教える大学学部の設立から始まるのじゃ」

アメリカ合衆国では、ボアズが1896年にコロンビア大学で教鞭を取り始めた。イギリスでは、1906年にオックスフォード大学において人類学という新し い学位が導入された。それと時を同じくして、人類学の実践が民族誌(エスノグラフィー)(人びとがどのようにどこで生活しているのかについての拡大研究) として確立された。


「歴史を感じる瞬間について



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創設者たち(父なる創設者たち:The Founding Fathers)
8.    建学の父たち
8. 建学の父たち

アラン・バーナードは、著書『人類学の歴史と理論』(2000[2005])において、すべてのモダン人類学の共通の祖先として、フランスの哲学者シャル ル=ド・モンテスキュー(1689-1755)の名前を挙げる。つまり人類学は、1748年の『法の精神』の出版から始まるというのだ。『法の精神』は、 啓蒙運動の産物である。

左上→右上 シャルル=ド・モンテスキュー、ルイス=ヘンリー・モーガン、ブロニスロー・マリノフスキー

左下→右下 エドワード=バーネット・タイラー卿、ヘンリー・サムナー=メイン卿

その後、1860年代にダーウィン主義の展望が開け、ヘンリー・サムナー=メイン卿(1822-88)、ルイス=ヘンリー・モーガン(1818-81)、 エドワード=バーネット・タイラー卿(1832-1917)、そしてジェイムズ・フレイザー卿(1854-1941)といった名高い人類学者たちによっ て、モダン人類学へとつながる知的伝統の輪郭が示される。1871年には、ロンドンに王立人類学協会(RAI)が創設される。フランツ・ボアズ、ブロニス ロー・マリノフスキー(1884-1942)、そしてA.R.ラドクリフ=ブラウン(1881-1955)が民族誌の実践を確立するときには、モダン人類 学はすでに始動している。

・モンテスキュー(→「法の人類学入門」)
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隠された項目(要するに啓蒙主義的系譜の ことです)
9.    隠された項目
9. 隠された項目

マーヴィン・ハリスも同様に、著書『人類学理論の隆盛』(1968)において、人類学の起源は啓蒙主義であると主張する。ドゥニ・ディドロ(1713- 84)、ジャック・テュルゴー(1727-81)、そしてコンドルセ侯爵(1743-94)を含む多くの啓蒙主義者が、建学の父たちのリストに加えられ る。

さらにハリスは、1580年に出版された『食人種について』という小論の著者であるフランスの作家ミシェル=ド・モンテーニュ(1533-92)もそのリ ストに加えようとする。

【台詞】学者(人類学者)「しかし、ハリスは、本文ではないが脚注の中で、『啓蒙主義的思考』とそれに先行した『実際に起こった』については、どんなもの であっても無関係なものとして片付けておるのじゃ」

【台詞】学者(人類学者)「なるほど、ハリスはそうするじゃろうな。その理由を教えてしんぜよう」

・人類学史(→「日本文化人類学史」)

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ルネサンス期(前項を引き継いで)
10.    リコナサンス(大航海)時代
10. 大探検の時代

モンテーニュは、フランスの博覧会でパフォーマンスするために連れて来られた何名かの南アメリカのインディアン(先住民)に出くわした。その後、モンテー ニュは有名な小論を執筆し、文明の決定的な特質を欠く存在として非西洋の民族をでっち上げた。

モンテーニュの着想は、〈経験〉ではなく推論によって形成されたものであった。彼の憶測は、いわゆる〈リコナサンス時代〉におけるクリストファー・コロン ブスのアメリカ大陸への漂着と、インドへ導かれたヴァスコ・ダ=ガマ以降に見出された〈新しい〉民についての膨大な文献の一部である。

【台詞】クリストバル・コロン(コロンブス)「この時代は、ヨーロッパ人がその地理的視野と知識を劇的に拡大した時代だった」※

【台詞】アメリカ大陸のインディアン(先住民)「そして俺らは大虐殺され、奴隷にされ、大幅な人口減少を強いられたんだ。俺らの存在と歴史なしに、人類学 は存在しえない。これが人類学者たちが認めたくないことなのさ!」

・「先住民性の表象過程のエスノグラフィーとしてのモンテーニュ「人食い人種について」
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「古きものへの忠誠」 ("Fidelity to the Old")
11.    〈古き時代への忠誠〉
11. 〈古き時代への忠誠〉

