はじめに よんでください

医療やケアのグローバル化に伴うコミュニケーションの問題をあぶり出す

On human communication problems under Globalization of Medicine and Health Care










第10回日本ヘルスコミュニケーション学会学術集会:テーマ「国際化と医療コミュニケーション」2018年9月14日(金)14:10-15:40 九州大学病院キャンパス・コラボステーションI(2階)視聴覚ホール

シンポジウム01:「医療やケアのグローバル化に伴うコミュニケーションの問題をあぶり出す」

座長:池田光穂 演者:大北全俊(東北大学)・徐淑子(新潟県立看護大学)・中村紗絵(京都大学)

《初期構想》

大北さんには、HIV対策や患者のエンパワメントや行 動変容に関する文化的な差異をどう考えるのかを、(ソウ)さんには、薬物利用者のハームリダクション政策の社会的背景や文化モデルと現実とのギャップについて を、中村さんには、グローバル化する高齢化への社会的対策認知症生物医学モデル(病院や国家政策)と文化社会モデル(日常生活実践)の相克についてを、 総じて、私(池田)としては、医療人類学者マーガレット・ロックの「ローカルバイオロジーズ」を手がかりに考えたい(=まとめたい)と思います。

《予行集原稿》

大北全俊[おおきた・たけとし](東北大学):HIV感染症の新しい国際的ムーブメントをどのように日本語に翻訳するべきか:「U=U(Undetectable=Untransmittable)」キャンペーンについて

HIV感染症の予防対策はこの10年ほどの間に新し い段階に入ったと言われセーファー・セックスなど行動変容を促すアプローチに代わり、治療で使用する抗レトロウイルス薬 (antiretrovirals:ART)を感染予防として使用する戦略が主流となりつつある。なかでも、HIV陽性者がARTにより血中のウイルス量 が低下することによって、同じく感染力も低下することに目が向けられている。「治療としての予防 Treatment as prevention:TasP」と呼ばれWHOも採用する主な予防戦略となっている。このような予防技術・戦略の変化をうけて、2016年ごろより 「HIVの血中ウイルス量が検査の検出限界以下(200copies/ml以下が主流)であれば感染力はなくなる」というメッセージを広く普及させること を狙って「U=U(Undetectable=Untransmittable)」というキャンペーンが米国を起源として広がりつつある。

しかし、日本ではまだこのような国際的な予防戦略の 動きが根付いているとは言えず、2017年に開催された第31回日本エイズ学会学術集会でもU=Uはキャンペーンとして紹介されたが未だ知る人ぞ知るとい う状態と言っていいだろう。このような国際的な動きと日本の現状とのギャップが意味するものは何か、U=Uの意味するところを確認し、日本への導入の可能 性について検討する。

徐淑子[そう・すっちゃ](新潟県立看護大学):大麻規制緩和時代の「ダメ。ゼッタイ。」とキャンパス・ヘルス

2018年現在、ウルグアイ、カナダ、アメリカ合衆 国のいくつかの州が大麻の娯楽使用を合法化した。そして、EU諸国やラテンアメリカ諸国では、大麻を合法化するという方向ではなく、大麻を含めた薬物の個 人使用や少量保持を非犯罪化あるいは軽犯罪化することが先行し、国によっては医療大麻の導入を行っている。そして、アジア諸国は、傾向としては薬物に対し 厳しい政策を敷いているといえるが、大麻にかんしては、現在、タイ、フィリピン、韓国が医療大麻の法制化を検討している。しかも、韓国では2018年中の 法案成立が予測されている。つまり、疎放な表現になるが、世界的な動向として「大麻使用の規制緩和」が進んでいるわけである。これら一連の情報は、各種メ ディアをとおして、あるいは海外居住や旅行の経験をとおして、日本の一般市民にも到達していると思われる。その結果、日本でも、「大麻はほんとうに悪いも のなのか」という漠然とした疑問をもつ人は増えていることであろう。つまり、大麻「ダメ。ゼッタイ。」の無効化が始まっているのである。

このような、状況の中、知的好奇心や活動性・活動範 囲が急速に拡大する大学生世代に対し、どのような薬物教育ができるであろうか。本報告では、まず、アルコール、タバコを含む薬物の危険度評価研究の解釈、 一般の人々が潜在的なエンドユーザーとして思い描く「合法」と、法的な意味での「合法」との間の隔たりの問題など、専門知と一般イメージの乖離を指摘す る。その上で、ヘルス・コミュニケーションの考えを軸にした「安全なキャンパス・ライフ」プログラムの提案をする。

中村紗絵(京都大学):老年期の不調に対する非専門家によるケア実践とコミュニケーション―スリランカの事例から

スリランカは南アジアのなかで最も高齢化率が高い国 として知られ、高齢化対策への国際的機運を背景に制度化もすすめられてきた。しかし現実には、老年扶養における家族主義を軸とする社会保障制度が採られて おり、若年層の国内外出稼ぎと家族関係の変容といった現代の状況に対応するには、資格や特別なトレーニングの経験をもたない「非専門家」たち(家事労働者 などをふくむ)の存在が不可欠となっている。本発表では、そうした非専門家の一例として、ある老人施設で働くスタッフたちによるケア実践をとりあげる。具 体的には、老年期における精神的・身体的不調への、手持ちの知識に照らし合わせた解釈、与えられた(限られた)設備・環境下における介入、言語的/非言語 的コミュニケーションを通じた関係形成を示し、生物医学モデルに基づく介入と比較した際の特性や意義、そして相克について論じる。またこの事例を通して、 医療福祉的介入における「文化(culture)」や「大衆(mass)」の考え方について再検討することをめざす。

■オーガナイザー(池田)側の見通し

ローカルバイオロジーズと は、生物医学モデルは現地での適用と社会文化にもまれることをとおして現地では共通化していく概念や実践の極があり、他方では、広域的には生物医学の適用 形態は多様化しするモーメントがあるということです。それらの二極の対立を媒介する概念はエピジェネシスなどの遺伝と(後天的成育)環境のダイナミズム です(下記参照)。また私は、保健医療人材の国際移動についても研究しており、グローバル化は、情報(the Pluralistic Medicalization Model, 下記の図参照)と物流の地球規模化のみならず、人間の移動の地球規模化であるとも考えています。

大北さんは生命倫理学(ソウ)さんは保健行動論、中村さんは 文化人類学と、それぞれ、現場での観察やヘルス・コミュニケーション、そして現場で考察するという学問実践の専門家であられますので、ローカルな実践における[ソーシャルコ ミュニケーションや、臨床家などが「想像の共同体」のイデオロギーとしてその普遍性を信じて疑わない専門家のコミュニケーションのギャプや相克などをあぶ りだせば、私たちのような「現場の学問」の意義や方法論への関心を促すことができれば、ある程度成果が期待できるのではないかと思います。

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クレジット:池田光穂「医療やケアのグローバル化に伴うコミュニケーションの問題をあぶり出す」

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