ハリスが厳しく非難し除外しようとするのは、マーガレット・ハッジェンの主張である。ハッジェンは著書『16世紀から17世紀の初期人類学』(1964) において、手ごたえのある2つの点を指摘した。

まず第2に、人間の起源、生活様式や多様性についての推論は、古くからあるもので、相互作用し連続している。古代ギリシア、中世の作家、〈リコナサンス時 代〉、モンテーニュ、そしてそれ以外の多くの概念と着想が、啓蒙主義思想と19世紀の人類学の知的伝統に情報を与えこれらを構築している。

【台詞】マーガレット・ハッジェン「そして第2に、このような古臭い推測に折り重ねられた組織化の原理と理論的着想は、何度も蒸し返されて、モダン人類学 のなかで生き永らえているということね」

【台詞】アナザシ「ハッジェンは、これを〈人類学に今なお残る古代への忠誠心〉と呼んだのさ」

ハッジェンが人類学とのつながりを指摘する初期の作品の特徴は何だろうか?1つの要素は、ローマの作家プリニウスが『博物誌』(A.D.77)の1節でそ う呼んだ、〈プリニウスの野蛮人〉への信仰である。『博物誌』は、知られざる世界の縁に暮らす怪物のような人種(犬の頭をした民族や頭のない食人種)につ いての莫大なコレクションを記録したものである。これらの怪物のような人種は、古代そして中世の文学作品の標準的特徴であった。これ以外の要素は、聖書的 な説明の枠組みである。

【台詞】マーガレット・ホッゲン「怪物のような民族への期待は、認められている人類学の歴史が始まった19世紀にはまだ誰もが抱いていて、ベストセラーの 書籍を生み出していたのよ」

【台詞】学者(人類学者)「そして食人種は生き続けているのじゃ」

食人種という見出し(ヘッドライン)を生み出す人類学者の最後の1人が1980年代に確認されている。しかし、人類学者ウィリアム・アレンス(1979) は、互いの共通言語が存在しないときに西洋人が発見しようとしたものが食人種であったと示しつつ、それが西洋人による過度な想像の産物であると説得力を もって主張した。その存在が期待されていたので、どんなに不合理であっても、食人種に関する報告は受け入れられていたのだ。

(原著15ページ)

・Margaret T. Hodgen, Early Anthropology in the Sixteenth and Seventeenth Centuries, 2011.

Margaret Trabue Hodgen (1890–1977) was an American sociologist and author. Hodgen was a professor of sociology at the University of California, Berkeley. Hodgen wrote the highly influential Doctrine of the Survivals, first published as a book in 1936, but originally launched in the journal American Anthropology in 1931. Hodgen completed her doctoral thesis, Workers' Education in England and the United States in 1925.

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人権の問題
12.    人権という問い
12. 人権という問い

スペイン人の〈新世界〉についての思想研究を専門とする、ケンブリッジ大学の歴史学者アンソニー・パグデンも、同様の議論をしている。
パグデンは、まず最初の重要点を指摘する。1550年にスペインのバリャドリードで開かれ、1570年代まで何度も繰り返された、アメリカインディアンが 人間か否かをめぐってのカトリック教会の公開討論が、人類学的思考と議論が作動するなかでの主要因(パラメーター)であるというのだ。

【台詞】征服者「その起訴案件は、スペイン王国の司祭兼公設史家であったフアン=ヒネス・デ・セプルベダによって示されたんだ」

【台詞】フアン=ヒネス・デ・セプルベダ「我は、古代ギリシアの哲学者アリストテレスを引き合いに出し、非西洋人は生来の野蛮人であるか、そうでなければ 自然奴隷であり幼児であると示したのである」


ドミニコ会の聖職者バルトロメ=デ・ラス=カサス(1474-1566)は、『インディアスの破壊についての簡潔な報告』として、これと相反する主張を提 示した。ラス=カサスは自身の主張を身をもって知っていた。

【台詞】バルトロメ=デ・ラス=カサス「私は、1502年からアメリカ大陸に滞在しておった
私自身がインディアンの奴隷を有し、彼らを搾取することで富を得ていたのだ。これは、私の著書『インディアス史(1566)』に詳しく記述したとおりであ る」

【台詞】アナザシ「1515年以降、ラス=カサスはその人生をインディアンの権利を弁護するのために費やしたのさ。ラス=カサスの貢献は、専門的職業上の 人類学者たちが行った以上のものだし、これは1950年代や1960年代に人類学者がアドヴォカシーを話題にし始めてからにもいえることだね」 

Anthony Robin Dermer Pagden, 1945-
- The Maya: Diego de Landa's "Account of the affairs of Yucatan" (as editor and translator) 1975
- The Fall of Natural Man: the American Indian and the origins of comparative anthropology
- 染田秀藤『大航海時代における異文化理解と他者認識』溪水社、2017
- トドロフ『他者の記号学』(原題「アメリカの征服」)法政大学出版局. 1982
1 発見(新大陸の発見;解釈学者コロン;コロンとインディオ)
2 征服(勝利の理由;モクテスマと記号;コルテスと記号)
3 愛(理解、掠奪、殲滅;平等か不平等か;奴隷制、植民地主義、コミュニケーション)
4 認識(対他関係の類型学;ドラウンまたは文化の異種交配;サアグンの業績)
エピローグ ラス・カサスの予言
13
イエズス会関連文書
13.    『イエズス会リレーションズ』
13. 『イエズス会報告』

パッジェンは、人類学的フィールドワークの実際の起源は、祖先として認められているボアズとマリノフスキーではなく、イエズス会の宣教師であり、そのなかで も特にカナダで活動していた宣教師たちだと指摘する。つまり、ポール・ル=ジュヌ(1634)、ジャック・マルケット(1673)、そしてとりわけジョセ フ・ラフィット(1724)である。これらの宣教師の活動報告は、年報『イエズス会報告』のなかで発表された。

【台詞】イエズス会宣教師「この年報をとおして、長期間にわたっての先住民との接触と関わり合いから獲得された情報を提示したのです」

【台詞】トーテムポール「この年報をとおして、人間の本性を理解するためにこれらの情報が何を意味するものなのかも検討されたのさ。いわば、人類学そのも のである一般化と比較だね」

【台詞】アナザシ「征服者と宣教師とは…人類学者がそんな起源に口を閉ざすのも無理もないことだね!」


1534年イグナチオ・デ・ロヨラフランシスコ・ザビエルらによって創設

The Jesuit Relations, also known as Relations des Jésuites de la Nouvelle-France, are chronicles of the Jesuit missions in New France. The works were written annually and printed beginning in 1632 and ending in 1673. Written as reports for their Order and for helping raise funds for the mission, the Relations were so thorough in descriptions of First Nations and their cultures that these reports are considered among the first ethnographic documents./ Originally written in French, Latin, and Italian, The Jesuit Relations were reports from Jesuit missionaries in the field to their superiors to update them as to the missionaries’ progress in the conversion of various Native American tribes. Constructed as narratives, the original reports of the Jesuit missionaries were subsequently transcribed and altered several times before their publication, first by the Jesuit overseer in New France and then by the Jesuit governing body in France. The Jesuits began to shape The Relations for the general public, in order to attract new settlers to the colony and to raise enough capital to continue the missions in New France.
114
西洋思想の主潮
14.    西洋思考の主潮
14. 西洋思考の主潮

学問(ディシプリン)としての人類学の従来型の歴史を見事に修正したのは、ホッジェンとパジェンに共鳴する人類学者ウィリアム・Y・アダムス(1927- 2019)である。アダムスは、西洋思考の〈主潮〉、つまり〈意識されている理論の段階(レベル)のその下〉で作動する考えに目を向ける。

【台詞】アナザシ「これらの主潮は、人類学がどこからやって来たのか、人類学とは何なのかを説明するものなのさ」

●進歩主義
 どんな歴史の時点で取り上げようとも〈野卑で理性に欠く存在〉から西洋近代へという登りエスカレーターのように進歩するということと、人類の文化の歴史 を同定する思考であり、いつも頂点にあるのは西洋近代であるという思考。

●未開主義
 進歩主義と相反する思考で、未開の単純性へのノスタルジーと、文明によって救済される者がゼロではないとはいえ、人類はその始まりの時点から下降を続け ているとする退化の概念を含む思考。

●自然法
 何度も繰り返される行動ではなく、コードと行動の事前の書き込みと、すべての民族、自然の一部(たとえば起源の生物学的側面)ないし神(たとえば起源の道 徳的、文化的側面)の意図に共通する規制が存在するという思考。(→「自然権」)

●ドイツ観念論
 精神(歴史の実質)と身体(自然の実質)という二元論に基づく思考。

●〈インディアノロジー〉
 いずれも人気のある、アメリカインディアンについてのイデオロギー(特に高貴な未開人に関するさまざまなイデオロギー)と、他者の他者性を中心とする主要 な研究分野。

William Y. Adams, 1927-2019, "Adams's work in Nubia began in 1959 as part of the UNESCO archaeological salvage campaign to excavate sites threatened by the rising flood waters of Lake Nasser following the construction of the Aswan Dam.[William Y. Adams (December 31, 2009). The Road from Frijoles Canyon. University of New Mexico Press. p. 371] Over the course of the next seven years he excavated a number of medieval sites in northern Sudan, including the pottery factories at Faras. By analyzing the changing proportions of broken potsherds in the fill, Adams was able to establish a typology of Nubian pottery that could be used to date excavation levels.[William Y. Adams (February 1986). Ceramic Industries of Medieval Nubia. University Press of Kentucky. p. 663.]"
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伝統の連続性
15.    伝統の連続性
15. 伝統の連続性

哲学のこのような主潮は、連続する伝統であり、理性に関する西洋の歴史を結び合わせるものである。これらの動向は、古代の起源、中世からルネッサンス、啓 蒙運動、ヴィクトリア朝時代の想像力、そしてモダン、さらにはポストモダンの時代をずっとつなぐ関連性を提供している。

【台詞】聖職者→「19世紀おこなわれる議論そのものが、聖書のストーリーになぞらえて解釈されるという事態がおこったのじゃ。その聖書のストーリーは、 ぼんやりとあるいはそれ以外の形で、あるいはその反対の形で、世俗的で理論的な概念と用語をつかって繰り返し登場するのじゃ」

【台詞】人類学者→「新しい様相に再利用され、用語も一新されたとはいえ、哲学的なルーツは今もモダン人類学のなかで認識することができるのである」

・理性:Reason is the capacity of consciously making sense of things, applying logic, and adapting or justifying practices, institutions, and beliefs based on new or existing information. It is closely associated with such characteristically human activities as philosophy, science, language, mathematics, and art, and is normally considered to be a distinguishing ability possessed by humans. Reason is sometimes referred to as rationality.

・伝統:Tradition is a belief or behavior (folk custom) passed down within a group or society with symbolic meaning or special significance with origins in the past. A component of folklore, common examples include holidays or impractical but socially meaningful clothes (like lawyers' wigs or military officers' spurs), but the idea has also been applied to social norms such as greetings. Traditions can persist and evolve for thousands of years—the word tradition itself derives from the Latin tradere literally meaning to transmit, to hand over, to give for safekeeping. While it is commonly assumed that traditions have ancient history, many traditions have been invented on purpose, whether that be political or cultural, over short periods of time. Various academic disciplines also use the word in a variety of ways.
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派生したマイナーな風潮
16.    派生したマイナーな風潮
16. 派生したマイナーな風潮

アダムスは、〈マイナーな風潮〉も明らかにしている。これらは劣っている訳ではなく、主潮からの派生であり応用である。

●合理主義
 人間の理性に順応し、理性によって理解することのできる法によって、秩序ある世界が統治されているという考え。

●実証主義
経験主義つまり観察と帰納ないし演繹から成る方法論に対する広義の通称。

●マルクス主義あるいは弁証法的唯物主義
 明らかに進歩主義の一部である、自称のイデオロギーであり〈セクト〉。マルクスとエンゲルスは、イロコイインディアンの研究で最もよく知られるアメリカの 人類学者ルイス=ヘンリー・モーガン(1818-81)の業績を自らの思考の基盤とした。

●功利主義と社会主義
 イギリスの独特な改革主義の学派で、過去への関心よりも未来に焦点を当てた社会変革のためのアプローチ。

●構造主義
 観察者によって押しつけられたものではない、構造化された世界、あるいは自然の秩序における原初的で一貫した構造があるという考え。構造は、したがって世 界である。これは自然法の派生である

ナショナリズム
 過去3世紀に支配的な西洋のイデオロギーであり、人類学とその他の社会科学の国ごとの伝統を方向付ける。

【台詞】アナザシ「大事なことを1つ言い残してしまったよ。大親分(大きなエンチラーダ)を!」

William Y. Adams,
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帝国主義
17.    帝国主義
17. 帝国主義

帝国主義は、搾取のための実践的戦略つまり理論よりも実践の分野であり、西洋思考が作動するイデオロギーの枠組みである、と言い表すのが最も適切だろう。 人類学者にとって対象となる植民地の民族は、研究のための、比類なき〈彼らの民族〉である。イギリスの人類学者アーネスト・ゲルナー(1925-95)に よると、植民地とは人類学が研究のために独占した〈予約済みの実験室〉である。

【台詞】アーネスト・ゲルナー「アメリカ合衆国では、実験室がすぐに手の届くところにあったのだ」

【台詞】アーネスト・ゲルナー「人類学者が夏の間に訪問することができるよう、ネイティブアメリカンを都合よく閉じ込めた保留地さ」

★「帝国主義的ノスタルジー

「人 類学者や支配的な民族や統治者だけが、先 住民や研究対象を名指すだけでなく、「被支配者の側にも支配者をエスニシティや人種 として名指す行為」がある。なぜ、被支配者の側にも、それがあるのか? その多くは対抗的行為と言われ、また両者の間にはコロニアルな構造がいまだ継続中 であるからだ。太田好信(2017:20)はこのことを 指して、人種やエスニシティとは、自然界や社会的な違いによる客観的な分類とは言えず、それらは「政治的分類」であると指摘する。ジュディス・バトラーら のフェミニズムの議論に 引きつけて言うと、セックスやジェンダーもまた、自然や社会的な違いによる客観的分類ではなく、セックスやジェンダーは政治的分類概念なのである」名指す人類学から「名指しから反省する」文化人類学
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人類学の複雑性
18.    人類学の加担
18. 人類学の加担

人類学者は、植民地執行官を訓練した。役に立つ情報は何も得られなかったと執行官からは批判されたとはいえ、人類学者は彼らに報告も行った。

【台詞】植民地執行官「人類学者が我々に役に立つことを伝えたことは、これまで一度もなかったんだがね。だとすれば、何が新しいというのかね」

【台詞】アナザシ「人類学者がどれほど積極的に植民地主義に加担したかについては、多くの論争があるんだよ」

タラル・アサドは、彼の有名な編著『人類学と植民地的出会い』(1973)において、人類学が〈植民地主義の下働き〉という役割を果たしていたと指摘し た。帝国主義のイデオロギーは、人類学を生んだ知的かつ哲学的なルーツと同じものによって支えられており、これらを共同の仲間としたのである。人類学が植 民地主義をつくり出したわけではないものの、人類学の起源は確かに植民地主義と一緒におこった現象である。

タラル・アサドの宗教人類学

「ポストコロニアルとは、ポスト(後の、という時間的 概念)、コロニアル (植民地的、という空間的ならびに精神的概念)という造語法によるできた言葉で、植民地主義以降の、あるいは脱植民地状態(コロニアルな状況の後に/終焉 後の)という意味がある」ポストコロニアル
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倫理の違反
19.    倫理の冒涜
19. 倫理の冒涜

より近年では、東南アジアでのアメリカ合衆国の新帝国主義的な紛争に関する軍務のなかで、人類学者は詳細な情報を収集した。すなわち、人類学内部での倫理 の再検討を必要とするスキャンダルであった。

【台詞】植民地執行官「人類学者たちは、企業の帝国主義的な業務にも貢献しているぞ」

【台詞】植民地執行官「あいつらは、マクドナルドのようなグローバル企業に対して、現地の人びとについての〈民族誌的報告〉を提供しているんだ」

フィールドワーク研究の倫理
植民地的想像力
「1970 年代初頭におこなわれた、山口昌男と本多勝一の論争ほど、私にとって当時も今も虚しいものはない。私は、大学に入学して山口昌男の論集 『人類学的思考』(筑摩書房版)に魅了され、『知の遠近法』『文化と両義性』さらには『本の神話学』に魅了されていった。しかし、私は高校生か大学予備校 時代に『思想の科学』において本多勝一の人類学批判を先に読んでおり、山口昌男の反論(=あえてて単純化すれば、自分は調査される側の迷惑や困惑を乗り越 えてあえて文化相対主義の立場に立つのだ)は、どう考えても分が悪く、あげく本多が属している朝日新聞を所詮体制側の大新聞(これは全共闘用語で「ブル新 [=ブルジョア新聞])と言いすてるやり方には、非常に違和感を覚えた(ことを覚えている)」山口昌男と本多勝一 論争の〈深層〉について
20
ルーツに戻ると・・
20.    ルーツへの回帰
20. ルーツへの回帰

ここまでのところで、人類学の従来型の歴史を支える哲学的ルーツを見てきた。これらは、人類学が依拠し、どのように作動するのかを方向付けた基盤である。 これらのルーツと、モダン人類学の系譜、そして4つの学術的ディシプリンの分派とを結び合わせるために必要なのは、以下のものである。

1つの特徴:〈未開〉

2つの理論:進化主義伝播主義

1つのイデオロギー:人種

アナザシ「つまり、俺に戻って来るんだよ!」

人種
イデオロギー

・ 「文化人類学とは、人間につい て、「文 化」という概念を中心に、経験的な調査法(=おもにインタビューと参与観察)を動員して、〈他者〉と〈他者がおりなす社会〉を観察し、そのことを 具体的に考察する学問分野です。人類学者が考える文化の概念がきわめて多義的であるとともに、人間の生活一般におけるもろもろの 現象を包摂するものであったために、文化人類学はきわめて学際的な学問であることが特徴です」文化人類学とは?
21
必要不可欠な未開
21.    必要不可欠な未開性
次回はこちら→「02: 文化人類学ガイドブック

22
発明創発/でっち上げを思い描いて
22.    創造についての推論


23
何が最初に人類に到来したか?
23.    何が最初にあったのか?


24
生きている残存物=遺風(Living Relics)
24.    現存する遺風


25
肘掛け椅子からの眺め
25.    肘掛け椅子からの眺め


26
進化主義の諸理論
26.    進化主義の諸理論


27
生物なるものと社会なるものを統合する
27.    生物学的理論と社会的理論の統合


28
伝播主義の理論
28.    伝播主義理論


29
人種の詐欺(The Race Spindle, 人種という名の詐欺、てな意味で しょうか?)
29.    人種というペテン


30
フィールド研究
30.    フィールド研究


31
人類学の樹
31.    人類学の樹


32
自然人類学(Physicalであって Naturalぢゃないよ〜)
32.    形質人類学


33
多元発生説《対》単元発生説
33.    多元発生説vs単一起源説


34
人間生態学と遺伝学
34.    人間生態学と遺伝学


35
社会生物学の隆盛
35.    社会生物学の隆盛


36
遺伝子理論における人種の再焦点化
36.    遺伝子理論のなかで再焦点化される人種


37
初期の人類学との別の関連性(リンク)
37.    初期人類学との他のつながり


38
考古学と物質文化
38.    考古学と物質文化


39
人類学的言語学
39.    人類学的言語学


40
社会/文化人類学
40.    社会/文化人類学


41
文化とは何か?
41.    文化とは何か?


42
専門領域への細分化 (Increasing Specialization)
42.    専門領域の増加


43
民族誌の岩盤=基盤
43.    民族誌(エスノグラフィ)の根幹


44
異国人を書く(Writing the Exotic)
44.    エキゾチックを書く


45
フランツ・ボアズ
45.    フランツ・ボアズ 


46
ブロニスラウ・マリノフスキー
46.    ブロニスロー・マリノフスキー


47
フィールドワーク
47.    フィールドワーク


48
フィールドワークにおける人間生態学
48.    フィールドワークの人間生態学


49
生態人類学
49.    生態人類学


50
経済の問題
50.    経済という問い


51
ポトラッチ儀礼
51.    ポトラッチ儀式


52
ニューギニアの「ビッグ・メン」
52.    ニューギニアの〈ビッグマン〉たち


53
クラ交換
53.    クラ交換


54
経済人類学
54.    経済人類学


55
交換と交易のネットワーク
55.    交換と交易のネットワーク


56
形式主義《対》実体主義論争
56.    形式主義者と実存主義者の論争


57
マルクス主義人類学
57.    マルクス主義人類学


58
マルクスの進化論的見解
58.    マルクス主義的進化論の見方


59
世帯単位(The Househould Unit)
59.    世帯単位


60
家族の形態
60.    家族の形態


61
婚姻紐帯(The Marriage Links)
61.    結婚紐帯


62
婚資、あるいは婚礼[契約]資金
62.    結婚契約にかかる支払い


63
親族の研究
63.    親族研究


64
親族記号
64.    親族コード


65
類別的親族 (Classificatory kinship)
65.    類別的親族


66
擬制的親族(fictive kinship)
66.    疑似的親族


67
出自理論(descent theory)
67.    出自理論


68
結婚と居住の規則
68.    結婚と居住の規則


69
親族用語
69.    親族の表現方法(イディオム)


70
親族の「効用(use)」とは何か?
70.    親族の〈効用〉とは何か?


71
連帯理論と近親相姦の禁止
71.    縁組理論とインセストタブー


72
心のなかの構造
72.    心(マインド)のなかの構造


73
基本的構造の形態
73.    基本構造の形態


74
縁組理論は本当にうまくいっているのか?
74.    縁組理論は役に立つのか?


75
政治と法律
75.    政治と法


76
オマケの例
76.    その他の事例


77
用語法的研究
77.    用語法(ターミノロジー)的アプローチ


78
政治人類学
78.    政治人類学


79
年齢階梯社会
79.    年齢階梯社会


8
共時的《対》通時的見解
80.    共時的視点vs通時的視点


81
他の社会階層化
81.    その他の社会階層


82
交渉するアイデンティティ
82.    交渉するアイデンティティ


83
エスニシティ(民族性)の諸問題
83.    エスニシティの諸問題


84
植民地主義
84.    植民地主義


85
反ー資本主義的人類学
85.    反-資本主義人類学


86
法の人類学
86.    法人類学


87
口論解決のメカニズム
87.    係争処理のメカニズム


88
宗教
88.    宗教


89
シャーマニズムとカーゴ・カルト(積荷崇 拝)
89.    シャーマニズムとカーゴカルト


90
聖と俗
90.    聖と俗


91
魔術/呪術の人類学
91.    呪術の人類学


92
信念をめぐる論争
92.    信念についての論争


93
儀礼の検討
93.    儀礼の検証


94
通過儀礼
94.    通過儀礼


95
神話の研究
95.    神話研究


96
クロード・レヴィ=ストロース
96.    クロード・レヴィ=ストロース


97
二項対立と構造
97.    二項対立と構造


98
象徴とコミュニケーション
98.    象徴(シンボル)とコミュニケーション


99
象徴と社会過程
99.    象徴(シンボル)と社会プロセス


100
アクター、メッセージ、コード(行為者/ 伝達内容/暗号)
100.    主体(アクター)、メッセージ、コード


101
シンボリズムと新しい見解
101.    象徴主義と新たな視点


102
芸術の人類学
102.    芸術人類学


103
映像人類学
103.    映像人類学


104
消失してゆく世界
104.    消えゆく世界


105
新しい枝か?古い根っこか?
105.    新たな枝派か?あるいは古根か?


106
フィールド経験を書きたてる (Writing up the field)
106.    フィールドを書き上げる


107
現在において書く
107.    現在において書く


108
自己[回帰の]人類学(Auto- Anthropology)
108.    自己回帰の人類学


109
二重のテポストラン、闘争的テポストラン
109.    テポツォトラン論争/テポツォトランの2つの顔


110
テポストラン再訪
110.    テポツォトラン再訪


111
人類学とは科学なのか?
111.    人類学は科学なのか?


112
科学のふりをすること
112.    見せかけの科学


113
インディアンは居留地を出る
113.    保留地の外へ出たインディアンたち

114
誰がインディアンのための語るのか? 114.    誰がインディアンのために語るのか?

115
神としての白人
115.    神としての白人

116
権威の神話
116.    権威神話

117
出来事の位相
117.    出来事の地平線


118
自己批判的人類学
118.    自己批判の人類学


119
人類学のヒーロー
119.    人類学の英雄


120
ミード神話の没落
120.    ミード神話の崩壊


121
観察される観察者
121.    『観察される観察者』


122
粘土の足
122.    もろい基礎


123
自己投射の議論
123.    自己投射の問題


124
文化を書くこととポストモダニズム
124.    文化を書くこととポストモダン


125
ポストモダンの麻痺
125.    ポストモダンの無気力感


126
人類学における女性
126.    人類学の女性たち


127
人類学者たちの親族紐帯
127.    人類学者の親族紐帯


128
フィールドの協力者
128.    フィールドの協力者


129
フェミニスト人類学
129.    フェミニスト人類学


130
フェミニスト人類学の位置づけ
130.    フェミニスト人類学の位置付け


131
未接触の人々
131.    穢れなき民


132
ヤノマモ・スキャンダル
132.    ヤノマミ騒動(スキャンダル)


133
内戦を創り出す
133.    生み出される内乱


134
人類学はどこへゆく?
134.    人類学はどこへ行く?


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